第24話 父からの連絡
メッセージの着信音で目が覚める。
布団からスマホを手繰り寄せるとまだ朝六時だった。
学校があるならいざ知らず、夏休みで早くも生活がだらけはじめた俺には早すぎる時間だ。
「誰だよ……」
メッセージの差出人を確認して一気に目が覚めた。
「父さんっ!?」
機械嫌いの父さんがメッセージを送ってくるのは珍しい。
一人暮らししてからは、はじめてだった。
『おい、
文面を見て青ざめる。
間違いなく妹の春花が口を滑らしたのだろう。
「やべぇ……どうしよう……」
────
──
「お父様にバレた?」
香月さんは小鳥のような仕草で小首をかしげる。
「バレたというか、勘違いなんだけど」
「なにがバレたのでしょうか?」
「いや、その……」
「私が力になれることがあればなんでもします。仰ってください」
そんなに前のめりに来られると余計切り出しづらい。
「実はその……俺に彼女が出来たと勘違いしてるみたいで。たぶん春花が口を滑らせたんだろうけど」
「えっ!? そ、それってもしかして私のことですか!?」
「恐らく……」
香月さんは一気にボッと顔を赤らめた。
「違うと電話で説明してもどうせ信じてくれない。早とちりで勘違いする家系なんだよ。妹も父さんもそんな感じで」
「そうなんですね」
「しかも父さんは一度決めたら譲らない人でさ。彼女連れてこいとしつこく迫ってくると思う。直接顔を合わせてしっかり否定しないと」
「よ、よければ私が一緒に行きましょうか? その、別に大丈夫ですし」
「そんなの悪いよ。わざわざ彼女じゃないって説明するためだけに俺の田舎まで付き合ってもらうなんて」
申し訳なさすぎて固辞すると、なぜか香月さんは不服そうに眉を潜めた。
「……家系には『早とちり』で『勘違い』に『鈍感』も付け加えた方がいいかもしれません」
「え? なに?」
「なんでもありません。とにかく私は一緒に行きますから」
「それほど遠いわけじゃないけど面倒だぞ?」
「いいんです。それに一度相楽くんの生まれ故郷を見てみたかったですし」
「そう? 正直助かるよ。ありがとう」
彼女じゃないと俺一人で説明するより、香月さんに来てもらって否定してもらった方が父さんも納得するだろう。
「いつ行くんですか?」
「なるべく早くがいいんだろうけど……」
「じゃあ明日にしませんか? 明日はちょうど父もいないので少し遅くなっても問題ありませんから」
「それは助かる。なにせうちの父さんはせっかちだから」
面倒に思えた父さんへの説明も、香月さんと一緒に行けると思うと少し楽しみになる。
「でもなんでお父様は相楽くんの彼女と会いたいんですか?」
「昔から俺に彼女が出来るのを楽しみにしてるんだよ。彼女が出来たらすぐ紹介しろってうるさくて」
父さんの異常なこだわりにドン引きしたのか、香月さんは表情が曇る。
「……じゃあ歴代の彼女さんもみんなお父様に挨拶を?」
「はあ? まさか。てか彼女いたことないから」
「そうなんですね!」
先ほどのどんよりした顔が嘘のように、ぱぁっと笑顔になった。
「あ、でも待ってください」
「なに?」
「明日ご実家に行って彼女はいない。勘違いだって説明されるんですよね?」
「そうだけど?」
さっきからその話をしているのに今さらなんの確認だろう?
「それじゃお父様がっかりされるんじゃないですか?」
「そりゃ、まあ……そうだろうね。なにせ彼女が出来て一人前だとか言っちゃう教育方針の人だし」
「わざわざお会いしてガッカリさせるなんてお父様に申し訳ない気がします」
「まぁね。やっぱ俺一人で行くから香月さんは──」
「彼女ってことにしませんか?」
香月さんは強張った笑顔で自分を指差す。
「……は?」
「で、ですから……私が本当に相楽さんの彼女って紹介するんです」
「いやいやいや! それはまずいでしょ、色々と!」
突拍子もない提案に面食らって声が上擦った。
「でもその方がお父様も安心されるんですよね」
「そ、そりゃそうかもしれないけど……」
「騙すのは心苦しいですか?」
「まあ、それも少しはあるかな」
「でもわざわざガッカリさせるために会いに行くのも忍びないです」
「うん、まあ……」
父さんを騙すのが心苦しいというよりは香月さんにそんな嘘の芝居をさせる方が心苦しい。
「じゃあその作戦で行きましょう! ご両親には彼女を連れて帰るってお伝えください」
「……わかった。伝えておく」
香月さんの最後の一言を聞いた瞬間、動悸が激しくなり胸が高鳴ってしまった。
だからついそれ以上反対をせずニセ彼女プランを受け入れてしまった。
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