第21話 陽祐のターン
ハプニング後はまた四人で泳ぐこととなった。
今度は中央にある大きなプールだ。
スイカのボールを投げ、それを広いに行くという、特にルールもないフワッとしたゲームで盛り上がる。
泳ぎが苦手な陽祐はなかなかボールを奪えず、すぐに沖田さんに取られて悔しがっていた。
「相楽、俺の近くに投げろ!」
「はあ? そういうインチキは禁止だかんね!」
相変わらず二人はじゃれ合い口論を続けている。
「ほら!」
ボールをパンチすると思わぬ飛距離が出た。
沖田さんは我先にと泳ぎ出す。
「今度は負けねぇから!」
陽祐が泳ぎだしたその時──
「痛っ! 脚が攣った!」
沖田さんが溺れたように両手をバシャバシャさせる。
「マジかよ!? 大丈夫か?」
陽祐はそれまでとは比べ物にならない速度で泳ぎ、沖田さんを背中から抱いて救出する。
泳ぐのが遅い振りをして沖田さんにボールを取らせていたのだと今さら気付いた。
「ちょっ!? 陽祐、おっぱいに手が当たってるから!」
「いまはそれどころじゃねぇだろ!」
沖田さんを抱えたまま器用に泳ぎ、あっという間にプールサイドに上げた。
「陽祐、沖田さんを椅子に座らせて」
「わかった」
攣った左脚の指先をぐいっと曲げる。
「あ痛たたっ」
「ごめん。我慢して」
脚が攣ったときはこうするのが一番だ。
「どう? よくなってきた?」
「うん。少しましになってきた。けどまだ痛いかも」
「ビックリしました。でもなんにもなくてよかったです」
香月さんは安心した様子で沖田さんを見る。
「ったく! はしゃぎすぎなんだよ、沖田は」
陽祐が呆れた顔で叱ると沖田さんは「ごめん」としゅんとなる。
「陽祐のおかげで助かった」
「ま、まあなんもなくてよかったけど……」
陽祐は怒りながら照れた様子で顔をプイッと背けてしまう。
いまが好感度アップのチャンスな気もするが、そんなところも陽祐らしくて嫌いじゃない。
「歩けそう?」
「んー……まだ無理かな」
「そっか。悪いけどちょっとふくらはぎをマッサージさせてね」
「マ、マママッサージするんですか!?」
躊躇ったのは沖田さんじゃなく、なぜか香月さんだった。
「ん? どうしたの?」
「い、いえ……その、私以外の女の子に……えっと、その……マッサージ……」
ゴニョゴニョ喋っていてうまく聞き取れない。
「そういえば相楽くんってマッサージ得意だったんだよね。お願いするね」
「わかった」
沖田さんの脚を取り、ふくらはぎに手を当てる。
香月さんと違い、ピチッと引き締まったアスリートの脚だ。
「これは痛い?」
「んー? ちょっとだけ」
「そうか。よし」
下から上へとゆっくりと揉んでいく。
張りがあるが筋肉はしなやかで柔らかい。
押し戻される弾力で皮下の筋細胞の形を感じていた。
「あー、なんかいい感じかも。楽になっていく」
「き、気持ちよくありませんか?」
香月さんはやけに真顔で沖田さんを覗き込む。
「え? あ、うん。気持ちいいよ」
「そ、そうじゃなくて、その、もぞもぞするっていうか」
「ん? そんな感じはないけど?」
「そ、そうですか。失礼しました」
なぜか香月さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
しばらくマッサージをし、痛みが引いたというので少し早いが帰宅することとなった。
「最後に見せ場作れてよかったな」
更衣室でシャワーを浴びながら陽祐をからかう。
「別にそんな見せ場ってほどじゃないだろ」
「そんなことないって。沖田さん、かなり陽祐に感謝してたし」
「そうかな?」
陽祐はまんざらでもない顔で首を傾げる。
ハプニング続きたったけど、収穫のあるプールだった。
しかし夏休みの約束はここまでだ。
今後香月さんとの距離を縮めていくには、自分でなにか誘ったりしなければならない。
着替え終わって待っていると、女子二人が笑いながらやってくる。
「すいません。お待たせして」
「ごめんね。私のせいで早めに切り上げさせちゃって」
「そんなこと気にすんなよ」
「で、更衣室で香月さんと話して、今度四人で花火しようって話になったんだけど。どう?」
「おおー! いいね! 楽しそう!」
「やるやる!」
即答でオッケーすると香月さんと沖田さんは目を合わせて微笑む。
俺一人なら度胸がなくてなかなか誘えなかっただろう。
沖田さんに感謝せずにはいられなかった。
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