第17話 作戦会議

「しかし相楽が香月さんとそんなに仲良くなってるとはなー」


 プールの事前作戦会議と称してやってきた陽祐はニヤニヤしながら俺の二の腕をパシパシ叩いてくる。


「陽祐が思ってるほど仲良くはないよ」

「へぇ。そっか。二人きりでお祭りデートするのは『それほど仲良くない』んだ。へぇ。香月さんは浴衣まで着てたのに?」

「その言葉、特大ブーメランだぞ? 陽祐こそ沖田さんと浴衣デートする仲だったんだな」

「違っ、バカ、だから、あれは、その、家が近所だしっ」


 陽祐は顔を真っ赤にしてうろたえる。

 打たれ弱いのに攻撃してくるとは愚かな奴だ。

 素直になれるようにもう少しいじってやるか。


「冗談だよ。陽祐と沖田さんがそんな関係じゃないってことくらい知ってる。そもそも沖田さんには彼氏いるしな」

「はあ!? 誰と付き合ってるんだよ! いつから!? 俺、聞いてねぇし!」

「嘘だよ。なに焦ってんだよ? やっぱ沖田さん好きなんだな」


 まんまと罠に引っ掛かった陽祐は顔を真っ赤にして俯く。


「素直に好きだってコクれば?」

「い、今さら言えるかよ……恥ずかしいし」

「そんなこと言ってていいの? 他の奴に取られるかもよ?」

「沖田が? ないない。あいつが男と付き合うかよ」


 陽祐はへらへらと笑いながら手をぱたぱたと振る。

 完全に幼馴染みポジションに落ち着いてしまっている典型例だ。


「陽祐は知らないのかもしれないが、沖田さんの隠れファンは多いぞ。これはマジだ」

「まさか……あはは……あいつにファン? 真っ黒に日焼けしてて、色気もなくて、がさつな沖田にファン? ないだろ。あり得ないだろ。あはは……」

「スラッとしててかっこよくて、だけど仕草が女の子らしいし、笑顔が可愛い」

「お前っ! 沖田にそんなこと思ってたのかよ!」

「俺じゃない。そういうこと言ってる奴が多いんだよ」


 陽祐の笑顔はだんだん歪んでいき、今はほぼ泣き顔だ。


「マジかよ……どうすれば……」

「まだ間に合う。夏休みの間にコクっちゃえよ」

「いや、でも……」

「じゃあ沖田さんが他の男と付き合ってもいいんだな?」

「それはっ……こ、困るけど」


 いつもは明るく陽気で、ちょっといい加減な陽祐が真剣に悩んでいた。


「高一の夏休みだぞ? ここで付き合えたら華やかな高校生活が待っている」

「逆にフラれたら地獄だろ? ほぼ三年間フラれたら相手と顔合わすんだぞ? ていうか俺の場合は家近所だし、高校卒業しても会うかも」

「確かに。でも行動起こさずに後悔する方が辛くない?」

「……それもそうだな。よし、じゃあ夏休み終わるまでに俺たち二人とも告白しようぜ!」

「は? なんで俺まで? 俺と香月さんはそんな関係じゃないから」

「だったら相楽は香月さんが他の男と付き合ってもいいのかよ?」

「それは……」


 自分で陽祐に言ったことなのに、自分に置き換えるとかなりのダメージがあった。


「夏休みは長いんだぞ? その間に親密になれるだろ!」

「まあ告白はさておき、もっと仲良くなれるように頑張るよ」

「おう!」


 なんだかよく分かんないけどハイタッチをしてテンションを上げた。


「にしても香月さんと浴衣デートするなんて相楽はマジでスゲーな」

「だからデートじゃないって」

「いや、香月さんと二人で出掛けるって時点ですごいんだよ。あの子、めちゃくちゃモテるのに男と出掛けるってしたことないらしいよ。一対一じゃなくて大人数でも」

「へぇ。そうなんだ」


 父親が厳しいのが理由なんだろう。

 でも男子と遊びに行ったことがないというのはさすがに意外だった。


「プールではなるべく俺と沖田、相楽と香月さんが二人になるように動こうぜ」

「了解。でもあんまあからさまにすると警戒されるかもよ」

「そうだな。そこは自然にうまくやろう」


 一人で悶々とするより陽祐という仲間がいるのはなんだか心強い。

 お互い相手を引き立てて見せ場を作る作戦を練っていた。

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