第16話 ばったり遭遇
花火もなければ盆踊りもない、地元だけの静かなお祭りだ。
家族連れ以外は小学生か中学生ばかりが目立つ。
引っ越してやって来た俺は、もちろん今年が初参加だった。
「香月さんは毎年このお祭りに来てるの?」
「ううん。お祭りはガラの悪い人来るからという理由で禁止されてました」
「なるほど」
会ったことはないけど、いかにも香月さんのお父さんらしい発言で苦笑する。
「相楽さんは地元のお祭りに毎年参加されていたんですか?」
「まぁそうかな。友だちとおみこし担いでた」
「へぇ! 素敵ですね! 憧れます、そういうの」
「そう? クラスの女子はほとんど冷めた目で見てたけど」
俺にとっての当たり前が香月さんには珍しく、香月さんの当たり前が俺には新鮮だ。
なんだかまた一つ香月さんの一面を見れた気がして嬉しい。
ラムネを飲みながら視線を道行く人に向けると──
「えっ!? 陽祐!?」
「さ、相楽……」
浴衣を着た陽祐と視線があった。
香月さんと一緒にいるところを見られるのはまずい。
しかし逃げたり隠れる暇もなく、陽祐は俺の隣に座る香月さんを見て目を丸くさせた。
酸欠の金魚のように口をパクパクさせている。
「ちょ……おま……」
「ち、違っ……これは!」
「香月さんじゃん!」
驚いた声を上げたのは陽祐の隣にいた沖田さんだった。
ばっちり浴衣を来て手には綿菓子、頭にはお面と祭りを満喫した姿だった。
「なんで相楽くんと香月さんが一緒にいるわけ!? 付き合ってんの!?」
「そ、そうじゃなくて……てか陽祐と沖田さんこそ付き合ってるの? お揃いで浴衣なんか着ちゃって!」
「ち、違うし!」
指摘すると沖田さんは顔を真っ赤にして眉をつり上げる。
隣の陽祐はあたふたしていた。
「お二人はお付き合いされていたんですね」
「こ、香月さんまで! そぉいうんじゃないから!」
沖田さんは手をぱたぱた振って焦り顔で否定する。
「ひ、暇だから沖田とふらっと祭りに来ただけだから! 幼なじみで近所だし、普通だろ!」
「暇だから? へぇ。わざわざ浴衣まで着て?」
「俺たちのことはいいだろ! それより相楽と香月さんの話をしてるんだ!」
うまく話をそらしたつもりだったが、やはりその追求は避けられそうもなかった。
仕方ないのでこれまでのいきさつを説明する。
リハビリの件についてはすでに陽祐には話していたが、沖田さんのためにそこから説明した。
「なるほどねー。そんなことがあったんだ」
沖田さんは大きく頷きニコニコと香月さんを見る。
陸上部の沖田さんはショートヘアで健康的に日焼けしている。
そんな彼女が浴衣を着るとアンバランスながら独特の魅力があった。
「相楽くんにはお世話になりっぱなしなんです」
「その恩返しで料理や洗濯もしちゃってるんだ」
「な、なんでそれをっ!?」
図星を当てられ思わず動揺してしまうと、沖田さんはニヤリと笑った。
「へー、本当に家事してるんだ? 相楽くんが一人暮らしだからもしかしてって適当にかまをかけただけなのに」
まんまと騙され、事実を暴露してしまった。
「マジか!? 香月さんに料理作ってもらうとか羨ましすぎる! 許せない!」
「はあ!? 私もたまに陽祐のごはんとか作ってあげてるでしょ!」
沖田さんはわりとマジでキレぎみに陽祐の肩をひっぱたいていた。
ほんと、そういうところは気を付けた方がいいぞ、陽祐……
香月さんはそんな二人を見てクスクスと笑っている。
「お二人は仲がいいんですね」
「はあ!? どこが? 今のどこを見てそんな感想になるわけ!?」
「俺と沖田は腐れ縁ってやつだから」
浴衣でお祭りデートしておいて『腐れ縁』のひと言で済ますのは無理があるだろう。
素直じゃない二人というのは周りをやきもきさせる。
取り敢えずお互い今日ここで会ったことは内緒にするという約束になり、その後は四人でお祭りを回った。
「なんかいいですね、こういうの」
「こういうのって?」
「友達四人で夏祭りを楽しむことです。青春って感じしませんか?」
香月さんはにこりと微笑む。
提灯の温かくてぼんやりとした光に照らされたその姿は幻想的に美しかった。
「そうだな。なんかいいね、こういう雰囲気」
「あ、そうだ! だったら今度四人でプール行かない?」
沖田さんがポンと手を叩いて提案する。
「おー! いいな、それ!」
「はあ? 陽祐は香月さんの水着が見たいだけじゃないの?」
「ち、違うし! たまにはプールとかも楽しいだろ!」
「嘘くさい。てか陽祐は四人に含まれてないから」
「はあ!? なんでだよ! 俺じゃなきゃあと一人は誰なんだよ!」
陽祐と沖田さんはすぐに口喧嘩をはじめてしまう。
常にこの調子だからもう俺も慣れたけど。
「どうする? プール、行ってみる?」
「相楽くんはどうですか? 行きたいですか?」
水着の件で照れているのか、香月さんは顔を赤くしていた。
「俺は行きたいな。水泳は足に負担もかけないからリハビリにもいいかもよ」
「なるほど! じゃあ私も行きたいです!」
「よし! 決まりね!」
「俺も行くからな!」
香月さんと沖田さんは連絡先を交換する。
でも陽祐は香月さんと連絡先の交換をしなかった。
チャラけてふざけているけど、陽祐は沖田さん以外の女の子には興味ない。
沖田さんもそういうところをちゃんと気づいてあげればいいのに、とちょっと歯がゆくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます