第11話 特別なクラスメイト
ウォーキング後に家に戻り、香月さんが持ってきた手作りスイーツでお茶にする。
「うわぁ! これ、香月さんが作ったんですか!?」
「うん。まだまだ改善の余地があるけどね」
今日持ってきてくれたのはカップ入りのシフォンケーキだった。
ふわふわの生地にパウダーシュガーを振りかけ、中には生クリームが入っている。
見た目も味も市販のものと遜色ない。
いや、下手な市販品より完成度が高かった。
春花が驚くのも無理はない。
「プロが作ったやつみたい! 今度作り方教えてください!」
「もちろん! いつでもいいよー!」
はじめは固い口調だった香月さんも打ち解けたのか、軽い口調になっている。
誰とでも仲良くなれるのは春花の特技と言っていい。
「香月さんはお菓子だけじゃなくて料理も上手なんだ。春花も見習えよ」
「料理? なんでお兄がそんなこと知ってるの?」
「そ、それはだな……」
つい調子にのって口が滑ってしまった。
「お菓子なら学校に持っていくこともある。けれど料理となるとそうもいかない。そしてお兄は一人暮らし。さてお兄はどこで香月さんの料理を食べたのでしょう?」
最近ミステリーにハマっている春花は指をくるくると俺の目前で回す。
「リハビリのお礼に料理を作らせてもらっているの」
「やっぱりー。普段から彼女を部屋に上げてるんだ?」
「だから彼女じゃないって。しつこいな」
「はいはい。確か『ただのクラスメイト』だったよね、確か」
生意気な妹は澄ました顔で煽ってくる。
「ただのクラスメイトじゃない。と、とても大切なクラスメイトだ」
勢いでそう言うと香月さんは顔を一気に火照らせた。
春花はなんだか満足げに笑って頷いている。
「じゃ、私はそろそろ帰るから」
「夕飯食べていかないのか?」
「そこまで鈍くないから。お兄と違って。じゃあお邪魔しました、香月さん。また会おうね!」
「はい。また今度ゆっくりと」
そう言い残すと春花はさっさと出ていってしまった。
『お邪魔しました』っていうのは一応家主である俺に対して言うことだろ、普通。春花は相変わらずしっかりしているようで抜けている。
「ごめんね、香月さん。うるさい妹で」
「ううん。元気で可愛い。相楽さんとも仲良しみたいですし。私は一人っ子だから羨ましいです」
「まあ仲はいいけど」
相楽さんは兄妹がいないらしい。
こうしてだんだん香月さんのことを知っていけるのが嬉しかった。
「そういえば夕飯どうしよう? 食材があんまりないんだよね」
「じゃあ二人で買い出しに行きましょう!」
「よし。そうしようか」
香月さんと二人で買い物に行くなんてカップルみたいでちょっとドキドキしてしまう。
「そういえば相楽くんってなんでそんなにマッサージが上手なんですか? 以前お父さんのマッサージをしているというのはチラッとお聞きしましたけど」
「うちのお父さん、柔道やってるんだよ。日中は普通に働いているんだけど、夜に柔道教室やっててさ」
「へぇ。すごいですね」
「普通のサラリーマンだったのに柔道をもっと教えたいって言い出して、自分で小さな会社経営しはじめたんだ」
「そんなに柔道が好きなんですか!?」
「もちろん俺も子供の頃からやらされてた。でもあんま才能なくてね。人とぶつかり合うのが苦手っていうか」
「あー、分かります。相楽さん優しいからそういうの向かなさそう」
喜んでいいのか、悲しむべきなのか分からないが、香月さんはおかしそうにクスクス笑う。
「で、戦うより身体をケアする方が向いててね。柔道整復師って知ってる?」
「いいえ。存じ上げません。勉強不足ですいません」
「まあ接骨院の先生とかだよね。手術をせずに骨折や打撲、捻挫を直す職業なんだけど。そっちに詳しくなっていって。ついでにマッサージも覚えた。ざっくりいえばそんな感じかな」
「へぇ! すごいです! 本格的なんですね」
「俺の技術なんてそんな大したものじゃないよ。見様見真似。本当に柔道整復師になるためにはちゃんとした学校に行き、国家試験を受からないといけないんだから」
「将来はそちらの方に?」
「さあ、どうだろう。まだ決めてないけど」
「そんな特技があるなんてすごいことですよ。私なんてなんにもないですもん」
そんなに目を輝かせて誉められるほどのものじゃないのに、香月さんは大きな瞳を見開いて俺を見つめてくる。
「あるじゃないか、香月さんだって。頭いいし、性格いいし、その……可愛いし」
「へ……?」
香月さんはみるみる顔が真っ赤になる。
「も、もう! 人が真面目に話してるのにからかうのはなしですよっ」
香月さんはプイッとそっぽを向く。
照れすぎてパニクる香月さんは更に可愛いけど、これ以上言うと本気で怒られそうだからやめておいた。
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