第9話

 俺とシエルは旅に出ることに決めた。

 この街の外にすら出たことのない俺にとっては、この数日は心が落ち着かなかった。

 以前話を聞いた楽園へ向かった彼も、こんな気持ちだったのだろうか。俺の気持ちを知ってか知らずか、シエルは俺を見ては微笑み返してくれる。

「とうとう出発だね。クロ」

「ああ。やっと出発だ。俺達の楽園への旅立ちだ」

「絶対一緒に外の世界に行こうね」

「シエルを外の世界に連れてってやる。約束だ」


 この日のために、携帯食料として、シエルが好きな甘いものを集めていた。この街では、甘いものなどそうそう手に入らない代物だったが、シエルの為と思うと不思議と嫌ではなかった。

 

 出発してからはひたすら歩いた。知らない世界をいくつも冒険し、なかには光輝く宝物が、山のように集められた黄金の街や、俺の街では見たことの無い怪物達が蠢いている街、解読不能な文字が行く手を阻む城西都市など、旅に出なければ一生知ることの出来なかったであろう世界を覗くことが出来たのだ。

 もしかしたらシエルがいなければ、あの街で一生を終えていたのかもしれない。

 シエルの身を守りながらの旅は大変だが、それ以上に彼女に対する形容しがたい想いは、日に日に増すばかりだった。

 この気持ちは何なのか、旅を続ければ解るのだろうか。

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