第3話

 この街で暮らしている住人には三つのタイプが存在する。①本能の赴くままに生きる ②無為に時間を浪費して生きる ③違う生き方を模索する。大半の奴は、①②を選ぶ。ただ死ぬために生き続けている連中だ。それでも③の生き方を選ぶ奴も稀にいるのだ。


「南地区で惨殺事件があったらしいぞ」

「北東地区では通り魔の噂で持ちきりみたい」

「発見された遺体は腹が抉られてたってよ」

 ここでは噂話はすぐに広まる。娯楽に飢えているのだろう。今も噂話で持ちきりだ。

 近頃頻繁に猟奇殺人が起こっている。ただの殺人なら珍しくもないが、その手法はただ快楽のために殺人を行っているようなやり口で、まさにシリアルキラーと呼ぶに相応しい犯行だ。

 そんな殺人鬼が街中を闊歩しているかもしれないのに、まるで自分には関係無いと決めつけ噂話に興じる連中。

 己が被害に遭わない限り、危険はすぐそこにあるこのを理解しないだろう。


「最っ低ね!この蛆虫ヤローっ!」

 俺は蛆虫じゃないんだがなぁと、頬に手をやり一人呟く。

「―ねえ、あたしの事好き?」

 ベッドの中でそんなこと聞いてくる女は、大抵承認欲求の塊みたいな女だ。イエスと言ったところで素直に受け入れるわけでもない。真面目に返事をするのも面倒臭いタイプだ。

「何言ってんだよ。嫌いな訳ないだろ」

「嘘っ。何で私の事好きって言ってくれないの?本当は嫌いなんでしょ?」

 ワタシガワタシガってお前は自分が可愛いだけだろ。一度寝たくらいでカノジョづらするな。殺したくなる。

「好きでも嫌いでもない。本当に興味がないだけだ」

そう言うと、思いっきり頬を叩いて、彼女は扉を蹴破るように帰っていった。扉壊れてないといいが。

「やっほー。お兄ちゃん元気?なんか知らない女性が顔真っ赤にして出ていったけど、もしかして彼女さん?」

「久しぶりにしちゃ随分な挨拶だな。あれは彼女なんてもんじゃない。ただの食事みたいなもんだ」

「えーお兄ちゃんいつの間にそんなプレイボーイになっちゃったのよ。お母さんも草葉の陰で泣いてるわよ」

「どうだかな。それよりわざわざ俺に会いに来たってことは、よっぽどの用事なのか?」

 兄弟達とは、別れてからは数える程度しか顔を合せていない。自宅に来るなんてこれまで無かったことだ。

「正解。やっぱお兄ちゃんは鋭いね。他の兄弟はバカばっかで困るよ。この前なんて本気で襲われて焦ったんだから」

「ハッ。それで返り討ちにしたってか。噂になってるぜ」

「ふふ。それも正解。実はね、私こう見えて真面目に生きてたんだよ。お兄ちゃんみたいにこの街に染まらないようにね。それなのに、一度殺しを経験したら快感を覚えちゃって、自分じゃ止められなくなったの」

「それで最後に残った俺のところに来たって訳か」

「うんうん。やっぱりお兄ちゃんを最後に残しておいて良かったよ。きっとお兄ちゃんを殺したら、幸せで死にたくなるんだろうな。それじゃああっちで兄弟達によろしく伝えといてね」

 俺達一族は、殺戮衝動がとても強い。それは暗殺者としての血がそうさせるのだろう。普段どんなに大人しくしていても、ちょっとした刺激で本性が顔を表す。俺達の刃は、命を刈る鎌なのだ。

 足元に転がっている妹を冷たく目で見下ろす。本性に負けてなるものかと強く誓う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る