前編

第1話

 今日もまた一人、死んでいった。俺の弟だ。つまらない縄張り争いで死んだらしい。後先考えず突っ込んでいく単細胞だったやつだから、らしいと言えばらしい死に様だ。

 悲しくないのかだって? そんな高尚な感情は持ち合わせちゃいないさ。どうやら母親の腹ん中に置き忘れてきたか、そもそも最初はなからなかったのか―そんなもん持っていたところで、無用なものだ。

 弟の死がそうであるように、この街では死は特別なことではない。路傍の石のようにそこかしこに溢れているし、道端に吐き捨てられたガムと同じくらいありふれた光景だ。嫌でも馴れるさ。

 そして命の価値の低さにも気づかされるんだよ。

 打ち捨てられた死体からは、耐えず腐臭が漂い、誰にも弔われず、悼まれず、惨めな格好を晒し続ける。

 生き物は死ねば土に還るのものだが、ここには土がない。無機質な地面は、土に還ることすら赦さず、死してなおこの地に縛り続ける。

 清掃業者が回収しようにも、人手が足りず仏の数は日々増えていくばかり。

 ランドマークは死体の山だ。良い観光名所だろ。


「兄ちゃん。ご馳走食べないの?」

「そうだよ。一緒に食べようよ」

「僕たちだけじゃ食べきれないよ」

「いや、俺はいい。お前らで食べてくれ」

 ちなみに俺には兄弟がたくさんいる。ここでは珍しいことじゃないが、ナマエというものを与えられていない。

 父親は母親に種を預けたら姿をくらまし、母親は俺達を産んだらすぐに姿を消した。そもそも欲しいと思ったこともないがな。

 兄弟達は、生まれて初めてのご馳走を前に、一心不乱に食事にありついている。みるみるうちに無くなっていくが、そんなに美味しいものなのか。

本来なら俺も一緒になって食べるべきであろう。だが俺の食指は動かない。腹は減っているのに、目の前の食事を体が拒否する。

 違う。違俺が欲しいのはこれじゃないんだと。

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