灰色の国

きょんきょん

プロローグ

 此処は、記憶にも記録にも残っていない最果ての地。かつては栄華を誇っていたことが街の作りから伺える。それも今では街全体が廃墟と化し、暴力のように吹きすさぶ寒風は、全ての命をも凍らせる。

 この地を訪れるのは、大罪を犯した者か、流浪の旅を続ける者。いずれにしてもまともな理由で立ち寄る事が無い街だ。

 一人の男が辿り着く。異国の血が流れているのか、虚ろな眼をした住人達の視線を集めた。

 容貌は漆黒、多くの血を吸ってきたであろう業物の刀、なにより切り殺さんばかりのオーラには、歴戦の強者達ですら近づくのが躊躇われた。

「おいあんちゃん。ここの街の人間じゃねぇな。何しに来たんだよ」

 飄々とした男が話しかけてくる。

「外に渡りたい」

「なんだ外の情報が知りたいってか?まあ話してやんのはやぶさかかじゃねえけどよ。ちょうど今酒が飲みたいんだよなあ」

「情報を寄越すか寄越さないか、ハッキリしろ」

「わ、悪かった!冗談だからそいつをしまってくれ!ちょっとからかっただけじゃねえか!」

「冗談に付き合ってる暇はない」

「ったくよ。クソ真面目な奴だな。しょうがねえから特別に教えてやるよ。あれは――」

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