第4話伯父さん!

そして、とうとう伯父さんは倒れた。

それだけならやっぱりかで済ますんだけど、それだけで済まなかった。

倒れた次の日の朝には伯父さんは実家からいなくなったんだ。動ける状態じゃないのにって、あいつから電話が来たからすぐに実家に向かった。親父は時間がとれなくて俺一人。

実家に着いてすぐ、俺はあいつに連れられて伯父さんの部屋へ向かった。

時間はもう夜中になり、満月が高くのぼっていた。


向かう途中、ピチャン、と水音が聞こえた気がした。

そして、雨も降っていないはずなのに、あの独特の雨が降る直前の臭いが庭に立ち込めていた。


部屋に入ると、何となく生臭い臭いがした。

魚臭いっていうか、血なまぐさいっていうか。

それに、キュウリが食い漁られた跡があった。

キュウリかよ?伯父さんそんなに好きだったっけ?


でも、よく見ると変だった。キュウリの食い口がギザギザだった。明らかに人の歯で食べた跡じゃない。

じゃあ、何が食べたんだ?


それと、あれがなかった。

でっかいでっかいカメ?というか、甲羅が。

川に帰ったか?と俺たちは思った。


実際、その考えは合ってた。

そのカメ?は川に帰ったんだ。

伯父さんを連れて。


ある日、ある日、伯父さんは

でっかいカメに連れられて

竜宮城へ来てみれば


って話。


だったらよかったんだよ。

伯父さんも憧れていた竜宮城の話。


現実はそんなに甘くなかった。

むしろ非常だった。


伯父さんと親父の実家がある地域には、竜宮城とは別の話が強く残っている。

そう。

カッパだ。


川に棲む妖怪。頭に皿のようなものを乗せて、甲羅を背負っている。

キュウリが好物。

人を水辺に、引き込む。

それと、その地域にはもうひとつ。

カッパは非常食として好んで人を食べている。


俺たちが伯父さんの部屋へ行ったとき、部屋から外へ水跡が続いていた。いや、外から部屋へかもしれないけど。

どちらにしても、その先には伯父さんがいる。そう思って後をつけたんだ。

その水跡は家の外へ。

そして、俺と親父、伯父さんが釣りをした川に続いていた。


川に着いて、辺りを見回すと変な音が聞こえた。

水の音、枝が折れる音

ピチャン、パキ、ポキッ、バキッ


そして、




人の呻く


声。




月明かりの下で、影だけが浮かび上がっていた。

大きな甲羅を背負ったなにかと、人の形をしていたはずのもの。


俺たちは怖くて恐くて、その場から動けなかった。


ほんの一瞬だけ、俺は見た。

音をたてているのは枝じゃなくて、人の形をしていたものだった。


伯父さん、だった。


ミイラのようにガリガリに痩せた伯父さん。

腕を割かれ、足をもがれ、乾いた音を立てながら喰われていく。

まるで、乾物のスルメを食べるかのように易々と喰らい尽くしていく影。

音が止み、影がひとつだけになった頃。

甲羅を背負った影は満足そうに体をぐぐっと伸ばすと、川に入っていった。

最後に、ちゃぽん、という音と共に甲羅は水に沈んだ。




川の脇の草むらからは、虫の鳴き声だけが聞こえていた。




俺たちは泣きながら帰った。

恐怖からなのか、悲しさからなのか。



俺たちは笑われることを覚悟で、ありのままを話した。

不思議なことに、誰も疑わなかった。


遺体がないから、後日寺の和尚さんが実家に来てお経だけ詠んでくれた。

その時に、和尚さんは俺たちに教えてくれた。


年に数回、同じようなことがあるんだと。


ふと甲羅をどこからか拾ってきて、ガリガリに痩せ細っていく。まるで何かの呪いにかかり、体から水分が奪われていくように。

最後には、甲羅を拾ってきた者は「痩せ細る」を通り越して、乾物の様にミイラとなる。

そして、姿を消す。


伯父さんのように。


その先は、俺たちが見た通りなんだろう。

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