#27 七星エリカ、身バレ不可避

 昼休み、俺と神崎は、人の来ない空き教室で合流した。


「ど、どうしよう……」

「おまえなぁ……」

 俺は盛大にため息をつく。


「だ、だって! 美夏が疑うんだもん!」

「もん!じゃねーよ! 適当な口実つけて断ればよかったじゃねーか!」

「ああなった美夏はしつこいんだから! 断ってもアリバイが成り立つまでえんえん言われ続けるわよ!」


「せめてチャットにするとかさぁ」

 配信しながらでも、スマホでチャットを返すのは不可能じゃないだろう。

 俺の言葉に、神崎が首を振る。

「絶対、チャットの途中で『やっぱ通話しよ?』とか言ってくるから! 悪くすると、そのまま数時間はおしゃべりすることになるわ!」

「マジか」

 陽キャ様の思考回路では、チャットより通話のほうが手っ取り早いってことになるのか。


(さすがに、配信しながら通話するのは無理だよな)

 駒川が神崎のことを疑ってるなら、配信をチェックしながら、返すのが難しいタイミングで話を振ってくるはずだし。


「ねえ、どうしたらいいの!?」

 神崎が泣きそうな顔で言ってくる。

「駒川に正体を明かしちゃダメなのか?」

 神崎の「親友」で七星エリカの求婚者なら、たとえ正体を知っても、笑い者にしたりはしないんじゃないか。


 だが、

「とんでもない! そんなことしたら、明日には学校中に拡散してるわ!」

「し、親友なんじゃなかったのか?」

「そんなの関係ないわよ! あの子、おもしろいと思ったら考えなしに尾ひれに胸びれまでつけてしゃべりまくるんだから! しかも、あの子はいま七星エリカにドハマりしてる! ああなったらもう何を言っても無駄よ! エリカの布教を兼ねて、エリカの正体がわたしだってことまで含めて、知り合いに吹聴しまくるに決まってる! 親友やってるわたしが言うんだから間違いないわ!」

「どうして親友やってんだよ……」

 人の迷惑を気にしないあたり、似た者同士なのかもしれないが。


 俺は、ため息をついてから言った。

「……一応、考えはある」

「ホントっ!?」

「MiniCast(ミニキャス)で短時間配信をするんだ。そのあいだにおまえから駒川に通話をかける」


 MiniCastというのは、マジキャス運営が開発した、スマホ向けの配信用アプリのことだ。

 スマホの画面をそのまま配信できる手軽さから、マジキャスのライバー以外にも愛用者が多い。一般の人(ライバーではないという意味で)がスマホゲーの実況配信なんかをしてたりもする。

 アプリの宣伝を兼ねてか、マジキャスのライバーたちも、たまに短時間の雑談配信をやっている。スマホ一台で配信できるのは便利だから、マイチューブとはべつに配信を続けたいとは思ってたんだよな。ライバーと直接ビデオ通話してるみたいで楽しいって声も根強いし。


「話してるあいだ、配信はどうするのよ?」

「俺がなりすます」

「その手があった!」

 と、神崎の顔が明るくなる。


 が、すぐに、神崎の眉根にしわが寄った。

「……でも、さすがに厳しくない? あんたの声マネは異様に上手いけど、長くしゃべればボロが出るわ」

「通常の配信だったらキツいけど、ミニキャスの短時間配信ならマシだろ。ちょっとくらい間が空いても不自然じゃないし。神崎は、親に呼ばれたとか言って、通話を早めに切り上げてくれればいい」

「そっか! なにも配信の最初から最後まで美夏と話してる必要はないもんね!」

「そうそう。数分くらいなら俺でもなんとか繋げるだろ。事前に台本を用意して、その通りにしゃべるから」

「それならなんとかなりそうね!」

 神崎が安堵の笑みを浮かべた。

 もう解決したみたいな顔してんな。


 でも、

(そううまくいくかな?)

 俺は正直不安だった。

 ここしばらくやってなかったミニキャス配信を直前告知でやるって時点で、疑おうと思えば疑える。


 それに、俺と神崎は、クラスでも話す機会が増えている。

 駒川は神崎の親友だ。

 俺と神崎の関係の変化にも気づいてるはず……。


 そして同時期に、七星エリカの配信には突然、公式設定にはなかった妹キャラ・七星ルリナが登場したのだ。

 駒川が本当に七星エリカの配信を熱心に見てるなら、「俺=ルリナ」という真相に気づいていないとも限らない。

 俺がVtuberオタクで七星エリカを推してるってことも、駒川にはもう知られてる。


(クラスでは声を抑えてるから、俺が女の子を演じられるような声を出せるってことはバレてない……はずだけど)


 エリカの配信を見て正体を見抜いた駒川なら、ルリナの正体も見抜いてるかもしれない。

 陽キャ様特有の、鋭い人間観察力で。

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