#18 陽キャ「オススメのVtuberは?」陰キャ「 」
「お客様。ご同席なさいますか?」
「あー、どうしよう」
俺は北村に視線で聞く。
もし、である。万が一、ありえないことだと思うが、百歩譲ってこれがデートなのだとしたら、俺と神崎はお邪魔である。
ただでさえ、こいつには世話になりっぱなしなんだ。こいつが本気で駒川と付き合いたいのなら、血の涙を呑んで応援しようじゃないか。俺にできることなんてなにもないと思うけどな。
が、北村は気負いなくうなずいた。
「拙者はかまわぬでござるよ」
「わたしもいいよ! 一緒に話そう! 絵美莉にもヴァーチャルゴキブリ見せてあげる!」
「見たくないわよ! ま、一緒でいいかしらね」
神崎がうなずいた。
たしかに、いまどうしても神崎とサシで話さなくちゃいけないこともない。
社長さんが何を言ってくるかわからない以上、あれこれ心配してもしょうがない……と、神崎は言っていた。
俺はかなーり心配なんだが。
北村と駒川が席を詰め、俺は北村の隣に、神崎は駒川の隣に滑り込む。
ケーキとドリンクバーを頼み、適当にドリンクを取ってきた。
駒川が、俺に向かって聞いてくる。
「北村君に聞いたんだけど、人見君はVtuberに詳しいんだって?」
「ん、ああ……といっても、俺が好きなのは、マジキャスっていうアニメっぽいキャラのVtuberだぜ。駒川さんはあんま好みじゃないと思う」
「そんなことないよ。サクラサクちゃんとか、かわいいと思ったし」
「へえ、意外だな」
「北村君もわたしのこと陽キャって言うけど、スマホでゲームしたりもするからね」
「美夏はFPSが好きなのよ。最近は……バトロワっていうんだっけ。ああいうのとか」
神崎がそう補足する。
「そうそう! 人見君、ゲームは?」
「パソコンでやるか、ゲーム機でやるか、スマホでやるかだな。スマホだと最近は消しドラと孤独行動」
他にもあるが、駒川のわかりそうなところを挙げておく。いちばんやってるのはパソコンのギャルゲーなんだけど。
「孤独行動!? わたしもやってるよ! クラスでもハマってる人けっこういるから、今度一緒に遊ぼうよ!」
「いやぁ、駒川さんたちの集団に入ってゲームはキツいですわ」
おもわず敬語になって拒む俺。
「なんでよ! べつに遠慮することないのに」
「まあまあ、美夏。こいつみたいなオタクは繊細だから。ゲームくらいしか取り柄がないのに、陽キャ男子にバトロワでボコられたりしたら立つ瀬がなくなっちゃうじゃない!」
「おまえほんと口が悪いよな!」
フォローになってないフォローを入れてきた神崎にそうつっこむ。
「でも実際、そこまでやりこんでるわけじゃないからな。たぶん、駒川さんのが強いんじゃないか? 他の男子も相当やってんだろ。俺がやられるたびに『ウェーイ!』みたいに盛り上がられたらイヤだぜ」
「んー、それもそうだね。棲み分けしたほうがお互い平和か……なんか悲しい話だけどさ」
「所詮、拙者たちは陰から陰へ生きる日陰者なのでござる。駒川嬢や神崎嬢のような日の当たるところにいる者たちとは生き方がちがうのでござるよ」
「あはは。ウケるー」
北村の極まったオタクキャラに、駒川がゲラゲラ笑った。
駒川はひとしきり笑うと、ジュースをじゅるるっと飲みきって言った。
「でも、人見君も絵美莉とうまくいってる感じだね」
「「どこが!?」」
「ハモってるんですけど!? マジウケる! マジ卍固め!」
駒川がシートを叩いて笑い転げる。
「ちょっと、わたしのどこがこいつとうまくいってるっていうのよ!」
神崎は腰を浮かせ、俺の顔を指差しながら駒川に噛みついた。
「いや、絵美莉はわかんないけどさ。絵美莉がキツいこと言っても、人見君が平気で返してるから。へー信頼関係あるんだなーと思ってさ」
「し、信頼関係なんてないわよ!」
「どーだか? 最初は悪い印象しかなかった相手が気になりだすって、ラブコメの法則だよね?」
「こんなやつ、最初から最後まで悪い印象しか持てないでしょーが!」
「あはは……ま、そういうことにしとこっか。クラスのみんなには言わないでおくから」
「ちょっと、本当でしょうね? そう言ってたのにいつのまにかみんなに知れ渡ってたってことが何遍もあったし……わかってるんだからね?」
「ごっめーん。調子に乗ると、つい、ね。でも、絵美莉と人見君が仲良しっぽいよ、なんて言っても、なかなか信じてもらえないって」
「まあ、それはそうよね。住んでる世界がちがうもの」
神崎、納得して腰を下ろす。
女子二人に公然とディスられた気がするが、涙を呑んで話を流す。
「駒川さん、なにげにマジキャスネタ使ってるな。マジ卍固めとか」
「あ、卍固めってそっちのネタなの? じゃあ、わたしが見ておもしろそうな人教えてよ! そのマジキャスってグループのさ」
「駒川さんが、かぁ。そうだな、やっぱり十六夜サソリか。マジキャスのエースライバーで、話がめっちゃおもしろい。男性ライバーがいいなら、宮本
……さすがにこの場で七星エリカを勧めるのもな。
ところが、神崎は意外そうな顔で俺を見た。
「えっ、あんた、あの子推してたじゃない。なんだっけ、なんとかエリカ」
「…………ああ、七星エリカだな」
友達には教えたくないかと思った俺の気遣いを、よくもばっさり切り捨ててくれたな。
まあ、本人がいいっていうならいいけどさ。
「ギャンギャン吠えてる口の悪い女子高生のライバーでさ。いろいろ問題はあるんだけど、俺は個人的に気に入ってるよ」
「人見氏は二期生のデビュー当時から七星エリカ推しでござったからな。もっとも、最近はコラボで炎上して火消しに躍起という印象であるが」
なにも知らない北村の言葉に、神崎が一瞬びくっと震えた。
驚いたというより、おもわず言い返しそうになったのを堪えた感じだな。ハウス。えらいぞ。
「ふぅん。でも、どうせ見るなら人気のある人がいいかなぁ。十六夜サソリと宮本卜伝だね? うち帰ったら見てみるよ。いやー今月ギガ使い切っちゃってさぁ」
あ、七星エリカはスルーされたな。
神崎がすこししょんぼりしてる。
どうせわたしは人気がありませんよと、はっきり顔に書いてある。
俺は、壁の時計を見て言った。
「神崎、そろそろ時間じゃないか?」
「そ、そうね!」
神崎がそう言って席を立つ。
「あれ? 二人でどこかお出かけ?」
「いや、昨日濡れたシャツ、クリーニングに出すって言って聞かなくてさ。神崎は早めに帰らなきゃらしいから、その前にクリーニング屋に寄って回収しないとなんだ」
考えておいた嘘を、俺はすらすらと述べた。
そんな俺に、神崎がちょっと怒ったような目を向けてくる。
……って、なんでだよ?
でも、それはほんの一瞬だけだった。
錯覚かと思ってるうちに、駒川がうなずいた。
「なるほどぉ。ま、クリーニング屋さんじゃデートにはならないね」
「しかし、考えようによってはまるで若夫婦のようではござらんか?」
「ど、どっちでもないわよ! ああもう、とにかく行くわよ! あんたもそれ早く食べちゃいなさいよ!」
「ま、待てって。極端なんだよ、おまえは!」
ドリンクを飲み切って席を立つ神崎を、俺は慌てて追いかけた。
会計を済ませ、店を出て。
「あんた、よくとっさにあんな嘘がつけるわね」
待ち合わせの喫茶店に向かいながら、神崎が唐突に言ってくる。
ちょっと不機嫌そうな声色だな。
「嘘って、さっきのことか?」
「他にないでしょ」
「しょうがないだろ。これからマジキャスの打ち合わせに行くとは言えないんだから」
「それは……そうだけど。昨日の件も、大事なところをボカして嘘じゃない感じで丸め込んだでしょ」
「……どうして怒ってるんだよ」
「怒ってないわよ! ただ……嘘はよくないじゃない」
神崎は決まり悪そうに言った。
……そういや、昨日神崎のママさんも言ってたな。
嘘はよくない、って。
七星エリカは、「思ったことを正直に言う」ってことを大事にしてるフシがある。
なにかつながりがありそうだが、はっきりとは聞けないな。
俺が言葉を探しているうちに、目的地である喫茶店が見えてきた。
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