#5 とあるユルオタ高校生の日常
俺の学校生活は、もちろん、美少女との突然の出会いから始まったりはしない。
オタクとして女子から敬遠されてる俺は、オタク仲間の北村とともに、今日も教室の後ろのほうでだべってる。
「北村、3Dモデル、ありがとうな。あいかわらずすげえクオリティだぜ。マジキャス公式にも引けを取らないんじゃないか?」
「デゥフフ。お褒め頂き光栄にござる」
この、いかにもなオタクな言動を貫いてる、キャラの濃いのが北村だ。
言動に反して、見た目はそんなにオタっぽくもない。制服を普通に着て、髪もちゃんと切っている。オタクの宿命であるメガネも、赤いフレームのオシャレなものだ。中肉中背で、顔立ちは良くも悪くもない感じ。
イラストが描けて3Dモデルも作れるやつなんだから、その気になれば自分の身なりもよくできる。私服姿のこいつと遊びに行ったりすると、ファッション面で負けた感がものすごい。どっちも安売り衣料品店で買ってるはずなんだけどな。
「人見氏のVtuber声マネ動画はいつ見られるでござるか?」
「またそれか。撮ってはみたけど、公開する勇気はないな……」
「もったいないでござる。あれはちょっとしたものなのでござる。氏のVtuberへの愛が感じられるのでござる」
「おまえ、やたら俺のこと推すよな」
「じれったいのでござるよ。クリエイターを目指さずとも、気楽に動画を上げてみればよいではござらんか。反応があってもなくてもおいしいのでござる」
「もしその動画が伸びたとしても、その後Vtuberになるわけじゃないしな。俺の個性に需要なんてあるはずもないし」
「さようでござるか。無理強いはよくないでござろうな」
北村がそう言って肩をすくめる。
「昨晩といえば、
「さすがに弁護の余地がないな……」
「おや。人見氏にしては辛口でござるな」
「前から危ういとは思ってたんだよ。エリリはちょっと空気読めない上に、言い回しが悪いんだよな。わざわざキツい言葉を使っちゃう」
「ほう。たとえば?」
「そうだなぁ。以前、他のライバーとのコラボでこんな会話をしてたんだよ」
『リスナーさんからのお便りを読むね。『今回のゲストは七星エリカちゃんだそうですが、エリカちゃんの好きな食べ物、嫌いな食べ物はなんですか。こんな質問しか思いつかなくてすみません』だって。いいんだよーお便りいつもありがとう!
エリカちゃん、どう?』
『そうね……パッと思いつくのは、カレーとか、ラーメンとか、チャーハンとか?』
『ああ、エリカちゃんはそういうわかやすいのが好――』
『――ああいう味が濃くてべったりした食べ物って、食べてる人含めて大っ嫌い。ザ・お子さまって感じで!』
『そ、そうなんだ……。人それぞれだよね。僕はそういう食べ物も嫌いじゃないよ』
『そうなの? わたしにはわかんないわね、そのセンス。そういう人は服の趣味も悪そうよね。だぼだぼのジーンズ履いて変なTシャツ着てたりして! 頭にバンダナ巻いてリュック背負って、おまえいつの時代のオタクだよ! あはははは!』
『あ、あはは……じ、じゃあ次の話題に行こうか』
『そうね。食べ物の話なんかつまんないわよ。もっと気の利いた質問がなかったのかしら。こんな質問、選ぶほうも選ぶほうよね』
『(イラッ)……。つ、次のお便りを読むね!』
「なるほどでござるな。ゲストとして呼ばれた配信で、配信主の常連リスナーをけなしたでござるか。ついでにいえば、カレー、ラーメン、チャーハンが好きな人はかなり多いでござろうから、そのように引き合いに出せば顰蹙を買ったでござろうな」
「やべーやつが出てきたな、と思ったんだよな。でも、マジキャスだろ? やってるうちに周りの影響受けて成長してくんじゃないかと思って応援してたんだけどな……はああっ。昨日のはさすがにねーわ」
「珍しいでござるな。人見氏はVtuberの目利きでござるのに」
「マジキャス沼にはまってからずっと見てきたからなー。エリリだって、コラボできる相手が見つかればワンチャンあると思ったんだ。昨日のチカちゃんなんかは、うまく噛み合えばカップリング妄想で人気が出てもおかしくない」
「なるほど、百合営業でござるな」
「営業言うな。もっと
「しかし、天海チカはオールラウンダーでござる。カップリング相手には事欠かぬではござらんか。あえてチカエリを推す理由があるでござるか?」
「あの傲慢キャラのエリカが、チカちゃんにやりこめられて涙目になるのが見てみたい。そういう同人がほしい」
「ならば拙者が描くでござるか。もっとも、拙者は未成年であるから全年齢向けのものしか頒布できぬのであるが」
「おまえも大概万能だよな……」
俺と北村がいつも通りのバカ話に花を咲かせてると、
「ちょっと男子! 教室でいかがわしい話しないでよ!」
教室の前のほうにいた女子が、俺を睨んでそう言った。
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