第28話 藍の国の村

 翌朝、朝食を済ませ、マティルダ達をとにかく安全な村へ運ぶことにする。


「大丈夫か?マティルダ…?しっかり捕まってというか…俺が支えよう」

 まだ充分な体力も魔力も戻っていないから早く荒地から出発することにした。クリフォードも同じ気持ちだ。


 マティルダはあの生きた木の所に行った。


「私達を助けてくれてありがとう」

 とお礼を告げた。

 何故この木は生きてるんだろう?周囲は全て滅びているのに…。

 すると精霊の視えるシャーロットが弱々しくも


「1人だけいる。もう…何千年もここにいるって…。何千年前かの1人の娘がこの木を植えて愛情を持ち育て…そして永遠に枯れることのない魔法を使ったと。……その女の子は病気で亡くなった。街では流行り病で倒れるものが多くなった。次第に街には1人も人間がいなくなった…。その後もずっとこの木は…


 風化していく街と共に眠っていた…そうよ…」

 とシャーロットが木に手を当てて精霊とやらに話していた。


「…精霊が…もう1人は嫌だからここから自分も連れ出して欲しい…だって…」


「この木を連れ出す?でも私達は魔法は使えないわ…」

 チラリとエンヴァルを見ると


「何だトラヴィス…ジーっとこっちを見るんじゃない!!………見るな!視線が痛い!!やだわ!余計な体力を使う!!」

 それでも俺は視線攻撃をやめずにエンヴァルを見ているとマティルダにシャーロット、クリフォードが同じようにエンヴァルを見てエンヴァルは観念した。


 渾身の力で根ごと引き抜いていく。

 俺とマティルダは


「頑張れ頑張れエンヴァル!!」

 と応援すると


「畜生!トラヴィス!無表情で応援するな!!そして赤の王子と白の娘はイチャイチャする元気があるなら手伝え!!」

 と言うとクリフォードは怒り


「シャーロットに口移しで水を与えている…食事もまだ満足にできないのだから!」

 と抗議したが、昨日夜中にトイレに起きた時シャーロットがリュックを漁り、缶詰をモソモソと食っていたのを俺は知っている。


「ぐ、ぐううう!」

 と唸り声と共にその木はようやくズボリと根本から抜けた。根はまだ光り生きている。


 エンヴァルに木と荷物と俺たちを括り付けて休憩しながらも飛んだ。エンヴァルは…


「くっ!誇り高き赤龍の長である俺が何でこんな大荷物背負って飛ばんといけんのだーー!!クソ重いし、赤と白!イチャイチャすんな!!」


「シャーロットにマッサージだ!」

 とクリフォードが言ったが明らかに違う。


「トラヴィス…私達…村に着いたら受け入れてくれるかな?それとも通報されちゃうかな?」

 マティルダが心配そうに言う。


「マティルダ…大丈夫!脅してでも休ませるぞ!!」

 と俺は最悪村人達と戦闘になっても構わないようにする。

 徐々に身体に魔力を感じるようになってきた。緑の木々が見えてきた!精霊がいる生きた森。手に魔力で作った水を見る。


「良かった…荒地からは抜けたみたいね」

 マティルダはホッとした。少しずつマティルダも魔力を取り戻さないとな。


 *


 ようやく村に降り立つ。

 村の人の髪色で判ったがこの色…藍色だ!!

 ということはここは藍の国インディグマ王国のどこかの村に違いなかった。よく見ると村には猫がたくさん歩いていた。


 マティルダが猫を見て興奮した。久々に可愛いものを見たから触りたくて仕方ないようだ。全く、まだ療養しなければならないのに!


 とりあえず俺たちは空から降り立つことにした。当然村人達は驚いている。空からドラゴンが木や俺たちを抱えて降りてくるという異常事態だしな…。


 村長や警備隊がやってきた。


「な、なんじゃー!?お前ら!??あ、もしかして植木職人か?王都から注文しとって何ヶ月かかっても来ないから文句言おうとしどったがこんなに良い木を届けてくれたんじゃな!?」

 と村長が素っ頓狂な声をあげたので横の警備隊の青年が


「おじいちゃん!違うし!!木はだいぶ前に届いたろ?ボケてる!じいちゃん!!」

 と藍色の髪の青年が焦る。孫か。


 もう1人の温和そうなニコニコした青年が


「ハンフリー…この人達手配書の青の王子に魔女マティルダにそれから赤の王子とその婚約者白の娘様じゃない?赤の国を壊したと言うドラゴンも一緒だから間違い無いよ!」

 と言う。


「えっ!?言われて見れば!そうだな、ブライアン!!にしてもすげー!!王族とか初めてみた!!」


「ドラゴンもだね!それに白の娘様は可愛らしいし、手配書と違って魔女も綺麗な人だね!」

 と赤くなるから俺とクリフォードはブライアン達を射殺すような目付きで見たからびびった青年達は


「それで?どうする?何か娘さん達は顔色悪そう…青の魔女さんは頭や手に包帯巻いてる!怪我してるの?可哀想に!」

 とハンフリーという村長の孫が心配した。


「とりあえず娘さん達を家の中にお通しして差し上げい!」

 と村長が言い、ブライアンは


「青の国と赤の国に連絡は?」

 と言ったから俺は攻撃態勢を取るがクリフォードが止めた。


「青年…。済まないがそれは待ってくれないか?こちらにも事情があるし…」

 と言うとブライアンはあっさり


「いいよー。なら話を聞こう。それからハンフリーや村長達の判断に最終的に僕は従うよー」

 とのんびり言う。

 ともかくマティルダ達を運びベッドに寝かせた。少し話をしてくると村長達の所に行くと全裸のエンヴァルが椅子に腰掛けておりハンフリーとブライアンと村長が


「「「おおおお!!ドラゴンが人型に慣れるとはな!!流石だ!!しかもめちゃくちゃイケメンだ!!」」」

 と騒いでいた。


「ふはは!まぁな!俺は赤龍の長だからな!そろそろ嫁が欲しいからこう言う姿になることもある。この村に美しい娘はいるか?」

 とか聞いている。


「おいエンヴァル…服を着ろ!!」

 と突っ込んだ。エンヴァルはハンフリーの持ってきた服を纏い、話し合いをした。


 結果…。


「そうか…困っておるのじゃな。手配書などあまり信用できないのぉ…青の王子達はこの村で暮らすといい。元々こちらに住む予定ならワシらは歓迎しよう」


「えっ!?で、でも俺たちはお尋ね者で通報すると報奨金も手に入るのにか?」

 と聞くと


「いやいや別にワシら金にそんな困ってねぇですね。領主様もとても優しいお方ですし、村の動物の子が生まれたら見に来てくれるし。領主様にも事情を話したらちゃんと匿ってくれるでしょう」


「何なんだ?随分と緩いなお前たち!何か裏があるんじゃないか?」

 と警戒すると


「ああ、警戒されるのももっともですな…。しかし藍の国の民は基本的に面倒ごとには首を突っ込まない、困ってる人は助ける、トラブルなく人生を終えることをモットーとしておりましてな。金とかほら…持ちすぎると邪な心も生まれますし殺人を犯す輩も出てくる。藍の国は昔それはそれは酷い国だった」

 確か藍の国は今は動物に恵まれ何か優しい人が多い印象だが、昔はまるで酷い国だったと教わったような…。


「藍の国の昔は荒れていた…。人々の心は荒み、日常的に盗みや殺人、いろいろな悪事や悪人がほとんどだった。…王族、貴族が酷くて国の統治もいい加減、横暴であったが…そんな中1人のお姫様が生まれて…その子は真っ直ぐに育った。そして何故みんなが争うのかを嘆き…泣いて綺麗な歌を歌った。


 空には虹がかかり人々の心は浄化されていき、良い人間になったと言う。姫様は木を植えられた。魔力を込め、永遠に枯れないようにと記念に植えた」


 木…。俺たちは顔を合わせた。

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