第27話 シャーロットの謝罪
あちこちある廃墟の建物の一つは埃や砂に塗れていたのでエンヴァルの鼻息でブウッと吹き飛ばした。
俺はマティルダを抱き抱え、クリフォードはシャーロットを抱き抱えて中へと足を踏み入れた。持ってきた布や毛布の上に彼女たちをそれぞれ床に寝かせた。かなりの体力を消耗している。魔力量はこの荒地では判らないがこの分だと魔力枯渇に近い状態で危険だろう。
土埃に塗れた彼女達に水を含んだ布を絞り、まず顔など拭ける所は綺麗に拭き、それからマティルダの頭の怪我も見て行く。致命傷ではなくて良かったが綺麗に傷口を洗い薬を塗って包帯も巻いた。よく見ると左手も何か細いものが貫通した後があるではないか!そこはもう血が固まっていたので時間は経っていたのだろう。
俺は左手にも薬を塗り包帯を巻く。シャーロットの方を見るとクリフォードが寄り添い手を握る。シャーロットには大きな傷は見られないようだ。何故マティルダだけ怪我を…。
「うう…」
と呻き、マティルダが目を開けた。
「マティルダ!!」
「…トラヴィス?」
掠れた声でぼんやりとして頭を押さえて痛がる。起き上がるのを補助する。
「大丈夫か!?とにかくもっと水を飲んでくれ!それから食べ物は食べれるか??」
マティルダは水だけゴクゴクと飲み干した。
それから弱々しく…
「はぁ…トラヴィス…本当にあなたなのね………」
「ああ…」
と背中をさする。
マティルダはまだ気絶しているシャーロットを見て
「ここは?魔力が戻らない…。まだ荒地?」
「その近くにあった廃墟だ。1番近くの村まではここから1日かかる…」
マティルダは考えた。
「そう…ならばそこにシャーロットとクリフォード王子だけ下ろしてあげて?私達はほらお尋ね者だから…村には入れないわ…今の私は変装する魔力も気力も残ってない…」
と心配する。
「マティルダ!何を言うんだ!?彼女より君の方が重症だろ?頭の傷などを医者に見せないと!それに療養も必要だ!」
と抗議するとマティルダは首を振る。
「違うの…トラヴィス…シャーロットの方が危険なの。クリフォード王子も聞いて」
「な、何だ!?」
とクリフォードもこちらを向いた。
「シャーロットは…妊娠してるわ。ずっと吐いてた。お腹にクリフォード王子の子供がいるの!だから早く村でちゃんと診てもらわないと危険よ!母子共に!」
そう言ったので俺は驚いた。クリフォードは目を見開きシャーロットとマティルダを交互に見た!!
「そ、それは…本当か!!?シャーロットが…俺の子を…」
「………そうよ…クリフォード王子…あなたの子がいて今大変な状態。一刻も早く村へ運んで!」
と言うと、シャーロットが気付いた。
「うう…お…お水…」
「シャーロット!!」
クリフォードが急いで水を用意して彼女に飲ませた。ゴクゴクとシャーロットも飲み干した。
そして
「ここは?」
と聞くとクリフォードは
「シャーロット!!」
と泣きながら抱きしめた。
「クリフォード…様…」
シャーロットは俺にも気付いた。
「トラヴィス様…マティルダ…あなた頭は?木から落ちて死んだかと思ったわ」
そう言った。
木から落ちた?あの木か?
「マティルダ!?その傷は木から落ちたのか!?危ないことを!」
「ごめんなさい…トラヴィス…どうしてもシャーロットに葉を与えようとして…3日間何も食べていなかったからとにかく栄養をと必死に木に登ったんだけど力があまり入らなくて…」
「そんな状態じゃ当たり前だ!!その手の傷は?」
「こ、これもその時に怪我したのよ…」
とマティルダは薄く笑ったがシャーロットが
「違うわ……私…私のせいよ…私が…簪で…お腹の赤子を殺そうとしたのをマティルダが止めたの…」
と言い、俺は驚いた。クリフォードは顔面蒼白だ。震えながら
「俺の子を…殺そうと!?本当に?」
「………ごめんなさい…。気が動転していたの…。クリフォード…ごめんなさい…私…バカだったの…」
「………トラヴィス王子のことをそんなに好きなのか?…俺はやはり敵わないのか…」
とクリフォードはふらりと外へ出て行く。
「シャーロット…どうしてあんなことを…まだトラヴィスの事を?」
とマティルダが問い詰めると…。
「…。私…クリフォードのことも好きよ…でも…こんな…私もうクリフォードに嫌われても仕方ないわ……。トラヴィス様も今までごめんなさい。ようやく…目が覚めました。私…一人でクリフォードの子を産んでどこかでひっそりと暮らすわ…。私にはもうクリフォードを傷付けた罪ができてしまった…」
とシャーロットは項垂れたが、出て行ったと思ったクリフォードは直ぐに戻ってきて
「シャーロット!!俺がお前を嫌いになるわけがない!!トラヴィス王子のクソ野郎のことを想っていても避妊薬を飲まれても俺は君を一生愛している!!君にその気がなくても!!…子供ができて嬉しい!一人で育てるなんて言うな!結婚してくれ!!シャーロット!!」
とクリフォードがこんな所でプロポーズしたもんだから完全に俺とマティルダは呆れた。
後、クソ野郎ってなんなんだ。普通にムカつくが顔には出さないでおいた。
「クリフォード…様…愚かなシャーロットを見捨てないで許してくださるの??」
「当たり前じゃないか!シャーロット!!俺の妃は君だけだ!!村で少し休んだら一緒に王宮へ…あ、壊れていたな…ひとまず別荘で療養しよう!!」
とクリフォードは言って二人は人前でブチュブチュとキスし始めた。
おいっ!!
俺だって我慢しているのに!!
「お前ら…いい加減にしろ…こんな時に!とにかく今日はここで休んで明日村へ立つ。ここでは満足に魔力を使えないし。マティルダも村で少し療養が必要だ!村の者に口止め料くらい払うが…もしも報奨金目当てで俺たちを突き出すと言うなら俺は村人全員を氷漬けにしてやる!これでいいな!?」
と俺は言う。クリフォードは
「……俺も…村人達をなんとか説得しよう…。…マティルダ嬢…シャーロットを助けてくれてありがとう…」
「マティルダごめんね…トラヴィス様は貴方にあげるわ…。私クリフォード様と本当に幸せになるわ。本当にごめんなさいね。貴方達のこれからを応援するわ」
とあっさりシャーロットは謝罪してクリフォードとイチャイチャしだした。あげるわって何なんだよ。自分の物みたいに言うな。俺とマティルダは別の場所に移動した。
外に出てエンヴァルにもお礼を言い、別の廃墟で休む事にした。
「マティルダ…まだ魔法が使えないからゆっくり持ってきた水分を取ってくれ。水瓶や食料を落とさないようにエンヴァルに括り付けて持ってきて本当に良かった!」
「ありがとう…トラヴィス…少しずつ食べ物を食べるわ…。流石に血も結構失ったからフラフラだわ…」
「そうか…痛むか?ゆっくりでいいから。手も怪我をしているし無理するな。俺が食べさせよう」
とパンを柔らかく水に浸し柔らかくなったものですまないが時間をかけて食べさせる。
それから意外にも果物の缶詰が役に立った。これ持ってきて良かったし、これだけはシャーロットに感謝した。
「トラヴィス…また会えて本当に嬉しい…」
「ああ…あの手紙は必要なかったな」
と真顔で言うとマティルダは真っ赤になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます