第26話 愛しい人の幻か
私達はどこまでも続く何も無い荒地を歩いていた。特にシャーロットは吐いたこともあり水分が必要であった。せめて生きている草だけでも生えていないか私は必死に目を凝らしている。
雲の動きも見ているが濁った灰色の雲…。大気もあまり良く無いし時折地鳴りで大地が揺れて裂け目ができる。落ちたら奈落の底だ。
「もうダメ…動けない…私達ここでの垂れ死ぬのよ…無理だわ」
ヘタリこんで動かないシャーロット。
私達は服も埃だらけでずっと歩き続けていた。
「そうね…少し休憩しましょう…お腹の子に触るわ」
「…………助からなわいわよ…」
シャーロットがボソリと言う。
人が飲まず食わずで生きれるのは3日と言われている。
既に1日何も口にしていない。しかもシャーロットは妊娠しているし、吐いたりして危険な状態だ。
だが、どうしても…せめて生きている草でも木でも見つけなければいけない。ここでじっとしていても何もできないまま死ぬだけ!
その時地鳴りがしてシャーロットの真下がひび割れて彼女は
「きゃあああ!!」
と落ちそうになるが私は彼女の手を掴み必死で引き上げる。
「いやああ!!落ちるっ!怖いっ!!」
「シャーロット!!落ち着いて!!暴れたらそれこそ落ちるわよ!!とにかく頑張って!!」
痛む手で思い切り引き上げた。ゼェゼェと息が切れる。もたもたしていたらまた崩れる。
「シャーロット…私が貴方をおぶって歩く」
と背中を出した。
「はあ?あんた…何考えてるのよ?私のこと殺すと言っていたのに。赤ちゃんがいるくらいで私を生かそうと言うの?」
「シャーロット……もし貴方がその子を愛せないなら私が引き取り育てる!だから生きてて貰わなきゃ困るし、死ぬわけにはいかないわ!」
「あんたの子供じゃないでしょ!!?」
「そうよっ!!……私の前世を少し教えてあげようか?…私養護施設で育ったのよ。親に赤ん坊の頃捨てられた。ゴミみたいに。
もちろん恨んで育って…18で施設を出て働き始めて…休日には職場仲間が進める乙女ゲームをしてたわ。現実では生きて行くのに必死で恋愛なんてしてる暇なかったの!だから…それなりに楽しんだわ……。事故に逢うまではね…。だから…お願いだから…子供を助けてあげて!」
「…………マティルダ…」
シャーロットは泣きそうになるのを止めた。
「ダメ!泣かないで!水分が無くなる!私は諦めないわ!生きている植物を見つけて見せる!」
シャーロットをおぶり私は渾身の力で歩き出した。汗が出るけどもう構ってられない。
夜になり何も無い所で2人横になった。
シャーロットは気分が悪そうだ。吐くのを我慢している?
しかし耐えきれず吐いて消耗している。
「喉渇いた…」
「そうね…」
星も見えないのね。
あんなに雲はあるけど雨も降らないとは…余程精霊に嫌われている土地なのかもしれないわ。
水の精霊の加護があれば雨は必ず降るが、降らないと言うことはこの地は水の精霊さえも嫌われている。近寄らない。
トラヴィス…ちゃんと手紙を読んだかな?今頃…泣いていないかな?
私は眠りに落ちた。
*
そして2日目…また歩き出した。既にシャーロットは喋る元気もなくなった。私の体力も限界で休みつつ進む。時折シャーロットは幻を見ていた。食べ物だと石を口に含もうとしたから止めた。
正午近く…私は荒地に何か光る物を見つけた。
近寄ってみるとガラスの破片だ!
「ガラスって…何だ…食べ物じゃないし…」
シャーロットは愕然とした。
「いいえ、これは…文明の跡だわ!滅びた地にある希望のかけらだわ!人が近くに住んでいた場所があるかも!!」
喉は既にカラカラだ。
足元膝がガクガクして体力も失せている。
必死に目を凝らし見渡した。するとポツリと砂が風に舞っている。僅かな風…。
僅かな風の魔力…。
私は微量な魔力を頼りに歩き出した。少し行くと何と古い木が見つかった!!
「や…った…」
シャーロットは倒れた。
私も安堵から気を失った。
気付いたら夜になっておりシャーロットはまだ気絶している。
私は何とか魔力を振り絞る!!
「風よ!精霊よ!声を聞き届けよ!!エアリーボレス!!」
風魔法を最後の力で天に高く放った!
それから私は起き上がりシャーロットを木の下に移動させ、古い木から葉を取るため木によじ登り始めた。体力がなくずり落ち、何と朝までかかる。
しかし諦めずボロボロになりながらも何とか葉に手を伸ばして掴み枝ごと落下した。頭を打ち付けた音にシャーロットが起きて…
「!!!ま…マティルダ!!だ、大丈夫!?あんた…頭から血…」
「それより…これ…食べなさい…はや…く…はや…」
そこでパタリと私は気を失った。
ああ、死ぬんだわ。
また死ぬのか。交通事故に遭った時は一瞬だったけど…。
トラヴィス……最期に会いたかった…。
私の…愛しい…。
トラヴィスの笑顔が浮かんだ。
*
それからどのくらいの時間が経ったのか判らない。死んだのかも。
ふいに何か待ち望んでいた水分が喉に染み渡る。夢中になり私は飲み干していた。ぼんやり目を薄ら開けるとトラヴィスが泣きそうな顔で見えて…。
私は気絶した。
また幻が見えるなんて…。
*
空から俺たちは滅びの土地についにやってきた。広大な荒地と化してして草木一本ない。クリフォードも流石に青くなり震えた。魔法が使えないことに直ぐに気付いた。精霊すらもいないのだろう。
エンヴァルも
「ここからは俺の翼だけで飛ぶ。魔力はない。体力が尽きたらおしまいだ。」
必死で2人を探した!既に3日目だ。かなりヤバイ!!しかしその時だった。微かに…ほんの微かに耳を掠めるように風が吹いたのを俺は感じた。
『た…す…けて…』
「………マティルダ!?マティルダ!!」
「おい!しっかりしろ!幻聴でも聞いたか!?」
クリフォードが俺に掴みかかるが俺はエンヴァルに声がしたと告げ、エンヴァルは低空飛行をし始めた。すると…荒地にポツンと一本だけ木が生えている!!
「あそこだ!!間違いない!!」
「嘘だろ?幻じゃないか?何故あそこにだけ?」
エンヴァルが
「いや…よく見ろ…遠くだが砂に埋もれた廃墟街がある。もう何百年も人はおらず忘れ去られているな…」
確かに遠くの方に何か物体はある。
ともかく地上に降りてクリフォードと共に木に駆け寄ると、シャーロットは葉っぱを持ち倒れているし、マティルダは頭から血を流し倒れていた!!
「マティルダ!!」
「シャーロット!!」
お互い愛する者に駆け寄った!!2人とも危険な状態である!生きているよな??
俺は必死で持ってきた水をマティルダに口移しで飲ませた!頼むから飲んでくれ!!口から水が溢れたがしばらくしてマティルダが少し動き、口の中の水分に気付いたのか必死で摂取していた!!たぶん意識は無いが何度か繰り返すとようやく薄ら目を開けたが…そのまま彼女は気絶した。
シャーロットの方も同じような状態でクリフォードが水を与えていた。
エンヴァルと彼女達をひとまず廃墟の街へ運び応急処置を施すことにした。
ここからだと1番近いまともな村まで1日はかかる。それだけ事態は悪かった!食料と水はまだあるし、マティルダの頭の怪我が気になった。
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