第25話 マティルダの手紙
俺とエンヴァルはマティルダが隠しておいてくれた荷物を取りに向かった。
荷物は木の上に隠され括り付けてあった。
マティルダから貰った大事な帽子もちゃんとあって俺はホッとした。しかしそこで手紙に気付いた。
緊張しながらも開くとマティルダの字が書いてある。
*
ートラヴィスへ
荷物は宿の人がきちんと保管しておいてくれました。案外良い人たちだったみたいで安心しました。
盗まれてる物もないわ。お金もちゃんと有る。お礼に少し宿の人に払ったけど。この荷物は木の上にでも隠しておくから後でエンヴァルに聞いて取りに来てね。
まぁ、この手紙を読んでる頃取りに来てるだろうけどね。
万が一の為にこうして手紙を残すことにしました。あまり時間はないから急いで書くわ。
もし私とシャーロットがぶつかるような事があったら…私は奥の手を使うつもりです。その時にどうなるか正直判らないわ。ずっと誰にも言わないで秘めて研究してきた黒の魔法なの。
だから私がどうなるか自分でも判りません。でも話しておこうと思いました。信じないかもしれないけど、私やシャーロットは…この世界とは別の世界で別の人間として生きていた前世記憶があり、今の世界を私とシャーロットはまるで箱庭のようにゲームという物語りで知っていました。
信じられないと思うわよね、頭がおかしいとも思われるからこのことは誰にも言わずに私は生きてきました。
ゲームの物語りであるこの箱庭世界では私はヒロインのシャーロットの宿敵の立場の悪役令嬢でした。だから貴方が最初私を嫌いなこともいずれ断罪されシャーロットと結婚するだろうことも知っていました。
なので、私はあの時…貴方と入れ替わりの魔法を使い入れ替わって処刑を逃れラストを変えたのです。ゲームでは私が死んで終わりだったからです。
でも…死にたくなかったので必死に入れ替わりの魔法を研究し、新しい魔法の開発を密かに進めて準備しました。生きているうちに出来ることを必死に勉強し貴方とろくに会話することもなかった事…ごめんなさい。
研究に没頭するあまり、家族にも愛想がない子と嫌われていたし、貴方に婚約破棄された罪人の私を庇う者はいませんでした。
でも…その後…トラヴィスと旅をするようになってから私はとても…幸せでした。初めて自由になったからです。猫の貴方も可愛かった!!だって初めて逃げないで猫ちゃんに触れたもの!感謝しています!
貴方が私を孤独から救ってくれたのです。
私を助けて…好きになってくれてありがとう!私も大好きよトラヴィス。もし何かあっても泣かないでね?貴方…いつも泣いちゃうところあるでしょう?
私がいなくなったらもっと可愛いお嫁さんをもらって家庭を作ってね。貴方の幸せがそのまま私の幸せだから…どこにいてもきっと大丈夫。だから死ぬことだけは絶対にしないでね?
もし私が生きていたら…いつか絶対にまた会えると信じています。そうしたらその時はたくさんまたお話ししましょうね。
マティルダより愛を込めてー
*
「……………………」
俺は手紙を読み噛み締めた。
きっとマティルダが手紙を残したのはこれから起こるだろうことを先読みしていた。
その通りになった。
「バカ…!!」
俺が君を見捨て他の女と幸せになれるはずは無い!100%あり得ない!そこは外したな!マティルダ!ようやくお前の予想は裏切られるよ!こんな事で勝ったとは思わないけど…。
転生者とかそうでないとかもうどうでもいい!俺は君が生きている事を信じるしこれから探すんだ!世界の果てまでもどこまでだって探してやる!!直ぐに見つけてやる!こんな…手紙なんかで終わらせたりしないから!
それに約束したじゃないか!必ず君と藍の国に行き、共に一緒に生きると!スローライフと言うのをするんだろう?
俺以外のモフモフを触るのは少し妬けるけどマティルダが好きなもので満たされるなら俺も幸せだと思う。
「待っていろ…マティルダ…直ぐに助けに行く!今度こそ絶対に!」
手紙を仕舞い、エンヴァルと共に待ち合わせの王城へと戻った。
クリフォードは先に来ていてパンパンの食料や大量の水を持って待っていた。
「エンヴァル……その魔法の使えない所にはどのくらいかかるんだ?」
「最低でも4日……お前たちを乗せて飛ぶからな…それなりに配慮も休憩もいるだろう?」
「4日だと!?ふざけるな!!1日で飛べ!!」
とクリフォードが怒る。
「何だと貴様!!何様だ!!」
「王子様に決まってんだろう!!」
「ちっ!!」
とクリフォードとエンヴァルが言い争うのを停止し
「4日はきつい…マティルダ達が心配だ。俺は寝なくてもいいから夜も飛んでなんとかせめて3日で行けないか!?」
と言うとエンヴァルは考えて
「しょうがない王子様だな。赤の王子もそれでいいか?寝ないとキツいなら振り落として行くが」
「ふざけるな!!この俺を誰だと思っている!トラヴィスが寝ないなら俺だって寝るものか!!シャーロットが心配だ!絶対に助ける!!」
とクリフォードも3日という事で納得してエンヴァルも最高速度を出すと誓った。
巨大化したエンヴァルの背に乗り振り落とされないよう身体を縛り付けたり荷物を厳重に括り付けておく。
そしてバサバサと大きな翼を広げてエンヴァルと俺たちは飛んで滅びの地へと向かったのだった。
速度はビリビリする風圧に耐えてしがみついた。僅かな休憩で食事と少しの睡眠を取りつつまたエンヴァルにしがみつき夜も飛んだ。
クリフォードは時折俺を睨み
「言っとくが俺の方がお前より遥かに強いからな!」
とか言ってくる。うるさい奴だな。
「そうか…良かったな。強いな。クリフォード」
と言うと
「おい!何だその態度は!!お前冷たい奴だな!!流石青の国の民だけあるわ!!」
「………いやお前が暑苦しいだけだろう…。それにお前みたいな節操なしと一緒にいるだけで頭が痛くなる。ちょっと黙ってもらえないか?」
と俺が言うと
「何だと?この堅物、不能野郎!!落ちろ!死ね!」
と煽られた。
こいつ毎日シャーロットと節操のないことをしておきながら…お前こそ落ちろ!!
「俺は不能じゃない!マティルダに反応するがお前みたいに手は出さないんだ!俺の前で二度とそれを言うな!!次は凍らせて落としてやる!」
と歪み合いながらも俺たちは飛び続けた。
エンヴァルは
「お前らよく舌噛まずにいられるな!」
と呆れていた。
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