第24話 トラヴィスとクリフォード

 俺は消えた王宮の一部を必死に捜索した。ぽっかりとえぐれたような穴が空いていてそこだけ何もない。

 魔法が衝突し合い、消え去った!?

 マティルダが死んだなんて思いたくない!!

 絶対に生きている!

 だって!マティルダはあんなに優秀なんだぞ!?俺より遥かに勤勉で一度だって魔法や学問で勝てなかったんだ!!


「何が…守るだ…」

 俺は泣きそうなのを我慢して探しているとエンヴァルが人間姿になり素っ裸でクリフォード王子を引きずってきた。

 いや…何か着ろ。


 他の兵士も全てぶっ飛ばし、あちこち壊しまくった様だから手が回らないのか、俺たちを追ってくる者がいない。


「トラヴィス…落ち着け。お前…真っ青だぞ?」


「エンヴァル…服を着ろ」

 エンヴァルは落ちていた破れたカーテンを拾い上げ身体に巻き付けた。


「残念だが…マティルダとあの女は…し…」


「「死ぬものか!!」」

 と俺とクリフォードが揃って叫んだ。


「いいか!ドラゴン!シャーロットは本当は強いことを俺は知ってる!彼女は俺よりよほど知恵と誰も使わない魔法を知っている!そう簡単に死ぬわけがない!」


「…マティルダだってそうだ!あの女などに負けるわけがない!絶対に生きている!俺は探すんだ!彼女と幸せになるんだ!王子なんかどうでもいい!これから二人でスローライフと言うのをやる予定だったんだ!マティルダは…約束を破らない!!」

 と俺は壁に拳を打ち付けてジワリと血が滲んだ。その様子を見てようやくクリフォードが


「トラヴィス王子…お…お前…まさか本当にマティルダ嬢のことを!?俺は…シャーロットを取り返しに来たのだと…」


「取り返す?俺が未練たらしくシャーロットに縋り付くとでも思っていたのか?俺の中にシャーロットなどもう1ミリもいない!!俺の心にいるのはマティルダだけだ!!これ以上勘違いをするならお前を氷の刃で突き刺してやる!」

 俺は珍しく冷静さを失ってイライラしていた。


「落ち着けと言っているだろう?トラヴィス…。さっきは悪かった。ここから魔力が完全に途絶えているから死んだか移動したかだ」

 エンヴァルは匂いもないと言う。


「移動って…どこだ!?エンヴァル…一緒に探してくれ!!頼む!」


「ま、待て!お、俺もシャーロットを探したい!シャーロットが死んでるわけがない!愛しているんだから!」

 とクリフォードが言う。


「シャーロットは…俺が毎日毎日愛を囁いても…どこか何か残してきた感じだった。そしてトラヴィスが現れた時理由が判った。シャーロットの心には俺が1番じゃないんだ!くそっ!」

 とクリフォードも壁に拳を打ち付けて血を流した。


「お前達…無駄に怪我をしてる暇があるならさっさと探しに行くぞ。死んでないなら…彼女等の魔力が感じられないと言うなら…魔法の使えない地に転移しているだろうな」


「魔法の…使えない地だと?そんな場所があるのか?」


「古の場所だ。そこには精霊が住むことも出来ないから魔法を使うことができない滅びの土地だ。草木一本生えない死んだ土地だ。恐らく急がないと3日と持たないだろう。食料も水もないんだ」


「それはどこだ!エンヴァル!!直ぐに出発しよう!」

 俺は叫ぶ。エンヴァルは


「まず、食料や水を用意しておけ!滅びの土地へ行くには必要だ。何も無い所だ。なるべく早く用意しろ。女達を死なせたくないならな!…それから赤の王子よ…。今後俺たちドラゴンを狩る行為を行ったら城を壊すだけじゃない!…この国が業火へと変わるのを忘れるな!」

 とエンヴァルは睨む。


「わ…判った…約束する…。申し訳ない…。俺は食料の手配をしてくる!厨房はまだ大丈夫だ!また後で合流しよう!9つ時(午後3時)にまたここで!」

 とクリフォードは言う。


「判った…エンヴァル…俺たちはマティルダの隠した荷物を取りに行こう!大事な物なんだ!」


「判った。付いてくるが良い…」

 と俺とエンヴァルは立ち去る。


 *


 赤の国の第一王子で王太子の俺クリフォード・ハドリー・アダム・ブリントンは厨房で食料をかき集めていた!

 既にシェフ達は皆避難していない。袋に片端から詰めて行く。缶詰も…。

 シャーロットが提案したものだった。


『クリフォード様ぁ…食料が長持ちするよう缶詰を開発致しませんこと?』


『缶詰?何だそれ?』

 布団の中で一通り終わった後彼女が提案した。俺とシャーロットは学園時代から度々人目を盗み愛し合ったがシャーロットの心にはいつも他の誰かがいるようで俺は悔しかった。夢中にさせようとどんなに頑張ってもシャーロットは必ず避妊薬を飲んだし、彼女が嫌がる日や月のものの日は遠慮した。彼女が俺に媚薬香水を使っていることも知ってはいた…。しかしそれ以上にシャーロットは可愛い。媚薬の力を借りずとも俺は夢中だった。


 シャーロットが青の王子と婚約した時には腹わたが煮えくり返った。普通ならここで俺とシャーロットの仲はお終いだろうが…シャーロットは青の王子が中々手を出さないことに悩んでいた。この年頃にシャーロットのような可憐な乙女に手を出さないというか手しか握らない男…正直不能じゃないか青の王子。

 とか思った。


 だから俺は埋めるようにシャーロットを満足させたし俺を心から好きになってもらいたかった。でもシャーロットは…心の中にいつもトラヴィス王子がいたに違いない。


 卒業式でトラヴィス王子と侯爵家令嬢のマティルダ嬢が婚約破棄され断罪された時は…これでシャーロットとも終わりかと思った。しかしその後、マティルダ嬢は何故か処刑を取り消され青の王宮で働くという処分に変わり、その後トラヴィス王子はシャーロットと婚約破棄をし、あっさりシャーロットを手放した。


 シャーロットはショックで俺のところにやって来た。可哀想なシャーロット…。俺と婚約しようと言うとシャーロットはうなづいた。その時は神に感謝した。


 青の王子と元令嬢は何故か青の王宮からいなくなったと聞いた。元令嬢は魔女と呼ばれ王子誘拐で手配書が赤の国にも入ってきた…。


 しかし…それからシャーロットに軍事強化などを示唆されたりした。俺は何でもやった、ドラゴン狩りで素材を得るために殺して肉を喰った。


 シャーロットにも宝石を贈ったり愛を囁き続けた。毎晩愛し合った。シャーロットは避妊薬をまだ飲んでいた。そしてトラヴィス王子達が現れた時にシャーロットは目を輝かせていた…。


 トラヴィス王子を…殺す…しかないと俺は思った。戦闘になり俺も傷を負ったりした。

 奴は女と逃げたが。シャーロットは悔しそうにしていた。何故。…俺はそれでもシャーロットを失いたくない。シャーロット!

 白くて美しい唯一の髪を持つ彼女に未だに恋焦がれているなんてな。


 君は今、生きているよな?お願いだ!生きててくれ!シャーロット!!


「うぐっ…うっうっ!シャーロット!!」

 食料を詰めながら俺は泣いた。

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