第23話 最果ての地で

 トラヴィスを黒の魔法で避難させた後、私はこちらを睨み付けるシャーロットの恐ろしい顔を見た。ていうか怖いっ!ヒロインがする顔としてどうなのか?さっきトラヴィスがいた時なんか物凄い甘え声でトロトロなお顔は何処へやら?


「マティルダ…なんなのあんた?どこまで私の邪魔をする気?別にあんたはトラヴィス様が推しってわけじゃないんでしょ?なのに…愛を誓いあった?恋人同士?キスした?…ふざけてんの?」


「別にふざけてないわ。トラヴィスを騙したりもしてない。本当にお互いが想いあっての結果だわ。それにシャーロット…推しって憧れであり恋愛対象ではなくない?私はトラヴィスは推しじゃないけど彼の純粋で綺麗な心の方が余程好きだわ」


「黙りなさい!悪役令嬢のくせに!ゲームは終わった?でも私はヒロイン!乙女ゲームという世界のヒロイン!絶対的な支配者よ!主役なの!!判らないの?この世界は!私が幸せになる為に存在しているの!!脇役が幸せになる権利はないわ!!」

 と顔を歪めて笑う白髪のヒロイン…。

 あんたこそ今の顔悪役だよ!!鏡ないかな?


「何で脇役が幸せになっちゃいけないのよ?貴方だって、あっさりトラヴィスを捨てて赤の国のクリフォード王子と婚約し直したじゃない!学園でも一線越えたんでしょ?あのゲーム別にR18じゃなかったじゃない!ゲームの話を無視したのあんたの方よ?シャーロット!」

 と私は言ってやった。


「だって…ヒロインハーレムルートがないんだから仕方無いじゃない?推しの一人や二人居るのって普通でしょ?推し同士のCPで薄い本作ったりも出来たし」

 とシャーロットは言う。なるほどね。夢女子と腐女子属性と両方とも持ち合わせていたのか。だからトラヴィスがどうしても必要だったと?あまりにも偏ったくだらなさに吐き気がした。


「いい加減気付いたら?トラヴィスは貴方のこと嫌いよ?媚薬香水を使ってたことにも自分で気付いていたわ」


「そんなわけない!!トラヴィス様は私が好きなの!あんたが!拐って誑かしたんだ!!」


「拐ってない!!トラヴィスは私の後を追いかけてきて一緒に逃げてくれたの!!彼も弟王子に命を狙われるのにうんざりしたからもう王位に戻る気はなさそうだけどね!」

 そう言うとシャーロットは怒りの形相で


「この魔女!悪女め!!殺してやる!!あんたさえいなければ平和なんだからっ!」

 と手を翳し巨大な白の魔法の玉を私に向けて放つ!

 私も黒の巨大な魔法の玉をシャーロットに向けて放った!!

 二つの相反する魔法がぶつかり合い空間を歪めて私とシャーロットはそれに吸い込まれた!!


「きゃああああ!!」

 シャーロットが私の服や髪を掴む。


「ちょっ!離しなさ…痛っ!きゃあああ!!」

 ついに二人とも吸い込まれてしまい



 目を覚ましたその場所は…


「な…何?ここ?どこ?」

 見渡す限り広大な荒地で草木一本生えておらず、地面は所々ひび割れて割れ目に落ちたら恐らく助からないだろうと思った…。まるで地獄に来たみたい。


 側に転がってたシャーロットも起きた。


「何なのよここ?あんた私をここに連れてきて殺す気ね!この悪女が!」

 とまだ罵っている。


「私も知らないわ。気付いたらここにいた。たぶん私たちの魔法の影響でここに飛んだのよ…」


「なら丁度いいわ!ここであんたを倒して私はトラヴィス様を手に入れる!」

 とヒロインはもはや殺る気満々な拳を作っている。悪女そっちだって!!


「一つ聞きたいんだけど…クリフォード王子が可哀想だとは思わないの?彼は真剣に貴方を愛してるのでしょ?」


「当たり前じゃない!あたしヒロインだもの!愛される資格はあるわ!トラヴィス様にだって愛される資格はある!あんたが邪魔なだけ!」

 聞いた私がバカだった。


「愛の資格ね…。バカらしい」

 魔法を打とうとしたけどあれ?力が上手く出ない…。

 シャーロットも同じようだ。


「何ここ、そう言えば…精霊がいない!!」

 と叫んだ。ヒロインである彼女には常に精霊が視える。精霊が彼女に力を与えているのは知っていた。そういうお話だからだ。


「精霊がいないってことは私達ここから帰れないわ。魔法が使えないもの…」

 と言うとシャーロットはあんぐりと顔を向けた。


「は、はあ??何でよ?あ、あんたが悪いのよ!王城で黒魔法なんか放つから!!」


「いや、先に仕掛けたの貴方じゃないの?」

 結果的に最悪なことにここに飛ばされた。これは…もうどうしようもない。見る限り食べ物さえもなさそうだし。水も。

 と思ってるとシャーロットが


「そ、そうだ!あんた青の国の民でしょ!水魔法使えるでしょ?水出しなさいよ!!」

 と叫ぶ。


「いや、だから魔法使えないのよ…。この土地は精霊がいない土地なの…。だから何もできないの。まるで世界の果てね」

 と言うとシャーロットは絶望して


「はあああ!?つっかえない女ね!さっさと死ねばいいのに!!」


「まぁ、どの道こんな所に長くいたら死ぬわね」


「くっ!!嘘だ!私は世界のヒロインよ?精霊達!!私が困ってるんだから来なさいよ!!ねぇ!聞こえてる?」

 と叫ぶが虚しく掻き消えた。


「うっ!ぐっ!!グス!こんなことになるなら大人しくクリフォードと結婚しとけば良かった!!夜の相手だけで満足してないで…うぐっ!?」

 シャーロットはいきなり顔色を変えて走り出した。そして盛大に吐いた。


「うげえっ!ゲホゲホ!」

 辺りに臭い匂いが溜まるが私はシャーロットの様子が気になり背中をさする。


「大丈夫?シャーロット?」


「ふん、き、気にしないで…ちょっと私ヒロインだからか弱いだけよ!最近時々吐き気がするだけで…」

 最近って…時々吐いてる?


「……………貴方それ…赤ちゃんができたんじゃない?」

 そう言うとシャーロットは石になりかけた。


「は、はあ?バカじゃないの?私毎日避妊薬飲んでるし!ないわよ!」

 とバカにしたように言うが…


「シャーロット…毎日って…。あのね?この世界の避妊薬なんかが100%安全だと思ってるわけ?」


「そ、そういえば…最近生理無くて…でもそれはトラヴィス様がいないストレスだって思っててわ、私そ、そんな…嘘よ…」

 わあわあとバカみたいに泣くシャーロットに厳しく言う。


「いい加減に涙を引っ込めなさいよ!水分が無駄に消費されるわ!このバカ!それに貴方に赤ちゃんが出来たのはもう明白だわ。きちんと医者に見せないとはっきりとは言えないけどほとんど症状から見てもそうよ!」

 と私は現実を突き付けた。

 シャーロットは


「いやだ。私は初めての子はトラヴィス様とが良かったのに…あいつは2番目なの…。嫌だ!要らない。要らない!!」

 シャーロットは髪留めの簪を外してお腹目掛けて刺そうとした!


 しかし私がそれを止めた!私の手に簪が突き刺さり血が溢れる。痛みで顔を歪めつつも無事な方の手で彼女を思い切り引っ叩いた!


「子どもに罪はない!!最低よ!シャーロット!!」

 彼女は膝折れてシクシク泣き始めたのだった。

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