第15話 マティルダの謝罪
倒れたノーラ達を無視して俺に駆け寄り縄を解くマティルダ。そして俺が無事なのを知りなんと抱きついた!!
「っ!!?」
「トラヴィス!!良かった!!」
俺はどうしたらいいか判らない。
両手はマティルダを触るわけにいかなくて空を彷徨った。
「マティルダ…俺は大丈夫だ。マティルダの魔法で皆気絶してる。やはりマティルダはす、凄い!でも、その…俺に抱きついちゃダメだ!猫じゃないから!」
「何言ってるのよ!?危ない所だったんでしょ?こんな時まで私のことを気にしなくていいのよ!トラヴィス!…ごめんなさい」
と謝る。何故謝る?俺が力不足で捕まっただけだ。しかも女に。
しかもマティルダにまたもや助けられてしまった。
「俺も女だからと油断していたから悪いんだ。マティルダは悪くなんかない。謝るな」
「………判ったとにかく、ここを出よう。よく見たら凄い悪趣味な部屋ね」
と兎を抱き抱えて下に下りると子分の女共も同様に気絶していて動かなかった。
外に出てマティルダは
「どうする?今のうちにアジトを水責めにして殺しとく?」
と言うので俺は
「流石に可哀想だろう。ともかくさっさと逃げよう」
「トラヴィスは甘いわね。まぁいいわ。モフ兎ちゃん…さよなら…森へお帰り…」
と名残惜しそうに兎を離してマティルダと俺は急いでその場から離れることにした。
*
ようやく安全圏まで離れて結界を張り休むことにした。
「魔法をたくさん使ったから疲れたろ?後は俺がやるから先に休んでいろ」
と言うと
「トラヴィス…今までごめんね?命令とかして。もう貴方のこととっくに許してるわ。
だから償いとかしなくてもいいのよ?無理に私に付き合ってたらさっきみたいに油断して盗賊に拐われるわよ?国に戻って王子様して普通に誰かと結婚して幸せになった方がいいわよ?」
と言った。
「マティルダ…俺は戻らないよ。国は弟に任せると言ったろ?俺はきちんと藍の国まで君と共に行くと決めてる。置いてかないでくれ」
「だから謝罪はもういいと言ってるでしょ?同情で危険な目に遭わすのは私も辛いの!」
「ち、違う。もちろん謝罪もあるけど…お、俺は…俺は…マティルダの側にいたい…」
「え?」
ああ、ついにマティルダに俺の気持ちがバレてしまう。言わないでおこうと思っていたのに。
「マティルダの側にいたいんだ…」
もう一度言うとマティルダは
「猫として?まさか、毎晩猫になってるからやめられなくなったとか?どうしよう。私のせいだわ…トラヴィスに変な癖が…」
ん?
え?何だこれは?まさか気付いてないのか?
「そんなに私にモフられたいの?トラヴィス…もう猫として生きたいの?」
「………………え…………」
しかしマティルダはクスクス笑い、冗談だと言い、真剣に
「トラヴィス…本当にごめんなさい。貴方のこと今まで荷物持ちとか色々命令してたわ。でも旅をしていくうちにトラヴィスが私のことで辛い顔していることにも気付いていたわ。自分のしたことに後悔してることも。私のこと何かで貴方を振り回す訳にはいかないの。貴方にも人生があるでしょう?私はトラヴィスの人生を台無しにしたくないの!王子様なんだから」
「マティルダ…俺が邪魔なのか?」
「トラヴィスこそ罪悪感に苛まれて自由じゃないでしょ?これからは好きにして、好きに生きていいのよ?」
と言われた。判っていない。
俺は君の為なら王子の地位などどうだっていいのに。
「好きに生きていいと言うなら俺は俺の意志で藍の国まで同行するよ。今日みたいなことがないようもっと警戒する。もし鬱陶しいならはっきり今ここで言ってくれマティルダ。俺を捨てると!」
と俺が言うとマティルダは驚き考えた。
「ならもっと笑ってね?もっと楽しく旅をしましょう?これからは。もっと話しましょう?わ、私貴方の好きなものとかも知らないわ。元婚約者だけど何にも知らない。貴方もでしょ?」
「うん…」
俺は気付くとボロボロ泣いていた。ああ、まだ一緒にいられるということに安堵して。
「一つ気付いた。貴方結構泣き虫だわ」
俺は涙を拭うと
「そうかもな…」
と言って笑った。
*
その夜…いつものように猫になるとやはりマティルダは豹変した。
猫の俺を抱きしめ頭や背中を撫でて可愛がってくれた。
それから俺のフワフワな頭にキスした。
猫だからだ。猫だからできることなのだと思いそれでも俺はドキドキしている。
マティルダは俺のことを許すと言った。そして俺を昼間みたいに危険に遭わさないよう安全に生かす為に離れようと言ったのだ。
やがてマティルダが眠りに着いて俺も少し眠り彼女より早く起きて服を着てそのまま……また彼女の隣に潜り込んだ。
そして彼女が起きるのを待つ。
彼女はゆっくり目を開けボーッとしていたが俺が見つめているのが判るとビクっとして
「お、おはよう…トラヴィス…?え?どうしたの?服着てるし」
「そりゃ、服は着るものだ」
「いや、そう言うことでなく…何故…?」
「…嫌?嫌なら出るよ?朝だしな。でも言うことがあるんだ」
「な、何?」
視線が泳ぐ彼女の目を俺はジーと見ながら言った。
「………マティルダが好きだ。俺はマティルダを愛してる。好きな奴ができるまでは忘れないでくれ、できたら忘れていい」
すごく簡潔にそう言うとマティルダは固まった。
俺は起きて
「じゃあご飯を作る」
とテントから出ていつもみたいに火を起こした。
*
あれ?
いつものように
「じゃあご飯を作る」
と無表情でテントから出てったけど…いま…
今起き抜けに私のこと好きだとか愛してるとか告白されたような?
あれ?夢?
ドキドキドキドキドキドキ
はっ!はあああああああああ!?
ちょっと!!何よ!別にトラヴィスは好きなイケメンじゃないのに!!
な、何ドキドキしちゃってんの?
しかもあいつ言うだけ言ってふつーに
「じゃあご飯を作る」
とか言って出てった。いや…何なの?
そう言えば私に好きな人ができたら忘れてよくてそれまでは忘れるなとも言ってたような。
いや夢だな。トラヴィスは真面目で嘘つく奴じゃないことは判るし奴はかなりの奥手なはずだ。と顔を洗って朝ご飯の場に行くとトラヴィスが器を装って渡した。
「あ、ありがとう…」
「ん。愛するマティルダの為に心を込めた」
とめちゃくちゃ無表情で言ったから思わずブーッと噴いた!!
「ええっ!?な、なんて?」
「は?愛するマティルダの為に心を…」
「いや、何恥ずかしいこと言ってるのよ!!しかも無表情で!!」
「無表情で言わないと恥ずかしいだろう?」
「はあ?どっちにしろこっちが恥ずかしいのよ!」
「すまない…あまりにもどんな顔したらいいのか判らない…困ってる。俺は赤の国の王子みたいにたぶん情熱的に積極的にできないんだ…精一杯なんだ」
と言った。ええ…。
トラヴィスらしい。
それからトラヴィスは突発的に私に好きだとか愛してるとか伝えながら旅をすることになった。無表情でたまに照れるが行動に移すのが苦手で自分から手を差し出す時はやはり気遣って手袋を嵌めていたのだった。
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