第13話 トラヴィスへプレゼント

 マイオン村に到着した。もちろんまた変装している。


 トラヴィスは村に一つしかない宿に向かい、部屋を取った。旅人が寄る所でそんなに部屋数は無く埋まっててまた同じ部屋になった。まぁもうどうせいつも一緒に寝てるし慣れた。

 トラヴィスもたぶん慣れたのだろう。何も言わない。


「買い出しは俺が行こう。熱は引いたといえ疲れたろうから君はここで休んでいていい」


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかねぇ。どっこいしょーいち」

 とお婆さんの姿のままギャグ交じりに応えた。笑わんかな?完璧でしょ?お婆さん演技。

 トラヴィスは真顔で


「どっこいしょーいち?」

 ああ、しまった、和製ギャグ通じなかった!撃沈!恥ずかしい!!しかも古い!


「は!早く行きなさいよおおお!!」

 と叫ぶと


「判った…俺が戻るまでいてくれ」

 と少し寂しげな顔をして買い出しに行った。別に逃げないのに。心配症すぎ。

 でも出かけるけどね!

 トラヴィスは忘れてるかも知れないけど私はトラヴィスの誕生日を覚えていた。

 別の太った中年おばさんに変身し直してお金を持ち出かけた。グリブルで金貨を少し換金しておいた。だって平民が金貨の袋なんて持ち歩き買い物したら不審そのものだから銅貨や銀貨など細かくしておいた。


 ふんふん♪と鼻唄歌いながら村を練り歩く。さて何があるかな?というか何をあげようかな?トラヴィスの好きなもの全然解らなかった。

 しかしそこで私の足が止まった!!


 可愛い猫グッズの店を見つけてしまったのだ!

 吸い寄せられるようにその店に入った。

 やあーーーん!!カンワイイ!!

 至るところに猫好きの人を誘惑する罠というくらいカンワイイ猫ちゃんグッズがある。縫いぐるみはもちろん猫の絵付きカップやお皿、餌皿に猫用のブラシにそして…現代でもお馴染み…猫用の首輪や服もあった。


 いや、だ、ダメよ!!流石に!!

 トラヴィスに首輪を渡したりとか猫用の服とか渡すなんて!変態だと思われるし!!

 いやもう既に思われているだろうけどね、トラヴィスは優しいからあえて堂々と変態とは言わないだけであり…。


 いやああ!!なんて可愛い首輪!!

 いやっ!ダメよ!こんなの渡したら


「ああ…奴隷に相応しいな」

 とか言いそう!!

 違うの!だめ!くううう!

 手があ!手があ!勝手に動く!!レジに向かうううう!!


「お買い上げありがとうございます!!」

 気付いたら満面の笑みの店員さんと袋を持った私。


「あれ?時間が…早送りになってた」

 流石にいかんと思い、普通に今度は人間用のプレゼント探しに出た。


 と言ってもなぁ!トラヴィス王子様だったしなぁー!今まで手に入んなかったものって無いんじゃない?でも平民のものは王子様はあまり手にしないかな?それとも平民に近いシャーロットから学園にいる間もうもらったかも。


 とりあえず男性もののプレゼントを物色していると帽子屋台みたいなのがあった。この村の特産かな?

 覗いてみると


「おや奥さん旦那にプレゼントかい?」

 と私に声をかけた。そういえば中年おばさんに変身してた。


「ああ、まぁねぇ?何をあげようかと思って、毎年手作りの料理だけじゃ味気なくてね!」

 ととりあえず店主に合わせておいた。


「ん?それは?」

 私は帽子に猫ちゃんの刺繍模様があるのを発見した。


「あはは!これはうちのカミさんが勝手にやったんでさ!あいつ、こんなの男に売れねえって言ってんのに!」


「いや、判るよあんた。奥さんとは気が合いそうだよ」

 その後、早送りで猫について店主に猫の素晴らしさを伝え終わると気付くと私の手には猫刺繍入りの帽子があった!!


「ぎゃあああ!!やっちまったよ!!」

 と青くなり財布を見たらもうほとんど買えずカップケーキを一つ買って宿に帰るとトラヴィスが先に帰っていてベッドで項垂れていた。

 私に気付くと


「誰ですか?宿の人?あの…お、お婆さんは?一緒にいたお婆さん…」

 あ、そういや変身したままだった。


「ごめんトラヴィス、私だよ」

 と変身を解いた。するとトラヴィスは驚いて


「あ…マティルダか…出かけるなら一言…俺…ついに捨てられたかと………」

 と腰をヘナヘナと落とした。


「ごめん、メモを書いておけば良かった。少し買い物に出ていただけだよ」


「そうか…何を?俺が買ってきたのに」


「え?いや、それはその…うん、ほら…ねぇ?」

 としどろもどろになる。だって買ったものがあれだ。ヤバイ!センスがない上に自分の好みのやつだ!!


 しかし真顔でジーッと見られて待っているのでもう観念してプレゼントした。


「た、誕生日おめでとう…トラヴィス…」

 と包みを渡し、カップケーキも渡した。

 彼は驚いて包みを開けて首輪と帽子を見て


「ああ、ありがとうマティルダ…嬉しいよ」

 と普通に言った。そして笑った!!


「ええ?呆れた?ご、ごめん!つ、つい!首輪は猫用なの!後帽子はたまたま見つけて…ごめんなさい…男の人がそんなの付けてもね…」

 と謝ると彼は笑顔のまま


「いや、マティルダらしい。ありがとう大切にしよう!」

 と帽子を被って見せた。

 あれ。案外似合うわ。

 それに笑顔だ。私も嬉しくなったじゃない!!


「俺もプレゼントだ。ほら」

 とネコの縫いぐるみを差し出した。

 ぎゃーーーんカンワイイ!!


「わぁ!!これいいね!!ありがとう!!トラヴィス!!……って貴方の誕生日なのに!!」


「ははっ!そうだな?でもマティルダが喜ぶかと思って」

 と彼は照れた。


 ドキッ!


「うふふ…じゃあ、夕飯を食べに行こう!」

 誤魔化すように私はまた変身魔法でお婆さんになった。トラヴィスも変身し帽子を被ったまま、夕飯に向かう。


 宿の人に


「弟子が誕生日なんじゃ」

 と言うとちょっと料理をおまけしてくれた。

 トラヴィスは嬉しそうにしていた。旅に出てこんなに嬉しそうな彼は初めて見たかも。


 いつも大体無表情か心配顔かでたまに照れるけど辛そうな時もあった。もしかしたら私もそうだったかもしれないけど、トラヴィスよりは笑顔だったわよ?


 *

 その夜、トラヴィスは猫になり首輪を嵌めた。


「きゃーーー!カンワイイ!!やっぱり!!私の猫ちゃんってかんじ!!ピッタリだし!!」


「しかし…これは外して寝ないと薬が切れたらブッチーンと千切れるぞ」

 とトラヴィスが言い私は


「あ……そ、そうだったわ…ううん…そうねぇ…」

 とガクリとしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る