第12話 雨宿りと熱
「もう少ししたらマイオン村に着く」
俺は後ろでゼェゼェと息を切らすマティルダに声をかけた。結構急な山道を通ることになったから。
こういう時紳士に手を差し伸べてやるのが正解だと思うが、彼女は男に触れられるのが嫌かもしれない。毎晩うなされてるんだから当然だ。
体力のあまりない彼女はヘタリと岩に座り込んで少し休ませてと言う。
仕方ないから俺も休憩しようと荷物からマティルダに水を渡そうと屈んだ時…あろうことか…マティルダの服の隙間から胸の谷間が少し覗いている!!
一気に恥ずかしくなり目を逸らさなければ!紳士としてダメだいけない!!と思いつつもしばらく眺めてしまった事は申し訳ない。
マティルダは鈍感にも水をごくごく飲み干していた。唇から少しだけ水を溢しそれが谷間に消えた時は恥ずかしくなり俺は
「ちょっと用を足してくる」
と離れた。何をやってるんだ。
というか世の中、若い男女二人きりで旅をしている連中は男の方どうやって耐えているのか。俺は猫になって夜はとりあえず耐えてる。
それに償いもあるし人間の姿では触ったりなんてしない。
「きっと他の連中は凄い精神力か元々恋人同士とかかもしれないな…」
するとポツポツと雨が降ってきた!
しまった!傘を買ってない!!
急いでマティルダの所に戻ると彼女は木の下にいたけど隙間から雨はこぼれ落ちるし…
ゴロゴロ雷が鳴り出していてここは危険だと悟った。
「マティルダ!木の下は危ないから移動しよう!雷が落ちるぞ!」
「え?そうだっけ?…ああ、そうだわ…!」
思い出したようにマティルダが言い、俺たちはどこか雨を凌げそうな所を探す。もう既にビショ濡れだ。急に激しい雨が降ってきた。
「トラヴィス!あれ!洞穴?」
と指差すと確かに狭い入り口があった。覗いてみると中は天井が高くてそれなりに過ごせそうだったので獣が潜んでいないかなど魔法探知で探して何もないと判るとそこで雨宿りすることにした。
衣服が濡れたままだと風邪引く。
俺は火魔法が使えない。青の国の民は基本的水魔法や氷魔法が得意な魔力体質が多い。
マティルダは例外で何故か風魔法と氷魔法に水魔法に加えて入れ替わり魔法、風結界魔法、風探知魔法と独自研究を昔からしていたのかとにかく上手かった。
服や髪を風魔法で乾かした。俺のもついでに。優しい。好きだ。
しかし傘を買ってなかったのはちょっとバカだったな。雨はゴウゴウ降っており止む気配がない。
「寒くないか?今日中に村にいけないかもしれないな。ここでは火が使えなくて料理できない。携帯の燻製肉は少し残ってるが」
するとマティルダはボーッとしていて様子がおかしい。
「うーん…私はいいや…。トラヴィス残りを食べていいわよ。今日はここで眠りましょう。朝には止むわ」
と言って俯いた。
「………マティルダ…顔が少し赤い。ひょっとして…体は怠いか?熱があるか?」
「………少し怠い。ちょっと熱いかもしれない。今日は猫にならなくていいわ。ちょっとした風邪かもしれないだけ。ほら疲れてたから…免疫力が落ちたんだ…山歩きあんまり慣れてないし」
俺はとりあえず洞窟内にテントを貼り毛布を敷いてマティルダにそこに寝るように言った。
水魔法で布を濡らし額に置いた。
マティルダは少し辛そうだ。
「頭が痛い…」
と呟いていた。確かリュックに頭痛に効く薬があったのでそれを飲ませた。グリブルで買っておいて良かった。傘は忘れたけど。旅に薬は必要だろう。
洞窟の奥で水が流れていて安全を確認してそれを汲んでマティルダに飲ませることにした。水分は必要だ。水魔法は魔法なので使い続けるのに限りがあるし、新鮮な本物の水の方が身体にはいい。
「ありがとう…トラヴィス…」
「暖かくして水分を取り寝た方がいい」
俺は猫になりくっついた。
「今日はいいと言ったのに」
「寒気があるうちだけ。これから熱が上がるだろう?」
そう言うと彼女は俺を触り眠った。
雨はまだゴウゴウと雷と共に降っていて夜中になり俺は薬が切れて元に戻っていた。
もちろん全裸で。服を着てマティルダの様子を見ると熱が少し上がっているのか苦しそうで額の布を絞り置いてそれから汗はどうしようと考えた。布ごしで少しならととりあえず首元や脇や腕膝などを拭いてやる。
大事な所は流石に無理だが、ギリギリ大丈夫な所は布ごしで拭いた。腕などを持つ時も手袋をつけてからなので直接肌に触らなかったぞ。
それから汗が引いて熱も下がってきたな?と思った。手袋越しに額に当ててもよく判らないけどさっきより楽に呼吸しているから下がりはじめたな。汗をかいたし大丈夫だろう。
俺は自分の毛布も彼女にかけてやり少し離れて眠った。
*
俺は夢を見た。
初めて彼女に会った時、憎らしくも目を逸らしたマティルダ。
父親に
「マティルダ挨拶なさい!」
と叱られ仕方なくと言った様子でキッと睨み淑女の礼を取り
「マティルダ・ジョーダン・ムーアヘッドですわ!殿下!!」
と言った。
婚約者としての日々…。お互いに干渉し合わない学園生活。あの頃の俺は…マティルダが嫌いだったのに。何しても敵わないことに苛立った。…今はこんなに愛しい。
酷い目に合わせてごめん!きっと君は一人で不安だったのかもしれない。
*
朝、私は目を覚ました。熱が引いているし毛布は2枚かけてあり横で王子様が寝ていた。
服は着てある。
でも私はトラヴィスに涙の後があるのを見た。
え?
しかしその後彼は起きて私を見て
「熱は下がったか!怠くないか?動けそうか?…ああ、雨が上がったな。食欲があるなら食べて無理しないように移動しようか」
と言う。
お母さんか。
乾いた木はもちろん見つからないから残ってた燻製肉を食べた。
それから出発する。トラヴィスは手袋を嵌めていた。
それから手を差し出した。
「足元が危ない。手袋越しで我慢してくれ」
そう言って私に手を差し出したまま動かないから私はようやく、ああ、どんだけトラヴィスに気を遣わせていたのか思い知った。
「ごめんなさい…私…大丈夫だよ」
「ん?ああ、手袋でもダメか。すまないな」
「違うのっ!」
急いでその手を握る。手袋越しだけど。
「心配かけてごめんなさいトラヴィス…。そう言う意味の大丈夫だから」
と微笑むと、少し彼は照れて
「そ、そうか、なら行こう」
と手を繋いだまま歩きはじめたが、なんか動きが変だ。トラヴィスの両手両足一緒に出ている。
はっ!!これ!前世で見たことある!ナンバ歩きね!!足腰に負担が少ない快適な歩き方で健康維持やらストレス解消やらウォーキングに適している歩き方じゃない!!
私は震えた!そこまで私のこと気にかけてくれるなんて!!熱なんかだして余程心配かけたのね!!ごめんトラヴィス!!貴方ほんとにほんとに真面目で優しい人だったのね!!
感動したわ!!
と私も真似して歩いたらトラヴィスはちょっと変な顔してた。
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