第10話 今日もモフられる王子

 夕飯の席で俺たちは話し合った。

 マティルダが幸せに暮らせるというモフモフ天国藍の国を目指すことにした。

 マティルダが美少年好きとはな。まぁ大人の男は苦手だろう。あんな事をされたのは俺の責任だ。彼女が落ち着く家を探すのを手伝う。


 その時俺は捨てられてしまうかもなぁ。モフモフ猫は俺じゃなくてもいるのだろうし。

 そしたら影からソッと見守って生きようかな…。(国に帰る気ゼロ)


「藍の国までは魔物も沢山出るだろう。ブルメシアは魔物が少ない。今まで遭遇しなかったろう?奇跡だ」

 すると彼女は言った。


「お爺さんのとこ出てからは私が魔物避けの魔法を使っていたからね」

 ガガーン!!

 なんて事だ!マティルダにまた負担かけてたのか!?


「そ!そうなのか!?すまない!!気付かなかった!………それは疲れるな。またマティルダ1人に無理を!これからは使わなくていいから!」


「あのね!王子に何かあったら大変でしょ?当たり前のことをしただけだわ!」


「俺だって剣術を学んだ!頼むから償いをさせてくれ!守らせてくれ!!…」

 と真剣に言うと


「あのね、戦うと疲れるし余計な傷だって増えるでしょ?私回復魔法は使えないの。攻撃魔法使う方が疲れる!…トラヴィス様?私の言うことは何でも聞くなら私に従うのよ!」


「うっ…わ、判った…」

 と俺は無力さに項垂れた。彼女の魔法の腕は知ってるし。


 *


 部屋に帰ると早速キラキラお目目で俺の猫モフ待ちだった。小瓶を取り出す。もうストックが無くなりそうだから明日補充に少し薬屋を訪ねることにした。これだけは買っておかねば!!

 マティルダにモフられる為だけに??

 と考えて赤くなる。

 マティルダは俺の気持ちに気付かないし気付いて欲しくないとも思う。


 だから俺は彼女の猫でいたい。昼間は荷物持ちでもいい。側にいるだけでいい。もうそれ以上望まない。マティルダのことを大切にして見守って行くつもりだ。もしマティルダの男性恐怖が治って別の男と結婚しても…。


 マティルダが俺のことを嫌いなのは子供の頃から知っているし。

 俺は薬を飲み干して猫になる。服はやはり落ちる。


 マティルダが恍惚で待っていたのでストンと彼女の膝に座る。もはやルーティーンだ。

 彼女の膝は柔らかい。猫でしか触れられない。

 彼女は待ってましたと俺を撫で回す。

 今日も彼女の優しい手が俺の至るところを触る。


 ああっ!そこは!

 何故か尻尾は触られるとゾクゾクする!!耳も同様。彼女は猫だから安心して触れる。

 俺は彼女の癒しとして存在するのだ。

 人間の俺は好きになってもらえなくとも猫ならば好きになってくれる。


「はぁ!やっぱり猫は最高!好きいいい!毛感触がもう堪らない!!」

 と言って嬉しそうだ。


 …俺も好きだよマティルダ。違う意味だけど。でも俺からは言えないだろう。一生。どんなに焦がれても無理だ。俺は償わなければならない。


 俺は何も言わず猫になりきり時折


「にゃあん」

 と猫らしく鳴く。それが彼女の望みだから。


 彼女は満足して眠くなったのかまた俺を抱えて眠る。いつものことだ。しばらくすると彼女は呻き声を上げる。また嫌な夢を見ている。

 いつもだ。可哀想に。涙を溜め俺はそれを舐めた。


「マティルダ…ごめんよ」

 俺は呟いて彼女のそばに寄り添い眠る。

 夜明け前の彼女が起きる前に薬が切れて全裸の俺は何とか抜けだし服を着て隣のベッドに移った。彼女との温もりを感じられるのは猫の時だけと決めた。これからはなるべく毎日そうしよう。


 彼女に男の裸など見せてはならなかったな。

 王宮ではいつも侍女が起こしにくるから慣れていなかったのだけど。


 *

 朝になると少しだけ眠ってた俺はユサユサと起こされた。マティルダの空色の瞳が俺の目に映って起き上がった。


「おはようトラヴィス様!朝食の時間よ!食べたら必要な物を揃えて出発よ!」


「ああ…」

 起きる度不安になる。彼女がまた1人て消えていたら。でも今日もいてくれたことに感謝する。俺たちはまた変装してグリブルの街を周る。混んでいるので逸れないようにするの大変だ。


「ルディさん俺の服を掴んで?混んでるから!逸れないように」

 と弟子になりきった俺が言うとお婆さんに変装したマティルダは


「判ったよヴィース」

 と言い、裾を持つ。

 彼女は若い娘に変身なんてしない。男に襲われた経験があるので警戒しているのだ。

 こんな街では特にそうだ。


 ようやく薬屋を見つけた。

 中に入ると薬草や薬の匂いが充満する。俺は店を見ていきとある物に気付いた。


「この匂い…」

 店主が出てきて


「ああ、それはブルメシアで流行ってる香水の一種でね。うちも一つ置いてみたんだよ。中々こっそりと買っていく人も多くてね、ふふふ」


「やはり媚薬が?」


「ええまぁ少しね?でも効き目によってはその日にキスくらいはする意中の相手もいるだろうね。男の方は耐えられないだろう?耐えてたとしてらそいつ相当な恋愛音痴か、少しは夢中になるけど大して相手に興味ない場合は何も無いんじゃないか?男として不能だね」

 とずっぱり言われた。

 えええ!?


 お、男としてふ、不能。

 確かに俺は手を握るくらいで手を出さなかった!!でもそれは結婚するまで純血を守ろうと誓ってのことだと信じてた!!


 後ろから哀れみの目でマティルダが見ていた。

 えええ!!

 違う!俺は別に不能じゃない!!


 思わず汗が出る。


 薬を買って帰る時俺は思い切って聞いた。


「マティルダ…あのさ、君…シャーロットが赤の国の王子と出来ていたのを知ってたのだよな?その様子じゃ。見たのか?2人の相引きを…。2人は親密だったのか?」


「えっ!?私がそれ言っていいの?」


「大丈夫、シャーロットのことは何とも思ってない。ただ香水の効果が俺と比べてどうだったのか気になる」


「ああ、そういうことね?ええとまぁ、落ち着いて聞いてね?でもほら赤の国の人ってすっごく情熱的な人多いでしょ?……………まぁ私も最後まで見ていなかったから知らないけどかなり熱々ね。胸は揉んでたな。私は直ぐに去ったけど」


「あ…そ、そうなんだ」

 最後までしたのか。シャーロット…。今はどうでもいいけど、赤の王子は香水とその情熱さできっと最後までしたと思う。

 そして俺はと言うと…。いや今となってはしなくて正解だったけど薬屋に不能とまで言われた俺は一体…!!?


 チラリと婆さん姿のマティルダを見る。もしマティルダに試したらどうなんだろうか?

 …ってダメだ!彼女に触れる時は猫の時だけだ!!


 今日も宿でモフられながら俺は思った。

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