第9話 国境の街グリブル

 国境の街に入る前に私達は髪の毛と瞳を魔法で染めた。髪は緑にして目は薄い黄緑色だ。緑の国、グリオーブ王国民は皆こんな感じの人が多い。国境の街は多くの髪の色や瞳の人が多い。ちょっとした観光地だし、国境の中継地だからか色んな国の人が行き来しているのだ。


 それでも私達は逃亡者なので髪色などを変える必要はあった。しかも壁にバッチリとトラヴィスの顔と私の人相書きが描かれている。あまり似てないがトラヴィスは美形に描かれていた。私の方は魔女として扱われ、


(トラヴィス王子を誘拐した悪い魔女マティルダ)

 として報奨金が書かれていた。ひっど!!

 ていうか誘拐した事になってる!!


「何だこれ?酷いな!マティルダはもっと可愛いぞ!!」

 と怒るポイントそこなんだ!?と思った。

 とりあえずトラヴィスはダサい黒縁メガネをつけてわざと髪をボサボサにかき回し酷くダサい荷物待ちと化した。誰も王子だとは思わない。


 私は軽く腰を曲げて顔の一部分をワシ鼻にしてお婆さんになりきった。てかもう魔女みたい。

 なまじ魔法の腕には自信あるからね。

 検問もあっさり突破した。


 お昼を取るため店に入ると私たちの事を聞いて回る男がいた。しかもその人私たちの所にもきたけど全く気付いていない。


 黄色い髪の毛の青年は追っ手だろうと直ぐ気付いた。


「おい、お前達、この男女を見なかったか?」

 と私達の人相書きを本人の前に差し出す。


「はて?知りませんね?あたしちょっと目が悪いもんでね。ヴィースや…これ読んでおくれ。この子あたしの弟子だよ」

 と完璧にお婆さんの真似してみせた。


「……ブルメシア王国の第一王子様と元侯爵家令嬢がいなくなった。元侯爵家令嬢は残虐非道の魔女で王子を誑かし王宮から誘拐する。見つけたものに金貨500枚…だそうです」


「見たことはないのか?」

 と男は聞く。この男…もしや暗殺者かな?何か武装してるし。だとしたら間抜け過ぎる。顔覚えた。


「残念ながら。見たことはないですねぇ、お役に立てず申し訳ないですじゃ」


「…そうか、済まなかったな!ではゆっくりしてくれ!」

 と男は次の客に聞き込みをしていた。

 あの男…バカだわ。黄の国にはバカが多いとは聞いていたけど、変装してるとか思わないんだろうか?


「あいつバカですね」

 とトラヴィスにまで言われていた。


 それから宿を取り鍵をかけようやくベッドに沈んだ。お婆さんと同室にされたが流石に観光地で1室しか取れない。


 ベッドは二つあるし大丈夫ね。


「疲れた…本当にお婆さんになったみたい。歩いて来たし」

 王子の乗ってきた馬は世話になったお爺さん達にあげたのよね。王家の馬だったし。万一バレてもお爺さん達は


「この馬が彷徨っていたんで保護しとったんです。怪我が癒えたら王宮に送るつもりでした」

 と言うことにしようと言った。


「今日はぐっすり眠れるな」


「その前にモフらせてね」


「はい…」

 とトラヴィスは顔を赤くした。


「グリオーブ王国に腰を据えるのか?」


「うーん?グリオーブねぇ…緑があって自然があっていいところだけど…うーん、藍の国かな腰を据えるなら。そこでゆっくりスローライフして魔法の研究や畑を作ったりしたいわ」


「お嬢様が畑…」


「あら…意外?もうお嬢様じゃないけどね。知識はあるわ」


「でも何故藍の国?緑の国の方が植物は育ちやすいぞ」


「ブルメシアと隣だし近過ぎるわ。それに藍の国は推しの…いや王子様可愛くない?」


「確かまだ幼い王子がいるな。七国会談の場で会ったことある」


「でしょうー?美少年で可愛いわよね!それに藍の国ってね、モフモフ猫が多い!!私にとっては天国なのよ!私だけのモフモフ天国!!」


 するとトラヴィスはメガネを取り嫌な顔をした。


「美少年とモフモフ…可愛いもの…マティルダはそういうのが好みなのか。やはり小さくて可愛いものが好きで俺はいつか捨てられると…」

 とブツブツ言っていた。


「別に猫のトラヴィスに飽きたんじゃないわ!触らせてくれるし!でもぉ、たまには違う猫ちゃんにもトライしてみたいのっ!お願い!!」

 と手を合わせるとふーっとため息の後トラヴィスは了承した。昔だったら話すらしなかったのにね。


 藍の国インディグマ王国には沢山の種類の猫ちゃんがいるみたい。他所の色の国から輸入されハイブリットや珍しい毛色の猫もいる。色もピンクとかあったりするみたい。

 流石乙女ゲーム世界ね。本編は終了しましたがカラフルな色合いの人々動物は断罪後でも変わることない。魔物だって乙女ゲーム設定だから遭遇率低いしね。一応警戒はしているけど。


 その点ブルメシア王国って母国とは言えあんまり他国との交流は盛んではない。控え目に言って地味なのである。ブルメシアの特産って魚くらいだし。国土の半分は湖が占めていて静かなんだけどね。


 因みに件のヒロインのシャーロットって実は髪色が真っ白なのである。乙女ゲームの設定では昔病気で髪が白くなったとかだったなー。だから目立ってたなぁ、学園では。だからいじめられたりトラヴィスが助けに入ったりして良い仲に発展したというセオリー。


 トラヴィスは今シャーロットのことどう思ってるのかしら?

 流石に私がトラヴィスの身体にいる時に婚約勝手に解消したしね。だって牢獄生活で処女まで失った仕返しに酷いとは思ったけど、実は学園にいる頃から彼女が赤の国の王子キープに浮気してるとこバッチリ見ちゃってたし。あの子も婚約解消したら驚いてはいたけど結局赤の国の王子が気になってたのかさっさとそっちに連絡して去った。ビッチめ。


「トラヴィス様って…シャーロットとやっぱり一線超えましたの?お二人仲がよろしかったものね?」


「は?何故?あの女の話題が?俺は裏切られたんだぞ?ていうか騙されていたも同じだ。あの女は香水に媚薬を少し混ぜてたのかもな。今は何とも思ってない!交際中も手しか握ってないよ!!」

 とトラヴィスは何故か必死だ。媚薬入り…確かにそういうのは少量の規定違反にならないくらいの量で巷で意中の男性に振り向いてもらう為売られていたりする。女性達の間では流行っていた。私はつけなかったけど。


「ええ?そうでしたの?でも手しか握ってないなんて本当ですか?恋人なのに?」


「当たり前だ!そういうことは結婚してからするものだし!………すまない…」

 と最後にトラヴィスは謝る。ああ、私があの兵士に無理矢理奪われたことか。もう時間も経ったからどうでもいい。

 ただ気持ち悪くあの男が去った後は吐いた。

 火傷の跡も痛んだ。

 顔をしかめたのを見てトラヴィスが


「大丈夫か?痛むか?」

 と心配した。本当に変わったな。入れ替わってみるものね。


「もういい…余計なことを思い出したわ。今度記憶を消去する魔法でも開発しようかしら」

 と私は笑い夕飯を食べながら藍の国にどう行こうか話し合った。

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