第7話 国外逃亡
マティルダの顔色が良くなってきた。血がだいぶ戻ったからもうだいぶ動ける。
「国外に逃げた方がやはり安全かしらね」
「そうですね。ここからだと緑の国グルオーブ王国が近いです」
「やっぱり付いてくるのね」
「モフりたくないのですか?果たして俺以外に触らせてくれる猫がいましょうか?」
「くっ!トラヴィスのくせに!!」
「でもこの髪の色と瞳は魔法で変えとかないとね。流石に目立つし、手配書が出回っていたら直ぐにバレそう」
「そうですね。俺もそうした方が暗殺者に判りにくいだろうと思います」
「国外に逃亡するのにまだ暗殺者の影を気にしているの?トラヴィス」
「まぁね…ウォーレンは確実に俺の首を落とさないと気が済まないだろうな。俺が生きていると王位を剥奪されると思っている。おっと失礼。敬語でなくて。まだ慣れないのです」
「もういいわ…。敬語でなくても最初は面白かったけど飽きたわ」
何い。人を弄ぶとは!こ、この悪女め!……好きだ!
オホンと咳払いをして
「夫婦に明日立つことを伝えてくる」
と俺は席を立つ。
夫婦に伝えると
「まぁ!大変!今夜はお別れ会のご馳走にしなきゃ!!」
と白髪の奥さんアナスタージアさんがキッチンに向かった。
旦那さんのディヴィッドさんは旅の資金や服に毛布夜営道具などを一式くれた。なんていい国民だ。青の国の人は本来慈愛に満ちている。
夕食の席で少し豪華な料理を口にしながらディヴィッド爺さんは言った。
「残念ですでなぁ。まぁろくなものも、食べさせてやれねんですまねぇ。王子様に元侯爵家のお嬢様」
となんと正体を知られていた!!
警戒したマティルダは立ち上がった!
「くっ!まさか料理に眠り薬でも!?」
「そんなことしてねぇさ!!ワシ達村で行方不明の王子と元侯爵家令嬢の女が逃げたと聞いたべ。何枚か人相書きも合ってな。あんたらに似てたべ!でもな、誰にも言っとらんで。なんか訳があるべと思ってで」
「私達を捕えたら報奨金でも貰えたかもね」
「いや、いいべ。今でもワシは幸せだで。…ワシ達も若い頃黄色の国トパイルキ王国から駆け落ちしてきたしがない元貴族だっぺ。今は老けて白髪だけんども!!あはは!」
と笑った。駆け落ち…。この人達が黄色の国からの…。老人になってしまえば髪色はどの国も白くあせてしまうからなぁ。それまでは魔法で誤魔化していたかもしれないが。
「いやあ、若くてハンサムな王子様を拝見できて私も死ぬ前に眼福だっぺ!」
と奥さんが言うと旦那さんが剥れた。
「この浮気者め。若え男さコロッと靡くでね!」
「あははっ!ディヴィッド!嫉妬する歳でねぇべ!!…お嬢さん…本当さ名前はマティルダってんだろ?」
「…………はい…」
「辛いことがあったべ?あんたからはそんな匂いさする」
「匂い?ちょっと判りません…」
「悲しい匂いだべ。人を信用してない匂い…。
いつかあんたにもきっと良い人がいることに気付くべ」
奥さんはそう言うとマティルダのお皿にターキー料理を装った。
その夜マティルダは夜中にうなされているようだった。トイレに起きた俺はマティルダの様子を見ようと少しだけ戸を開けたらうなされていた。
「いやっ!こな…いでっ…辞めてっ…ひっ…うう」
マティルダ!!
きっととても酷い悪夢を見ている!
俺がそうさせたのだ…。後悔しても時間は戻らない。マティルダは悲しい匂いがするとアナスタージアさんは言っていた。
俺は彼女のそばに居よう…。猫としてでもマティルダに心の平穏が訪れるなら。
*
翌朝、マティルダと俺は夫婦にお礼を言って国境を目指す。もしかしたら俺を暗殺者が狙いに来るかもしれなく油断はならなかった。人気のない所を通って慎重に歩く。一応剣は腰に下げてきたがマティルダが
「バカなんですか?そんな…王家の紋章入りの剣とか持ってきてバカなんですか?王子ですよ!って名前書いてるみたいなものですよ!」
「う、うーーーん……その通りだ…」
そこまで考えてる暇なかったよ。
「とりあえず布でも巻いて紋章は隠しておいてくださいね!いざとなったら私が魔法で手を加えますけど」
「ナイスアイディア!」
と拍手すると
「……ほんと頭悪いですね。頭良さそうに見える見た目なのに残念王子だわー…」
そこまで言われると凹むが事実マティルダは頭がいい。学園でも成績が1番だったし、魔法の実技授業でも上位をキープしていた。
その頃は俺と気が合わなくて目が合えばお互い無視をしていた。俺の変なプライドで女のくせにでしゃばりやがってということばかり考えてた。だからマティルダを追い抜いてやる為に毎回頑張ったけど絶対に負ける。
所で前を歩くマティルダが少しソワソワしだした。これは…
「マティルダ…あっちに何か水のようなものがある。そこで少し休憩しよう。地図も見たいんだ」
と言った。
「そ、そうね!!そうしましょう!!わ、私先に行ってくるわ!!とダッシュで走って行く」
俺は入れ替わった時にしばしば体験したから解る。マティルダはきっと今トイレに行った。
マティルダの為なら俺は穴を掘って簡易トイレを作ってあげれるのに。
俺にもっと命令して謝罪を…。
と思い、俺は浅はかだと思った。
罪を帳消しにしてほしいなどと。
彼女はこれまで誰にも頼らなかったのだ。1人で全部こなしてきた。入れ替わりの魔法もだ。あれは…マティルダにしか作れない。頭の作りが違うのだ。
でもマティルダは何年もかけてと言っていた。どうして?こう言うことが起こるとこを予想できていたのか?
まだマティルダに関して知らないことがある。
トイレからこそりと戻ってきたマティルダは泉で清めて休憩した。
「今日はここで夜営の準備をしていいかな?水場が近くに合った方が便利だろう?」
「そうね…一応魔物避けの結界を張るから任せて」
と彼女は魔法の結界を3重にかけた。やはり天才である。俺は頑張っても2重に届くのか不明。
「マティルダ…君って凄いな。やはり学年首席には敵わない」
「…魔法が楽しいからよ。魔法という分野を学べるのはとても嬉しかったの」
「へえ?」
彼女は目を細めた。
それから夕飯を軽く食べ終わると眠い目をしてトロリと俺を見た。ドキリとしたけど悟った。
今日はまだ猫になっていない。
はいはい、わかりましたよ。
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