第6話 モフモフを堪能する女

 何故こうなった?

 俺は猫の姿のまま、マティルダの膝の上にいる。しかもめちゃくちゃに触られている。腹とか背、耳、顔、顎の下、尻、尻尾、前足、後脚肉球、牙、鼻至る処をマティルダは優しく絶妙な手付きでサワサワと触ってくる!!


 正直猫の姿になっているとは言えおかしくなりそうだ!!しかも!!マティルダの膝の上という至高の上でー!!

 あーーーーー!!

 俺はなんかはぁはぁ息を切らせつつあるのを必死で隠した。


 マティルダは相当な猫好きということが嫌でも判った。もう目付きがヤバイ!!


「あの…マティルダさん…どれだけ猫好きなんですかね?」

 と聞いてみたら


「触るのが初めてなの…。いつも猫は私を見て逃げ出すし、人に…猫を触っている所を見られたくなくてつい意固地になって…避けてて」


「あー…ふーん、そーなのかー…」


「なっ、な!何よ!!トラヴィス様のくせに!!でも今は猫!あの憎たらしい整った顔じゃなくてめちゃくちゃ可愛い猫が私の膝にっ!そうよ!これはもうトラヴィス様ではなく猫よっ!ただの猫だわ!!トラヴィス様なんていない!!」

 と俺の存在まで否定しだしたよ!!


 しかしさっきから触られ続けて時間もかなり経ってそろそろ元に戻りそうなんだが!!

 ヤバイぞ!!で、でも膝が気持ちいい!!

 自覚して知った気持ち…。好きなマティルダの膝の上!!

 俺もうどうなってもいいーー!!


 と悦ってたら時間切れでボワッと元に戻った。そんで全裸だった。猫になる時身体縮むから服は散乱したまま。

 俺はマティルダの膝の上で全裸でコロリと横になっていた。


 マティルダは放心していたが悲鳴をあげ顔を隠した。


「いやあっっ!汚いっ!!!」

 と口走りショックで死にそうになったが、服をかき集めなんとかモゾモゾ着た。


「す、すまん、もういいぞ」

 と謝る。なんかもう恥ずかしいやらショックやらで追いつかない!!


「………その口調…王子っぽくて嫌だわ。私のいう事を聞くなら敬語にしたら?」

 とマティルダが言う。敬語に…。


「は、はいマティルダ様」

 と言ってみると案外彼女は気に入ったようだ。優越感な顔している。


「本当に何でも聞くのね!」


「まだ身体は悪いのだから寝てほしい……です」

 と心配する。できる事ならまた痛みだけでも変わってやりたい。


「入れ替わりの魔法が使えるなら傷が癒えるまで俺が変わろ…変わりましょうか?」

 と提案すると彼女は目を丸くした。


「貴方本当にトラヴィス様??…ていうかそんなにしょっちゅう使えないわ。これを使うと貴方気絶するもの」


「ああ…」

 確かに入れ替わった後魂が揺さぶられ気絶する。


「俺に様はつけなくていいです。反省してるんだ。本当に」


 彼女は少しだけ困った顔をしたが


「また明日猫の姿になって触らせてあげますよ。明日も明後日も君が望むなら!」

 と言うと彼女の頰に赤身が刺した!余程触りたいんだろう。


「わ、わ、判ったわ。そんなに言うなら勝手にして!」

 それから彼女は眠った。やはり血の気は少ない。彼女にポーションを口移しで飲ませた事は言えなかった。もしかしたら男が苦手になっているかもしれない。あの衛兵が近寄ってきた時に無意識に身体が震えたのを覚えている。


 これから先…彼女に触れる時は猫の姿でと決めた。彼女の長かった髪は短くなってしまった。これも俺のせいだ。自分のした罪が深く胸を痛めつけた。もうシャーロットのことはどうでもいいと思った。彼女の側には常に甘い香りがしていたのに。


 香り?


 俺は気付いた。

 俺は勘違いで最初マティルダを嫌っていた。贈り物をしても喜ばない女。


 でもシャーロットと会ってからその甘い香りに惹かれ癒されていた。

 え?

 ただの疲れを癒す為だけの存在だった??

 そう言えば…香りにはそういう癒し成分が含まれていることも多いし、媚薬の類も…。


 ………。

 そこまで強く無かったにしろそういう効果があるのを前提で作られる香水は多い。特に恋人同士限定で売り出されるものがあるとは聞いたことがあった。


 シャーロットがそれをつけていたとしたら?

 俺の恋心は…操作されていた??


 …。

 チラリと眠るマティルダを見る。もちろん香水など付けていない。なのに今の俺はマティルダを見ると安心してそして胸が高鳴るのだ。


 *


 後日。


「にゃーんは?」


「にゃーん!!にゃあああん!!」


「はーーーん!!かっ!可愛いいいいい!!好きいいい!!猫ちゃんんんん」

 とマティルダは猫の俺を抱きしめながら全身を触る。くっ!!好きとか言われた!!

 いや、猫の俺にだけど!!


 俺は猫になり切らないと触って貰えないし触らせて貰えないのだからっ!だから猫の時は俺ももはや甘える事にした!割り切った!!

 頬ずりされようが何されようが!


 ふあああん!!

 マティルダ!!いい匂いだなぁ!!


「ああああ!!猫ちゃんを洗いたい!!猫ちゃんを洗ってみたい!!」


「は?」

 その言葉で我に帰った。


「ずっと前、小さな子がお庭で猫を洗っているのを見かけたの…私とても憧れていたわ…どんな感じなのかって…何でもいう事を聞くのよね??」

 とマティルダは怪しい目つきをして、老夫婦に桶などを借りに行った。

 えええっ!?

 撫でるだけならまだしも!洗われるのか?

 お、俺の全身を?そんな!マティルダ!

 大胆すぎるよ!


 いや、洗われるのは猫の俺だ。しかし、猫でももしかしてこの金●も洗われるのはちょっと…しかしマティルダなら!!


 *

「ジャブジャブジャブ~♪いい匂い~♪気持ちいいですかー?」


「にゃーん…。にゃああ♡」

 もはや思考が追いつかない。一応人間では超イケメンなのに俺!!もうダメいろんなところが泡立って…。マティルダの手付きがやばい!!


「じゃあ最後にお湯をかけるわ~♪」

 とバシャリとお湯をかけた所で人間に戻ってマティルダはまた悲鳴を上げ逃げて行った。


「ふっ…マティルダになら全身くまなく見られたっていいのに…恥ずかしがり屋だなぁ…ふふっ」

 と俺は濡れた髪をかき揚げ全裸で笑って通りすがりの近所の子供に


「うわっ!変態だ!お姉ちゃん!」


「見ちゃダメだよ!ニット!!行こう!!」

 と姉が引きづっていく。


 変態か…こんな美形なのに。

 タオルを手に俺はため息をついた。

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