第5話 王子の全力謝罪

 私の身体に戻った時少しの間とは言え、王子の健康な身体で良いものを食べていたからそれなりに快適な数日だったけど、やはり元の体に戻ると反動は凄い。


 どんな働き方されたのか身体が重くふらついたが何とか気絶した王子から離れて走り、森へと逃げた。王子が私の身体で自害しなかったのが幸運だと思わないと。


 時々痛む火傷の後も彼は見ただろうな。処女じゃないことにも気付いたろう。


 私と王子は元々憎み合ってきたからちょうど良い。そんなことを考えていたら足元を滑らせ私は小さな崖から落ちていた。

 しばらく気絶したのか気付くと大量に出血しあちこち全身が痛い。回復魔法を覚えて無かったな。そもそも聖魔法使えない。


 痛む身体を引きづり歩いた。獣か魔物が血の匂いを嗅ぎつけたらお終いだ。

 結界魔法は使えるけど今のこの弱った身体でいつまで保つか判らない。気絶したら解ける。


 すると灯りを見つけた。火?人がいる。

 悪い人かな?良い人かな?でももういい、ここで死んでも…。

 すると私に気付いた人が近づいてきた。

 まさか…虚な目で見たその人は先程置いて逃げてきた王子だ。

 王子に追いつかれる程時間経ってたか。


 あーあ…ついてない。

 トラヴィスと再び何か会話して痛みが限界で気絶した。

 次にまた起きると傷は治っていたが身体が上手く動かない。血を流しすぎて気持ちが悪い。頭もグラグラする。またトラヴィスの顔を見て何か会話して気絶した。


 *


 次に目覚めると知らない所だ。木造の家の柱に天井が見えた。暖かい民家?

 ガタン!と椅子がひっくり返る音がしてこちらに近付いてくるトラヴィスが見えた。


「マティルダ!!起きたのか!!」

 何故こいつがいる。

 王宮に戻されちゃ厄介だな。


「トラヴィス王子…」

 すると王子は指を当て


「しっ!俺が王子ということは隠している!俺のことは…ヴィースと呼べ!いいな!?家の者に悟られるな!」

 と言われた。すると食事を運んできた老夫婦が顔をだす。白髪の老夫婦だ。他に人はいないらしい。


「おはようお二人さん。お嬢さんも起きれるかね?崖から落ちたって?傷は治ったようだけんど無理しちゃいかんべ?ほれスープだ」

 と持ってくる。

 暖かいキノコのスープだ。


「それにしても2人とも美男美女のカップルでねぇべか!!お似合いだな!若ぇ頃を思い出すべ!」


「じーさん!やだね!おめぇさんはこんな色男じゃなかっぺ!!」


「何ぃ??」

 と老夫婦の痴話喧嘩を見せられる。

 ていうか誰がカップルか!!


「お世話になりました。スープを飲んだら出て行きますので」

 と言うとお爺さんに驚いて止められた。


「まだダメだっぺ!回復を完全にしなきゃ!森は越えられんべ」


「………ですが…」

 と私が言うとトラヴィスが


「ルディ…ここは夫婦に甘えさせてもらおう。君本当に酷い身体だった。ポーションがあって良かったが血は失っている。まだ動いちゃダメだ」

 ……ルディ?ああ、偽名か。


「……判りましたわ…ヴィース」

 私を監視して逃さない気かしら?


 老夫婦は朝になるとにこにこして買い出しに出かけていった。人数が増えたから料理の材料を買ってくるそうだ。


 彼等が居なくなったのを確認してトラヴィスは頭を床につけて謝罪を始めたので驚いた!!


「何を!?貴方王子ですよ?この国の!庶民に頭を下げるはお辞めになって!」


「すまない!マティルダ!!俺が全て勘違いしていた!!本当に謝罪するよ!心から!!…シャーロットは赤の国の王子と幸せになったと手紙が来たし君に罪はなかった。手紙で彼女が黒幕だと知った!その火傷も!!皆彼女がやったことだと!!入れ替わりの話も信じてくれなかった!」


「……………」

 知られたか。


「それに君の父親。侯爵家からも手紙が届き、その…勘当すると…。全て俺のせいだ!せめて君の為に償いたい!!」

 と王子は謝る。


 さて私はどうするの?謝られたからと言って過去が帳消しになるわけでもない。


「き、君が俺を憎んでいることは判る!だから…俺の事を今後どのような扱いをして貰っても構わない。君が望むなら…俺は王子の身分を捨て君の奴隷として生きよう!」


「えっ!?」

 絶句した!

 王子様がアホになった!

 だって!その身分を捨てるとか正気ではない!王太子の身で…。


「何言ってらっしゃるの?トラヴィス様!貴方は王太子で、この国の未来の次期王となる方でしょ?世迷言を!それにその顔は隠せるものではないわ!貴方を必死で探す城の者が大勢いるでしょう」


「ならばこんな顔など要らない。そこの暖炉の火で焼こう。君が味わった苦痛に比べれば何でもない」

 と暖炉に本気で近付こうとしたから流石に止めた。後ろから抱きつくように腕を回し引き止めた。


「辞めなさい!!そんな事!!」


「あ……はい」

 と彼は途端に大人しくなった。

 ??


「次期王は俺の弟…第二王子ウォーレンが継ぐだろう。元々王位継承権を巡り争っていた。王太子となった俺を日々暗殺者を遣し狙ってくる始末。城の料理には毒味役が毎日欠かせないから冷めた料理ばかり…。これはいい機会だ。俺は継承権を放棄する」


 ウォーレン・アリスター・ジャスパー・マケルハイニー第二王子…。側妃の子。身体の弱い王の側妃は複数おり、権力争いが起こっていることは知っていた。王太子のトラヴィスは常に護衛達に周囲を囲まれて過ごしていた。なるほどね、命を狙われることに疲れたということ?


「私の事を嫌いだった癖に入れ替わって実感したのは判るわ。トラヴィス様…でもそれは同情というものですわ」


「…そうかもしれないが…償いはしなければならない!君が無実だったからだ!君が嫌だと言っても俺はついていく。この姿が気に食わないというなら」

 彼はポケットを弄り小瓶を取り出した。そしてそれをグイと飲み干す。


 すると…身体が変わり始めて服がバサリと落ちて青い猫の姿になった。


「なっ!!!?」

 この国の猫は青い猫も多い。青の国の特徴的な猫で正直その辺りにはゴロゴロいる。


 しかも私は…人前で顔には出した事はないが実は…めちゃくちゃ猫が好きだーーーー!!!

 めちゃくちゃ触りたいーーーー!!!

 でも人前で緩み切った顔を見せれなくて我慢していた。

 そう我慢していたのだ。

 だから猫も怖い顔で睨む私を見て逃げるから野良猫すら今まで一度だって触った事は無かった!


 私がブルブルと興奮で震えたのを見て勘違いしたのか猫の王子が


「もしや猫は嫌いか?…これは対暗殺者避けに俺が持ち歩いている変身薬の一つだ。気に食わないと言うなら犬に…」


「私は猫派ですので!そのままで!」

 とつい言ってしまう。恐ろしい目付きで王子猫を睨み付ける。


 なっ、撫でたいいいい!!

 王子は怪しい目つきの私にビクッとした。


「いいでしょう…。貴方のその全力の謝罪は受け入れましたわ。その代わり本当に私の言う事をこれから何でも聞いてくれるのね?何でも!!」


「あ…ああ!もちろんだ!マティルダ!!」

 すると私はようやくボソリと言う。


「さ………て」


「は?何て言った?すまないもう一度言ってくれ」

 私は睨みつけながら言った。


「…………触らせなさいよ!!モフモフしたいの!!」

 と。

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