第4話 誤解と自覚
俺が気付くと元の姿に戻り彼女…マティルダがいなかった!!
「…………」
一人で本当に行ってしまった。
入れ替わりの時、一人の衛兵がニヤニヤ近づいてきて、言った。馴れ馴れしく触り悪寒がして蹴ったら
「この前牢に入れた日は気持ち良かっただろぉ?処女なのは悪かったけど。またやってやるから相手しろよ。元侯爵令嬢」
とニヤニヤしていて俺はやはりマティルダは処女をこいつに奪われたのだのだと悟った。
更にのしかかってきたから全力で抵抗したら殴られた。しかし俺も負けずに急所を殴り気絶させた。
「危なかった…」
俺は部屋に帰り1人考えた。マティルダの青痣は少し薄くなったが、今日また殴られた。そう言えば彼女の家族はどうしたろう?一度も王宮に来ない。没落はしてないはずだ。
するとしばらくして彼女の実家から手紙が届いて励ましの手紙かと思ったら
(我が娘マティルダ…お前は王家に泥を塗った恥さらしだ!今後ムーアヘッド領に戻ることは許さん。勘当する)
と侯爵から冷たい手紙が来ていた。彼女は両親にも愛されていなかった??
本来なら俺と婚約していたら未来は王妃だったろう。侯爵もそれを期待していたが…俺がシャーロットに騙されたばかりに…。
愚かなのは俺か。
どんな気持ちだったのだろう。
マティルダを想うと胸が痛み出した。鏡には悲痛な女が映っていた。シャーロットの差し向けた刺客に1人で戦い、怪我をしても誰にも相談せず悪役令嬢として見られて濡れ衣を着せられ俺に断罪され牢獄にぶち込まれ衛兵に乱暴され処女も失い処刑までされるところだった。
既でそれは回避したが。
…俺はなんてことを!!
ズキリと火傷後が痛んだ。たまに痛む時があるのだ。彼女を守ってくれるものは何一つとしてなかった。今まで。
そして俺はある月夜に彼女…俺の姿をしたマティルダに口を塞がれ暴漢だと思い殴ってしまったが月明かりで久しぶりの自分の姿を見た。とんでもない暗い目をしていた。
彼女は土曜日に身体を返すと約束した。国から出て行くとも。俺は謝罪してない!!
言おうとして口が震えて言えない。
土曜日俺は荷物を纏めて待ち合わせ場所に向かった。咄嗟に付いて行くと言った。
彼女は話している途中で入れ替わりの呪文を口にする。魂が揺さぶられ気を失った。
そして今に至る。
何にも出来なかった。謝罪は何とか口にしたけど…気持ち悪いと言われたし。
でも彼女はあんな酷い断罪をした俺を許した。もしかしたら元々嫌われているからこれ以上関わりたくないだけかもしれなかった。
俺は金をすぐに袋に詰め剣を持ち馬に跨った。彼女を追うことにした!!
走りながらどの方向に行ったのかも判らないのに…俺は走り続けた。
このまま彼女と会えないのは嫌だと感じていた。
入れ替わっていた時…
朝起きて鏡を見て火傷痕を見た。皮膚は痛々しい傷でマティルダでなければ耐えられなかったろう。彼女は襲撃に遭っても負けずに学園に通っていたのだ。その事に俺は気付きもせずにいた。マティルダを無視していたことに後悔した。
姿見のマティルダの自分に向かい笑ってみる。意外と笑うと可愛い顔してるじゃん、マティルダ!
いつも睨んでくるだけの女だった。
気に食わなかった。
泣いているところは見たことはない。
そして俺は誤解し続けていた。
もう判った。あの暗い目を見たら。
彼女はとっくに心が死んでいたに違いない。
それでも悪役としてなりきっていた。
死だけを免れるため。
「マティルダ!!どこだ!!」
虚しく森にこだました。
仕方なく夜営の準備を始めた。
「絶対に見つけて見せる!!」
とその時物音がした。
バキィと枝を踏む音を聞いて灯りを照らすとマティルダがボロボロになり出てきた。額から血を流している。あちこち酷い怪我して。
「マティルダ!!?」
俺は駆け寄った。
「……灯りが見えたと思ったら…あー…ドジ踏んだわ…最悪…」
「その怪我は!?」
「…………ちょっと低い崖から落ちたのよ」
「ちょっとじゃないだろう!!?バカが!」
そして彼女は気を失って倒れた。
「おい!!マティルダ!!しっかりしろ!!」
俺はマティルダを抱えてマントの上に寝かせた。傷口が酷い。持ってきたポーションを飲ませようと口をこじ開けるが溢れる。このままでは死ぬ!
くっ!!
やりたくない!!こんなこと!!でも黙ってれば判らない!
俺はポーションを口に含みマティルダに飲ませた。口移しで。
俺はシャーロットとは清い関係を続けていてキスをしたことも無かった。手は繋いでいたけど。
だから初めてマティルダに触れた。そりゃ、入れ替わってる間はいろいろと触ったけど。
ポーションを飲ませると傷口が綺麗に修復していった。呼吸も滑らかになる。だが傷は癒しても流れた血は戻らないから栄養が必要だろう。
気付くと俺の目から涙が溢れていた。
無事で良かったと思った。
そしてこれが…彼女への恋だと気付いた。
*
翌朝彼女は目を開いた。
俺はまたいつ目を覚ますか判らなくて逃げ出すかもしれないと見張ってて寝ていない。
「………何?何で?」
「………痛くないか?」
「ええ…でも身体に力が入らない…」
「そうか、やはり血が足りない。お前相当出血してたから」
「……また牢屋に入れる?」
「入れるかよ!!言ったろ!?一緒に付いてくと!!」
彼女は眉間にシワを寄せた。
「王子様…何を仰ってるの?バカなんですか?私に付いてきて何がしたいの?」
「少なくとも今までの謝罪をしたい!!マティルダのことを誤解していた!!」
「………今更…」
そして彼女はまた気を失うように眠った。
そこへ誰かが通りかかる。白髪の老人のようだ。山菜を摂っていたのか?
「あれま?どしたべ?」
「酷い怪我をして…上級のポーションを飲ませたが血が足りなくてな」
「んだら、おらんち来るけ?こんなとこ魔物が出たら危ないべ!」
と言われ俺はお言葉に甘えてマティルダを抱き抱えた。
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