第3話 入れ替わった私

 入れ替わった私マティルダは誰にも悟られなかった。伊達にトラヴィスの元婚約者やってたわけじゃないから彼に成り済ますことは容易い。


 トラヴィスの姿の私は王子様そのもので、廊下を通る度にメイド達からきゃあきゃあと黄色い声が響く。鬱陶しい。

 もちろんあれからすぐに私の身体…つまりトラヴィスの処刑は取りやめさせた。寛大な私ってところだけど、自分の身体が処刑される所は流石に見たくない。


 奴を王宮で無給で働かせてやることにした。

 今頃シャーロットに手紙でも書いて確かめて絶望してるんだろうな。同じ転生者だというのに酷い女だわ。


 だがどうでもいい。

 頃合いが来たら追わないと言う約束で金をたんまり貰いこんな国からは出国して異国でスローライフするのがいいわよね。今思えば貴族って窮屈なだけだし、庶民にしてもらいラッキーかもね。これからは自由に生きよう。


 それにトラヴィスに許してもらおうとも思えない。婚約者は飾りだったし、奴も私のことが嫌いなのは子供の頃から感じてた。

 お互い気が合わないのだ。トラヴィスだって婚約破棄を望んでたはず。


 私は牢獄に入れられた日に衛兵に乱暴された。顔以外青痣がつくまで殴られて処女も抵抗虚しく奪われた。鎖で自由も利かなかった。

 もう何も無くなってしまったのだから幸せになれるとは思ってない。お父様は私を家から勘当するだろう。

 それにもう男と恋愛とか結婚も出来そうにない。


 暗い目で姿見に映るトラヴィスの顔を見た。死んだように暗い目だがやはり顔だけは整っていた。トラヴィスの暮らしはやはり良かった。私も侯爵家ではそれなりに良かったけど両親からは放置されて育ったようなもので愛情は知らなかった。幸いに下に弟が2人いるから私如きがいなくなっても侯爵家はギリギリ大丈夫でしょ。家族ですら私を庇うことはない。庇ってたら牢屋に来るし。彼等は案の定来なかった。


 私は王子の部屋から金品を纏めた。少しくらい金に変えて資金にしてもいいわよね。


 そして月夜にこそりと仕事部屋に戻る彼…私の姿のトラヴィスをようやく捕まえた。

 後ろから口を押さえたから暴漢かと思われて頰を少し殴られたけど、月明かりで私だと解るとハッとして


「お、お前っ!!」

 と驚いていた。


「久しぶりねトラヴィス元気かしら?私は元気よ?王子らしく男言葉で頑張ってるから誰も違和感持たなく接してくれるわ。元婚約者で良かったわね?ここまで完璧に貴方を演じることなんてできないわよ?」


「そうか…俺の方はほとんど何も喋らないがな。はいといいえくらいしかな!何しにきた?身体を返してくれるのか?」


「ええ、そうね、私を追わないで国から出してくれるかしら?もちろん資金は少しもらうけど。私は出て行く代わりに身体を返す。シャーロットのことはごめんなさいね?好きだったのよね?騙されてたけどあの女に」


「…お前は無実だったんだな?それにこの身体の痣も…」


「………だから何?どうでもいいことよ。貴方は痛い思いをしていない。これまで通り王子をこの国で続ければいい。うんざりよ!こんな国」


「マティルダ…そ、その…」


「今度の日曜の夜にまたここに来て。元に戻して上げる。それでお別れ」

 とトラヴィスに告げた。


「…………判った」

 力なく彼はそう言った。


 ホッとした。これで私の話は終わるのだ。ゲームは終わり新しい一歩を踏み出せる。魔法もかなり覚えているし何とかやってけるわ。

 異国で私の望む生活をしよう。ようやく我慢してたことから解放され自由になれる。

 もうすぐだわ。もうすぐ理想の生活が私を待ってる!辛いことなんか直ぐ忘れるわ!

 期待に胸を膨らませトラヴィスとして過ごす日々を埋めていった。


 *

 そして土曜日の夜彼は約束通りやってきた。私は金品を換金してお金を持ってきたが彼は荷物を纏めてきた。


 ??


「俺も旅に出る!」


「はぁ!?何考えてるの王子様」


「ここで働いてアホみたいに虐められたよ!女ってネチネチ陰湿だよな!俺は無給で働いて疲れてるのに肩を揉めだの風呂を沸かせだの。…おまけに衛兵が俺の身体を触ってくるから蹴り飛ばしてやったぜ…その後は少し殴られたが…」


「ここが嫌になったのなら勘違い、王子の暮らしが元に戻るのに何を考えてるの?」


「気に食わないのか?なら身体を返さなくてもいいんだぞ!?…今まで悪かった」

 と信じられないことにトラヴィスが謝った!!


「気色悪いわね!」


「何だと!!?」


「レキータ・ヴェル・イシュヴァハート!!」

 唱えるとトラヴィスとまた入れ替わり彼はぐったりと、壁に寄りかかっていた。懐から金を抜き取り彼が持ってきた荷物を持ち私はその場を離れた。


 後ろを振り返り


「さよならトラヴィス王子。お幸せに」

 と夜道を走った。

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