第2話 入れ替わった俺

 俺はブルメシア王国のトラヴィス・ピーター・ブラッドフォード・マケルハイニー第一王子だ。

 青の髪に空色の瞳。この国の民の特徴的な髪と瞳を持つ。他所の色の国から嫁いできたり婿養子になった者は一発で違う国から来た者やハーフだと判るようになっている。


 俺には幼い頃からの親が決めた婚約者がいた。同じ青色の髪と空色の瞳を持つ女。



 マティルダ・ジョーダン・ムーアヘッド侯爵令嬢。

 出会った頃から気に食わない。王子の俺に挨拶した後は特に興味なさげに目さえ合わせなかった。不敬な奴。そう思っていた。言葉もあまり交わすことなく数年過ぎたしお茶会に仕方なく呼んだ時も話題の一つも振らなかった。黙々と菓子と茶を飲み解散。デートもなし。夜会には適当に従者にドレスを贈るように言っただけだし、贈っても違うドレス…自分好みのものを着てきた。

 学園では成績も良く俺より賢い点数を取っていた。


 本能的に悟った。こいつとは気が合わない!

 顔を見るたびににイライラして、学園で出会った男爵家の娘シャーロット・ジェニファー・クライトンに何故か惹かれた。彼女から素晴らしく芳しい匂いがした。甘い匂い。俺は彼女から目が離せなくいつも目で追って、彼女がいじめに遭っているとの報告を聞き、助けに行ったりした。


 そして卒業間近に彼女は告げたのだ。全てマティルダのしたことだと。マティルダは自分からは手を出さなかったと告げたがシャーロットが友達と歩いている時階段から突き落とした。

 その時に精霊の力を借りなんとか生還した。そして友達が映像記録魔法を取っていたことを語り俺に見せた。


 マティルダが確かに彼女に危害を加えていた。

 決定的な証拠とようやく婚約破棄できることに喜び俺は卒業パーティーでマティルダを見事に断罪した。積年の苛々を発散するかのように。

 シャーロットはマティルダが睨んでいるのに震えて俺にしがみついた。


 彼女が引きづられて行った後にシャーロットに指輪を贈り婚約してくれと言った。彼女は涙を流しうなづいたのだ。


「シャーロットなら!きっと話せば解ってくれる!」

 愛しいシャーロットに全て話そうと俺は決めた。しかし寒いな。冷たい牢獄。足は裸足でボロ布を着ているのみ。

 お腹も減っていた。

 仕方なく俺はベッドに入る。布団が薄くてふるえた。寝心地は最悪で臭い。

 尿意が起こり困った。

 しかも衛兵がこちらをニヤニヤ見ている。


 ………。

 俺は仕方なく頭から毛布を被りトイレを使う。

 恥ずかしい。

 俺にこんな魔法を使い許せない!


 その後、俺は牢獄から出された。

 衛兵が舌打ちし


「寛大な王子様に感謝しろ!お前は城でメイドとして働くことになった。給料は無しだそうだよ!衣食住を与えられるだけでもマシだと思えとな!」


 と言う。マティルダ…!!怒りが込み上げたが耐えた。


「シャーロットに会いたい…」

 と呟くと衛兵は笑った。


「まさか!会えるもんかね!?どうにも王子は彼女を振ったそうだ。好き合っていたとばかり思ったが王子はあまりそうではなかったようだな。


 それにシャーロット嬢は驚いてはいたがどうやらキープしていた赤の国の王子様のとこに行ったようだ。女ってのは何なのかねぇ?」

 と言って俺は信じられなかった!!

 シャーロットが!?赤の国の王子をキープしていたって!?


 な、何だそれ?何なんだ?俺を見て明らかに頰を染めていた可愛い彼女は?両想いだと思っていた!それに婚約も受けたのに!!


 どう言うことなんだ??


 俺はメイド長に服を渡され部屋を与えられた。牢屋よりは遥かにマシなことに安堵した。しかし、同室の女、メイ・レスリー・ヘンリーに睨まれた。


「元侯爵家の令嬢だけど、今は私よりも身分が低いってこと、あんた忘れないでよね!しっかり働くのよ?王子に許されたことは驚きだけどね!……それにあんた臭いよ!?」

 とメイは言った。

 俺は寝巻きに着替える前に風呂を使うことにした。自分で湯を沸かすと言うことにあまり慣れなく手間取ったが、服を脱ごうとして俺はマティルダだと言うことに気付いて慌てた。


 女の身体になっていたんだった!!

 くっ!こんな女!何だって言うんだ!!

 服を脱ぎ余計なことは考えないようにしたが、脱いで驚いた!!

 マティルダの身体…背中や腕に火傷の痕があった。そんなに古くはないが少し時間は経っているのかな?


 それに加えて最近のものは青痣となって膝やあちこちについていた。顔だけ何も無い。

 え?


 まさか兵士に襲われた?

 俺は処女だよな?いや、あんな女が襲われようと俺は気にしない!!自業自得だろ?


 ………。

 でもマティルダは傷だらけだ。

 それは事実だった。


 そう言えば少し身体が痛いと今になって俺は思った。牢屋の寝心地が酷過ぎて気付かなかった。


「知るか!あいつのことより何とかシャーロットに連絡を取りたい!キープって…何なんだ!?」



 城でただ働きをして何とか書斎から紙とペンと小銭を少しだけ盗みシャーロットにこっそり手紙を出した。


 数週間後に返事がきたが、仰天した。



(まだ生きていたの?どうやったか知らないけどトラヴィス王子に振られたのは貴方のせいよ?お陰でこちらは赤の国の王子と幸せになっているわ!トラヴィス王子と身体が入れ替わったなんて嘘をついて本当に悪女ね!


 もう二度と私に関わらないで?ああ、あの映像よく出来てたでしょう?私が作ったのよ。本来なら貴方処刑される所だったのにね。まぁいいわ、折角生き残ったけど、前のような暮らしはできないみたいね。ふふ、学園で刺客を何度も差し向けたけど貴方は火傷程度で終わるし。上手くいかないものね。


 とにかくさよなら。せいぜい頑張りなさい)


 と書かれていた。信じられない。

 シャーロットは本当に赤の国の王子と…。

 そしてこの火傷の痕も彼女が黒幕で仕掛けていたと…真実を知った。


 そして俺は…俺はマティルダを…勘違いして憎んでいた。無実の女を。

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