(14)若木から大樹へ

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「――それで、どうなったんだ?」

「どう……残念ながらあまり変わったことは無かったかな」

「そうなのか」


 王級ボスとの戦闘が終わってひと段落した後で、俺はいつものように広場の露天風呂に来ていた。

 そこで会ったラッシュさんに事の顛末を話していた。

 ちなみに時間的にも既に夜になっていて他にも風呂に入りに来ているプレイヤーはいて、興味深げに話を聞いていた。

 隠すつもりならここで話していないので、いくらでも聞いてくれればいいと思う。

 

「王級という名前からも分かる通り魔力的な支配領域が『国土』になったり、因子が証になったとかはあるけれどねえ」

「いや。それは大分変わったと言わないか?」

「そう? でも基本的に上位互換で特に何かが違った要素が絡んだとかはないよ?」

「そうか」


 国土についてはそのまま名前の通りで、これまで公領で複数になっていたものが一つに纏まったという感じだ。

 その中にはタマモの支配領域であるムサシも含まれているが、そこが興味深いといえば興味深いところだろうか。

 ちなみに国土になったことで、得られる魔力(もしくはマナ)の量は格段に増えている。

 まだ試してはいないのだが、恐らく作れる魔石の質も格段に上がっているはずだ。

『証』についてはこれから詳しく調べなければならないが、メッセージを見る限りでは複数の因子が統合されて一つに纏まったという感じになっている。

 勿論一つになったというだけではなく、得られた耐性などの能力も上がっているはずである。

 

「――ところで、これまでのパターン……というか俺の場合を考えてもそうだと思うんだが、進化はどうなっている? 爵位が上がったのであれば、すると思うんだが?」

「やっぱりそこは思いつくか。それはこれからだね。その前に戦闘の疲れを落すつもりで風呂に入りに来た」

「……俺も人のことは言えないが、キラの風呂好きは別格だな」

「それは褒められているのかな? ……まあ、いいか」

「あの……進化をするのを待つなんてこと、できるのか?」

 

 そう聞いてきたのはラッシュさんと同じダンジョンマスターの一人であるラックさんネズミな人だった。

 見た目はまんまそこらにいるような小さなネズミなのだが、彼は器用にぷかぷか浮かびながら風呂に入っている。

 その姿は見た目には愛らしいの一言だが、内にある魔力を見る限りではそこらの魔物だと太刀打ちできないくらいに成長している。

 

「できるな。俺も広場を開く前にやっていた進化で、何度か試したことがあるな。具体的には、もらった魔石を吸収するだけして条件を満たしておいて、待っている間にダンジョンを整えるとかだな」

「なるほど」

「恐らくだけれど、魔物は上位の存在になればなるほど進化に時間がかかるようになるから、そのための措置なんだと思うよ」

「そういうことか。……てか、その情報掲示板で言っておいたほうがよくないか?」

「あ~。確かにそうかも知れないな」

「眷属も当たり前のようにやっていたからそれが普通だと思っていたけれど、確かに」


 ラックさんの提案に、俺とラッシュさんは一度顔を見合わせてから頷いていた。

 風呂場での会話は自分では気づきにくいことを指摘してくれるプレイヤーがいるので、中々に侮れなかったりする。

 

 そんな会話をして風呂を上がった俺は、早速ラックさんの助言に従って掲示板に進化についての補足情報として書き足しておいた。

 進化のタイミングが一番無防備になることはやはり魔物プレイヤーにとっては悩みの種だったようで、その情報を知って驚いている者たちが多かった。

 以前にも思っていたことだが、対面で会話ができて情報の共有ができたとしてもそれはごく一部だけで、サーバー内で情報を共有するにはやはり掲示板が一番らしい。

 中には掲示板を見ていないというプレイヤーもいるだろうが、それはその人の生き方なので掲示板を強制するつもりはない。

 もっとも俺たちがいるサーバーに限って言えば、掲示板を全く見ていないプレイヤーは恐らく皆無だと思っている。

 

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 掲示板で書き込みを終えた後は、眷属たちに断ってから予定通り進化をすることにした。

 前回『若木』から『成木』に進化した時もかなりの時間がかかったのだが、今回はそれ以上の時間がかかると思われるので黙って進化するわけにはいかない。

 そのことは眷属たちもしっかりと理解できているのか、特に何も言わずに黙って頷いていた。

 世界樹の魔力によって生きている眷属たちにとって俺自身の進化はとても重要なことらしく、何よりも優先するように勧めてきた者もいる。

 

 というわけで進化タイムに入ったわけだが、今回は前回のように木の中で何かをするということは無かった。

 気が付いた時には進化が終わっていて、いつものように木の中に出現していたというのが俺自身の感覚だった。

 俺にとっては一瞬でしかなかったのだが、実際はそんなはずはないという感覚だけはあったのですぐに外に出て眷属に確認してみると、なんとひと月も経っているという報告を受けた。

 そんなに時間が経っていたのかと驚いたが、それ以上に驚いたのが見たこともないような巨木に成長している世界樹だった。

 

 ステータスでは『世界樹(成木)』から『世界樹(大樹)』に変わっていることを確認していたが、まさしく大樹と呼ばれるにふさわしいくらいの大きさになっている。

 具体的にいえば根元には家一軒がすっぽりと収まりそうなくらいの太さに幹があり、その上下にはそれにふさわしい根と枝が張り巡らされている。

 幹の先はちょっと見上げたくらいでは見つけられないくらいの高さになっていて、下手をすれば十階建て以上の建物を超えるくらいにまで伸びているように見える。

 いやいや、そんな高さまでどうやって水やら栄養やら運んでいるんだと無粋な疑問も浮かんで来たりしたが、魔力的な何かを使ってやっているのだろうと無理やり納得することにする。

 

 そんな大きな体を手に入れた成果としては、やはりそれに見合う膨大な魔力を扱えるようになったということだろう。

 普段から身の内に収めている魔力もそうだが、周辺にある歪みを整える能力も格段に上がっていることがわかる。

 それに加えて、眷属たちにとって重要な魔石を作る能力も予想通りに成長していた。

 試しに一つ作ってみたのだが、できた魔石(?)をアイに見せに行くと既に魔石を通り越して質の高い魔結晶になっていると言われた。

 

 正確にいえば魔結晶は魔石の上位互換というわけではないそうだが、魔物(眷属)の進化にとっては魔結晶が必要になることは間違いないらしい。

 俺が作った魔結晶を見たアイは、これでさらに上を目指せると喜んでいた。

 とはいえやはりこれまでよりも質が高いものらしく、いつものように簡単に作れるようなものではなかった。

 そのことは眷属たちもこれまでの経験から十分に理解しているようで、まずはため込むことから始めようとということになった。

 

 そんなこんなで王級ボスを倒して国土を手に入れたユグホウラは、さらに次を目指して動き始めることになる。

 その次が新しい領域を求めて動き始めるのか、それとも領内の安定を図るのかはまだ決めていないが、それはこれからゆっくりと眷属と話し合いをすればいい。

 俺自身は大陸にいる爵位持ちの存在は気になるとはいえ、ひとまず落ち着けるところまでは来ることができたと考えている。

 これから先のユグホウラがどうなっていくのかは、今の俺にもよくわからないというのが現状なのであった。




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