(13)王級戦

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 タマモから始まった一斉攻撃は、途切れなく続いていた。

 時には隙間を狙って俺自身も攻撃に参加しているが、やはり体に大きなダメージを負いそうな攻撃は優先して避けているらしい。

 俺やタマモ、眷属たちの攻撃は、そのことごとくが避けられるかきっちりと防御されている。

 ユグホウラによる途切れない攻撃が続いているが、龍もただ黙ってやられっぱなしというわけではない。

 少しでも隙を見せれば近距離の肉体を使った攻撃から魔法の遠距離口撃まで、様々な方法でこちらの体力を削ろうとしてきていた。

 もっとも隙といっても、攻撃がほとんど通っていないらしい子眷属だけが攻撃しているときなのだが。

 子眷属の攻撃が通らないことは予想していたが、実際に攻撃されている龍にはお見通しになっているようだ。

 ただし攻撃が通らないのはあくまでも今の龍が万全の態勢だからであって、ある程度体力を削れることができれば子眷属の攻撃も有効打になるはずだ。

 

 そんなことを考えていたことが見抜かれたのか、突如龍が初めての動きをした。

 これまで回避を務めていた眷属やタマモの攻撃も、最低限だけの回避に変えたのだ。

 その動きに違和感を覚えた俺は、注意深く龍の動きを見て――――。

「全軍回避!! 子眷属はできる限り遠くに離れろ! 眷属は防御全力!」


 腹の底からの叫びが通じた――わけではなく、魔法によって増幅された俺の声は戦っている最中の眷属、子眷属に届いていた。

 そしてその指示に従って、子眷属は龍を中心にして一斉にその場から離れ始めた。

 その様子は花に群がっていたミツバチが一斉に離れるようにも見えたが、そんなことを気にしている暇はなかった。

 俺自身もできる限り被害を小さくするために、世界樹の能力を使って防御系の魔法を使った。

 

 その魔法は、多くの枝や葉を使って龍を木の枝や葉を使ってドーム状に覆い隠した。

 今の俺が使える全力での結界魔法の一つだが、それでもこれから龍が行おうとしている攻撃を防ぎきることが出来るかは怪しい。

 それは眷属たちにも通じたのか、あるいは先ほどの「命令」を聞いてのことかはわからないが、各々使える魔法を使って防御の姿勢を取っていた。

 すべての眷属が全体防御の魔法を使えるわけではないが、できる範囲で出来ることをしているようだった。

 

 ユグホウラ側のそれらの行動は時間にして数秒間のことであったが、たったそれだけの時間で龍の準備も整っていた。

 俺が結界を張りきるのと時をほぼ同じくして、それまでじっとしていた龍が気合を入れるように咆哮を放っていた。

 そしてその咆哮に合わせるように龍を覆い隠すようにかぶせていた結界が、大きなダメージを負うのが分かった。

 やがて龍によるその攻撃に耐えかねてか、あれほど覆っていた木の枝や葉が無残にも引き裂かれていく。

 それ以外にも眷属たちが張っていたそれぞれの結界もあったが、その全てが吹き飛ばされていた。

 勿論それだけの防御をしたかいがあって、龍の攻撃はかなり抑え込むことができていたが、それでもすべてを防げたわけではない。

 俺の指示に従って遠く離れようとしていた子眷属の一部にこれまでなかった被害が出ていた。

 

 子眷属の一部に被害が出たことでそれまで休んでいた部隊と入れ替わりになったので、こちらの攻撃が緩むというわけではない。

 それでも初めて負ったダメージは、長期戦を行う上ではやはり問題になるはずだ。

 その俺の考えを見抜いたのか、アイが近寄って話しかけてきた。

「このままだと消耗が激しくなりそうです」

「……だね。さて困ったな。出来れば子眷属にも最後まで参加してほしかったんだが……そんな悠長なことは言っていられなくなったか」

「さすがに王級だけのことはある」

「同感……だけれど、敵を褒めてばかりいても仕方ないか」

 アイの言葉は、多少躊躇していた俺の気持ちを押してくれる結果になった。

 結果としてどうなったかといえば、事前に用意していたプランのうちもう一つのプランが発動することとなった。

 

 もう一つのプランといっても中身は単純なもので、子眷属による攻撃は止めて完全にサポートに回したうえで、王級への直接対決は眷属だけで行うというものだった。

 経験を積ませるために子眷属にも直接参加させていたのだが、さすがに今のような攻撃を見せられるとそんな余裕のあることを言っていられない。

 ちなみにタマモには言っていなかった作戦だが、これまで龍にまとわりついていた子眷属が一斉にいなくなったことですぐにその意図を察したようだった。

 タマモ一家も、一部を除いて多くの狐たちが先頭から離れていく様子が見て取れた。

 

 子眷属が離れたことによって攻撃の連続性が薄れたかといえばそういうわけではない。

 子眷属がいることによってできなかった一撃一撃が重い攻撃を、眷属たちがより連続して行えるようになっている。

 もしこの場に無責任な見学者がいれば、そんなことができるなら何故最初からそうしなかったかと文句を言ってきそうだが、繰り返しになるが子眷属に経験を積ませるためである。

 これは王級に限らず領域ボスの戦闘からずっと繰り返してきたことなので、変えるつもりはない。

 今回も行ったように、無理なら無理と判断した時点で下げればいいだけのことだ。

 

 とにかく子眷属に当たらないようにと枷がかかっていた眷属の攻撃が、より苛烈になったことだけは間違いない。

 龍もそのことを感じたのか、これまでなかった動きを見せるようになっていた。

 具体的にいえば、俺やタマモに見せていた攻撃を避けるだけの動作を眷属の攻撃に対して行うようになったのだ。

 そうした回避の動作が増えてくれば、龍自身が行う攻撃は減って来る。

 さらに眷属はその隙をついてより濃密な攻撃を繰り出せるようになり――という感じで、これまでなかった好循環が生まれてきていた。

 

 さすがにそのことは龍も感じているのか、どうにか眷属を一体でも減らそうとしているのか、大ぶりな攻撃も増えてきた。

 それだけ大ぶりな攻撃を繰り返してくれれば、それまでになかった隙を見つけることも出来るようになる。

 その隙を見つけるたびに、例のレールガンもどきの攻撃を繰り返し放っていると、十発の内一発がかすめればいいという状態だったのが、数発のうちの一発という割合に増えていく。

 さらにかすめるのが精一杯だったはずなのが、しっかりと体に当たるようにようになっていき――最終的には致命の一撃とはいかないまでも大きなダメージと言っていいほどの攻撃を当てることができた。

 

 さすがの龍も急所に近い場所にその攻撃を喰らえばたまらなかったようで、悲鳴のような方向と共にこちらに向かってきた。

 ただそんな破れかぶれの攻撃を眷属たちが見逃すはずもなく、次々にダメージを与えるような攻撃を繰り出していった。

 それでも俺がいる場所まで近寄ってきたのはさすがと言うべきだろうが、俺自身に物理的な攻撃が当たるところまで近づいてきた時には、既に満身創痍といった状態にまでなっている。

 とはいえまだまだ龍は諦めていないということを示すかのように、その目にはしっかりとした光が宿ったままだった。

 

 その強烈は視線を受け止めつつ、俺はここぞとばかりに使い慣れた魔法スキルを使う。

「枝根動可」

 初撃では全く通じなかったその攻撃だが、今の龍はあっさりと囚われの身となる。

 根に縛られた状態でどうにかそれを振り払おうとあがく龍だが、すでにその縛りを破れるほどの力は残っていないようだった。

 

 最終的には龍に引導を渡すべく、眷属やタマモに譲って貰って俺が龍に対して最後の一撃を放って終わりとなる。

 その目に浮かんでいる光には何故だか感謝が受かんているように見えたが、ただの自分勝手な思い込みだろうとその思いを打ち消すのであった。




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