(4)お邪魔虫

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 ヒノモトの攻略を開始してから半月ほどが経った。

 これまでの攻略ペースは、一日数個から多い時では十個以上の領域が攻略されて行っている。

 もっともこれは三つの地域(キナイ、インヨウ、ツクシ)を全て合わせた数で、一つの地域に絞れば大体一日一、二個が通常のペースといったところだ。

 それら三つの地域の中で一番早く領土ボス戦が行われたのは、一番中途半端な状態で攻略を止めていたキナイだった。

 キナイは二つの領土を攻略済みで、これで三つ目の領土を得たことになる。

 これまでの攻略状況を考えると、あと三つの領土を攻略できれば公領化することが出来るはず……と言いたいところだが、キナイは大陸の爵位持ちの眷属なりがいることが確認されているのでこれからはスピードが落ちると予想されている。

 それを考えると、やはり今のところ直接の関与が確認されていないインヨウがもっとも早く公領化できると予想される。

 ツクシについては、大陸の爵位持ちの眷属と思われる魔物が複数領域を支配していることが確認されているので、一番最後になるはずだ。

 

 日々入ってくる報告とメッセージの確認に追われつつ日々を過ごしていたが、この段階でキナイを攻略しているチームのリーダーであるシルクから連絡がきた。

 その内容は、キナイにいると思われる爵位持ちの眷属……の配下の魔物らしき者が接触を図ってきたということだった。

「――それで、その魔物はなんて言っているの?」

「なんでも、こちらの傘下に加えてほしいそうですわ」

「うわあ。何ともわかりやすい罠」

「全くですわね。もしかするとこれまでそうした罠すら警戒したことがないと思われているのかもしれませんわ」

「ああ~、なるほど。でもキナイにいるんだったらルファのことも知っているだろうに。……いや。知っているからか」

 ダンジョンマスターのルファは、もっとも大事なのがダンジョンでそれ以外は別にどうなっても構わないという性格をしている。

 それを考えれば、既にその配下と接触を図っていてもおかしくはない。

 

 ただあの話好きのルファが配下と会ったことを話してこないとは考えづらいので、本当に知らないのかもしれない。

 キナイで活動していればダンジョンの存在はすぐに気づけるはずなのだが、そこに行き着いていないということは人族との接触はほとんどしていない可能性がある。

 なんともちぐはぐな感じを受けるが、ルファが存在を隠していたとは考えづらいので、本当に接触したことがなかったのだろう。

 もしくはその眷属はダンジョンがあると知っていても、下手に突くようなことはせずに敢えて無視をしていた可能性もある。

 

「……まあ、それはいいか。それよりも問題はその魔物についてだね」

「はい。罠とわかっている以上は、さっさと処分してしまうのが得策ですが……どうされますか?」

 含み笑いを見せつつそう聞いてきたシルクは、俺が言おうとしている答えを既に予期しているようだった。

「折角の御好意なんだから、その提案を受け入れてみようか」

「畏まりましたわ。子供たちにはそう伝えておきます」

「面倒をかけるね」

「このようなこと面倒でも何でもありませんわ。あの小者程度ができることなどたかが知れております。それよりも相手がどの程度の絡め手を使って来るか、それを知る方が重要ですわ」

「あら。言いたいことを全部言われてしまったわ」

 わざとらしくしかめっ面をして言ってみたが、すぐにその演技は崩れて笑ってしまい、シルクもそれにつられて笑い返してきた。

 

「言うまでもないと思うけれど、警戒は忘れないようにね」

「勿論ですわ。今のところ考えられるのは、別地域と連携している可能性ですが……」

「チームを分けて攻略しているからあまり関係ないってね」

「そう言うことですわ」


 キナイの攻略を終えて今いる眷属(仮?)を倒した後で、ツクシにいる別の眷属(仮?)と合流して何か悪戯を計画していたとする。

 ただそれが狙いだったとしても現在キナイを攻略しているチームは、基本的にツクシに合流することはなくそのままキナイに残って管理を続けるかエゾに戻って来ることになる。

 となるとツクシで悪戯をするという計画自体が成り立たなくなってしまう。

 そうなるとそもそもユグホウラの内に入って攪乱しようという計画自体が成り立たなくなってしまうのだ。

 

 そんな長期的な計画ではなく、キナイの攻略を進めているうちに何かをしようとしているのであれば、その時はその時だ。

 むしろ獅子身中の虫を早い段階で処理できたと喜ぶことになるだろう。

 そもそも敵対関係にあった相手の内にいた存在をすぐさま仲間として受け入れることが出来るはずもない。

 こんな絡め手を使って来る以上は、その程度のことは予想しているはずなのでそんな簡単に尻尾を見せないだろう。

 

「……いや、見せないよね? もしくは本当に逃げて来ただけとか?」

「それは……ないとは言えませんわ」

「……まあ、いいか。その時はその時で、適宜対応していくしかないかな」

「そうしますわ」

「それにしても、そう考えるとやっぱり即時処分というのは理に適ったやり方なんだよなぁ……」

「やはり受け入れは止めましょうか?」

「いや。相手の性質も見てみたいから受け入れるのは止めないよ。余裕のある今のうちに確認しておきたいしね」

「そうですわね。畏まりました」

「面倒をかけることになるけれど、お願いね」


 相手の性格を知りたいのであれば実行段階ではなく偵察段階で調べればいいじゃないかという声もありそうだが、実戦中には偵察だけでは分からない素の部分が見られることもある。

 それを考えれば、やはり今のうちに相手が絡め手を使って来るのかどうかというのは確かめておきたい。

 ただ大陸にいる爵位持ちからすればヒノモトは辺境の島という認識らしいので、適当な配下を送っているだけの可能性もある。

 それを考えれば配下の眷属の性格がそのまま爵位持ちに通用するかは分からないのだが、それでも確認しやすい今のうちに情報の一つとして持っておくのは有りだと思う。

 

 そんな俺自身の個人的な考えはともかくとして、その決定を聞いたシルクは素直に了承してくれた。

 彼女自身がどう考えているかはわからないが、それでもその表情を見ていれば同じようなことを考えているということは分かる。

 クインもそうだが情報部隊を任せるようになって、得られた情報によって戦況が大きく変わるということを知ったからだろう。

 情報のありがたみというのは、子眷属を通して触れているシルクだからこそ理解できていることもあるはずだ。

 

 招き入れたその魔物がおかしな真似をすれば、すぐに処分――することはなく何か面白い使い道を考えつくかもしれない。

 ユグホウラで行動している今の眷属たちは、それくらい独自の考えを持って動いている者がいる。

 そうした者たちの発想に期待しつつ、俺自身は最終的にどうなったかを聞くのが役目になる。

 事件は現場で起きている――ではないが、現地から離れて指示だけ出している俺自身が細かな条件を決めても上手く行かないことのほうが多い。

 

 というわけでシルクから報告のあった魔物についての今後は、基本的には現場が判断してどうするか決めていくことになる。

 俺が決めるのは、受け入れることを認めるだけで十分だろう。

 あとのことは子眷属たちが勝手に決めていくだけなので、報告だけは聞いておくことにしてシルクとの話し合いを終えた。




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