(3)巫女たち

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 最終調整の話し合いを終えると眷属は、それぞれの役割に従って行動を開始していた。

 ここから先、俺自身ができることは攻略状況の報告を受け取って、場合によっては攻略を止めることだ。

 今のところ攻略を止める予定などないが、突然大損害を受けたなどの不測の事態が起こった場合は態勢を立て直す必要がある。

 もっとも攻略自体を止めるような大損害を受けるようなことは、まず起こらないだろうと考えているのだが。

 はっきり言ってしまえば、今回用意した大戦力を跳ね返すような戦力が他にないことまで確認しているので、外(運営)からのおかしな介入がない限りは予定通りに進むはずだ。

 それを断言できるくらいには念入りに準備を進めてきたので、戦闘前にも関わらず珍しく余裕がある状況で落ち着いていられる。

 できれば毎回これくらいの余裕があればいいと思うのだが、そうもいかないのが現実だろう。

 ともかく既に号令をかけているので、あとは結果が伴ってくるのを待つだけだ。

 

 というわけで、レオに乗りながらダークエルフの里へと向かうと、里の出入り口付近で巫女服を着た集団と出くわした。

 その中には、この三年で巫女頭と呼ばれるようになったユリアがいた。

 三年前はまだまだ子供という色が強かったユリアだったが、今では着実に大人の女性の階段を登り始めている。

 それが人を従えるようになったからなのか、もともとの性質なのかは分からない。

 

 ユリアと一緒にいる四人の巫女たちは、この三年で増えた女性たちになる。

 この中には含まれていないが、三年前に稲荷神社で声をかけた巫女候補の一人――タイスも今ではダークエルフの里で世界樹の巫女として働いている。

 それ以外の巫女たちは、各豪族から巫女として送られてきた女性たちだ。

 豪族たちが何を考えて彼女たちを送ってきたのかはわかってはいるが、もし本当に巫女になれるのであればそれも良いだろうということで受け入れている。

 

 正直なところ別の目的で送ってきていることも理解はしているが、そもそも今の俺自身に性の方面での欲が全くないので考えても意味がないと思っている。

 それよりは折角の機会なので、ユリアのように最初から『才能』があるのではなく、修行などによって後天的に巫女としての力に目覚めるかを確認したいという目的がある。

 彼女たちも元の主の思惑は別にして、それぞれの事情を抱えているようなので送り返すのも忍びないという考えもある。

 ホーム周辺では実験で始めた冬の植物たちが良い感じに育っているので、数十人程度受けれてもまだまだ余裕があるくらいには食料事情は潤っていたりする。

 

「――キラ様、ダークエルフに何か御用ですか?」

「いや。そういうわけじゃないんだけれどね。ただ何となく足が伸びただけ。ユリアは……これから出立かな?」

「はい。これからホームに向かおうとしていたところだったのでちょうどよかったです」

「そうか。それじゃあ、ここの神社はタイスが?」

「そうなります。もっとも建物の管理とかとなると、他の方が手慣れていたりするのですが」

「ハハ。それは仕方ない。ユリアもタイスも専用に学んでいたわけじゃないからね」

 

 ユリアは勿論のこと、タイスも巫女として修行をしていたので家事関係は専門で学んでいたわけではない。

 各豪族から送られてきた女性の中には、そちら方面のプロがいるので今のところは敵わなかったりするのだ。

 もっとも世界樹の巫女として家事関係が関係あるかと言われると、正直必要ないと答えざるを得ない。

 ただ世界樹そのものはともかくとして、巫女たちが住む神社は絶対に管理が必要になるので家事関係を疎かに考えるつもりは全くない。

 

 話が逸れてしまったが、ユリアたちはこれからエゾ内を巡る旅に出ようとしていた。

 それは以前ユリアが行っていた旅と同じもので、各地に出現しているはずの歪みを見て回るのだ。

 歪み確認するための旅は、今では世界樹の巫女の修行として一番に行われる。

 当初はユリアが思い付きで始めたものだったのだが、タイスを始めとして幾人かの巫女が歪みを見つけられるようになったことから修行の定番となっていた。

 

「――今回も護衛がつくと思うけれど、油断はしないようにね」

「勿論です。魔物との戦いになれば、私たちは子眷属の皆さんの邪魔にならないように後ろに控えているだけですから」

「本来はそれが難しいと思うんだけれどね。まあ、ユリアにとっては今更か」

 

 ユリアは三年前のあの時から子眷属を引き連れてのエゾ内の旅は、何度も何度も繰り返しているのですでに慣れていた。

 それだけではなく、いつの間にやら身に着けた回復系やバフ系の魔法を使って戦闘の支援をするようになっていると報告を受けていた。

 俺がそのことをユリアに聞くと「慣れてきただけです」と謙遜するように答えていた。

 さすがにどうこうしている女性たちはそこまでのことはできないだろうが、そもそもの目的は魔物との戦闘ではないので大した問題ではない。

 そのことは彼女たちもよくわかってはいるが、やはりユリアという『目標』がいる以上はそれぞれ手を抜かずに修行に参加しているはずだ。

 

「さすがにもう慣れましたから。皆さんも回数をこなせば出来るようになると思います」

「そうだろうね。それに、メインはあくまでも歪み関係だからね。そっちはどうなるかな、今回は」

「未だに『視る』ことができるようになる条件はわかっておりませんから、こればかりは何とも言えません」

「そうだろうねえ。それに、歪みが直接見られなくても『処理』できることが分かったから、焦る必要もないかな」

「そうですね」


 この三年間で世界樹の巫女についても、少しずつ分かってきていた。

 その一つが今言ったように、歪みを直接見ることができなくても様々な方法で処理することが出来ると分かったことだった。

 様々な方法の中に三年前見つけた舞や音楽というのがあるのだが、それ以外にも特殊な呪文を唱えたり魔法を使ったりなどが見つかっている。

 それらは、各豪族が送ってきた女性たちが見つけた手段なので、これだけでも彼女たちを受け入れてよかったと思える。

 

 ただ歪みを処理するためには、絶対にこれだけはクリアしておかなければならないという条件が一つだけある。

 それが何かといえば、多少なりとも周囲に歪みが「ある」ということだけは感じ取れるようになっていなければならないということだ。

 三年前、稲荷神社で聞いた話では歪みは見えていないという話は聞いていたが、タイスによくよく確認してみれば「何となくいつもと違う……?」というような感覚は持っていたようだ。

 それはタイスだけではなく、一緒にいた彼女の姉や母親も同じだということだった。

 彼女たちはそれを歪みだと認識せずに、日常的に儀式を行っていたそうである。

 その感覚は、稲荷神社で行っていた巫女としての修行をすることによって身についていたようで、その修行の仕方もかなり参考になっていた。

 

「これから出立ということは、護衛の子眷属に会いにホームに行くんだろう? だったら俺たちも一緒に行くよ?」

「よろしいのですか? 里に何か用事があったのでは?」

「別に急ぐ用じゃないしね。それよりも君たちのほうが重要かな」

「あ、ありがとうございます」


 正直なところ巫女修行のための子眷属は眷属が既に選出しているので、俺が直接出向く必要はない。

 それでも敢えて一緒に行くことにしたのは、ホームに着いた時に彼女たちがどんな反応をするのか見ておきたいという目的があった。

 今更ホームを見られたからといって特に問題があるわけではないのだが、その反応で彼女たちが今現在どういう立ち位置にいるのかを確認しておきたい。




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