(2)ヒノモト攻略の確認

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 新しい春を迎えるにあたって、眷属たちに集まってもらっていた。

 話し合われる議題は、春から始める予定になっている日本列島――ヒノモトの攻略についてだ。

 これまでの三年間は、この年に一気に攻略を終わらせる予定で準備を進めていた。

 その予定通りに準備が終わったので、皆の意思を統一する目的で話し合いの場を設けることにしていた。

 ちなみに現状でのヒノモトで未攻略の場所は、キナイ(近畿地方)の半分ほど、インヨウ(中国地方)の一部、ツクシ(九州地方)の一部となっている。

 キナイよりもインヨウの攻略が進んでいるのは、様々な方面からの偵察によって大陸の関与が比較的少ないと確信できたからだ。

 今後はこれらの残りの領域を二月ほどをかけて攻略することを予定している。

 以前に比べて攻略スピードが段違いだが、それもこれも支配している領域が増えて子眷属と準眷属の数が大幅に増えているお陰だ。

 

 今現在攻略が進んでいないのは三地方で、これらを一気に攻略することになる。

 場合によっては戦略的に戦力を分散するのは愚の骨頂となるのだが、これまでの綿密な偵察の結果から分散しても特に問題ないと判断されていた。

 そもそも今の状況で攻略が進んでいないのは、数が増えるのを待っていたからというのもある。

 それ以外にもアイを筆頭にしたドールたちの研究を待っていたというのもあるが、それはメインの理由ではない。

 

「――というわけで半月後を基準として一気に攻略を進めることにしたけれど、何か質問はあるかな?」

 集まった眷属たちを前にそう問いかけたが、彼(彼女)たちからはしばらく問いのようなものはなかった。

 これまで何度か同じような話し合いの場が持たれていただけに、質問も出尽くしているともいえる。

 

 とはいえこれが攻略開始の最後の話し合いの場になるということもあって、ぽつぽつと質問が出始めてきた。

「ガウ、ガウガウ(確認だが、大陸の手の者だと分かっても容赦なくやって構わないんだな?)」

「そもそもこちらの呼びかけに応えてこなかったのは向こうだからね。気にせずバッサリやっていいよ。ただそいつらを倒すことよりも、まずは領域化を優先してほしいかな」

「ガウ(了解)」


 大陸の爵位持ちの眷属関係だと思われている魔物は、少なくとも二体いると確認できている。

 そのうちの一体はキナイにいて、もう一体はツクシの北の方にいる。

 こちらの攻略開始であちらがどう動くかはわからないが、最終的には倒すことが決まっているため攻略の途中で討伐してしまっても特に問題はない。

 彼らは彼らで、ユグホウラの攻略スピードが予想以上に早いことに焦ってか、慌てて周辺領域の制圧をし始めていた。

 こちらからすれば遅すぎるとも言えなくもないが、彼らの攻略の仕方を見ているとかなり無理をしているようにも見えるので、もともとが適正な速さだったのかもしれない。

 

「……ああ、そっか。敢えて残しておいて、そのまま領土化とか公領化したらどうなるのか確認するというのもありか。――いや、まあいいか。今回は予定通りで」

「よろしいのですか?」

「気にしなくてもいいよ。大陸に爵位持ちが複数いると分かった以上、いくらでも確認する機会はあるだろうし」

「確かにそうですね」


 独り言のような俺の言葉に突っ込んできたのは、人化したラックだった。

 ただこの後に及んで方針転換するのを進めてきたというよりも、折角浮かんだ思い付きを腐らせないようにするために確認してきたという感じだった。

 

 もともと爵位持ちの眷属関係については、大陸の攻略を進めながら確認するつもりだったので特に問題はない。

 タマモの眷属を見ていると主を裏切ったりするようなことはなさそうだが、彼女たちでも知らないような何か裏道のようなものを知っている可能性もある……かもしれない。

 どちらにしても爵位持ちの眷属になっていた魔物をこちらに引き込むつもりは全くないので、何を言ってこようが容赦なく討伐するつもりだ。

 そもそも既に眷属になっているのに、主を簡単に裏切るような存在を信用できるはずがない。

 

「通常の領域化、領土化については今更だからこちらから言うことは何もないよ。サクッと進めてしまって構わない。領土化するときにはこちらで相手を出す必要があるから、事前連絡はよろしく」

「主様は参加なさらないのですわね」

「うーん。本当だったら出たいところだけれど、それをすると攻略スピードが落ちそうだからやめておく」

「タイミングを見計らって幾つか出られてもよろしいのではありませんか?」

「そうなんだけれどね。今回はスピード勝負だからやっぱりやめておくよ」

 シルクとクインが揃って確認してきたが、彼女たちの提案は受けないことにしておいた。

 

 領土ボスや公領ボスはどの場所にいても出すことができるのであまり心配する必要はないかと思うが、それでも万が一戦闘中に連絡が来るかもしれない。

 それを考えると、やはり俺自身は戦闘に出ないほうが良いだろうと思う。

 ボスを召喚する作業は一分もかからないので心配し過ぎといわれるとそれまでなのだが、一瞬であっても戦闘中の眷属たちに迷惑をかけることは避けておきたい。

 そもそもそこまで戦闘をしたいというわけでもないので、やはり辞退するのがいいだろう。

 

 今までで一番大掛かりな今回の作戦だが、百名の子眷属が一チームとなって領域の攻略を進める。

 各地域にはそのチームがそれぞれ二十チーム存在していて、一気に残りの領域化を進めるわけだ。

 正直なところ今の子眷属だと領域化をするのに百名もいるのはオーバースペックもいいところなのだが、万が一爵位持ちの眷属がせめて来た時のことを考えての編成になっている。

 もし攻略中に攻略チームが攻められるようであれば、ここぞとばかりに後ろに控えている一万三千の本体が襲い掛かることになる。

 

 今回の作戦で三地域に出撃することになる子眷属の数は、それぞれ一万五千になる。

 これだけの数を揃えられているのもこれまでコツコツと領域化と領土化を進めてきた成果ともいえるのが、それでもまだ数に余裕があるというのだから恐ろしいことだ。

 これで日本列島の全域を公領化することができればどれだけの数を揃えることができるようになるのか、ユグホウラとしては頼もしい限りではある。

 ただ爵位持ちが他に存在していることが分かっている以上、同じようなことができていても不思議ではないので油断するつもりはない。

 

 ヒノモトの攻略を終えた後で大陸にいるはずの爵位持ちたちがどういう動きを見せるかは分からないが、それは今のうちから考えていても仕方ない。

 タマモと同じように話し合いの場を持とうとするならそれでよし、戦い一辺倒ならこちらも応じるだけである。

 ただ各地から情報を集めてきた限りでは、航海に関してはそこまで技術が進んでいる様子はなくユグホウラは一段も二段も技術が進んでいるように思える。

 木造船から金属船になっているだけでかなり優位に立っているといえるが、魔法という存在がある以上は元の世界の歴史で比較するのは危ない。

 

 大陸の攻略についてはまだもう少し先のことなのでこれから考えるとして、今は出来る限りヒノモトの攻略に頭を使いたい。

 これからの二か月は短期決戦ともいえるので、どこかで歯車が狂ってしまえば計画そのものが頓挫する可能性もある。

 もっとも二か月が三か月になったところで攻略を進めるということ自体に変わりはないのだが。

 何とも余裕のなさそうな攻略の進め方だが、これもある種の実験を兼ねているので、滞りなく進めておきたいところだ。




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