第18章

(1)三年後

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 オウウの公領化が終わってから三年ほどが過ぎた。

 オウウの経験で人族(豪族)の意思など関係なく領域化できると完全に判明した後は、次々に未領域地域の攻略を進めて行った。

 その間にツガル家が中心となって人族の組織の話し合いは続いているが、未だに明確に決まっていないことがある。

 それは組織の長をどのように決めていくかで、これについてはまだまだひと悶着がありそうだと考えている。

 ただしユグホウラの存在がブレーキをかけているのか、組織内での武力衝突は今のところ起こっていない。

 それが良いことなのか悪いことなのかはわからないが、それまで外に目を向けていたいくらかの力を内政に向けた分、以前よりも目に見えて発展してきていた。

 その効果が他の豪族にも伝わっているのか、組織に所属したいという豪族も増えている。

 今のところは豪族の半分ほどが正式に組織に属していて、未所属の豪族のうちさらに三分の一ほどは所属を検討している段階だそうだ。

 

 話を戻して日本列島の攻略状況は、まず本州の三分の二ほどの攻略が進んでいる。

 さらに正確にいえば、中部の辺りは既に公領化が済んでいて近畿と中国がまだ公領化するまでには至っていない。

 なぜそんな中途半端な攻略状況になっているかといえば、予想通りというべきか、大陸からの意識の有る魔物――爵位持ちの存在と関与が確実になったためだ。

 爵位持ちの存在については大陸の調査の最中に分かったことだが、そこからさらに日本列島に手を入れていることまで判明したというわけだ。

 

 爵位持ちの存在が分かった最初は相手にばれないように攻略を進めるようにしていたのだが、今ではばれるのを厭わずに攻略を進めている。

 今のところ日本列島へ関与してきている爵位持ちはそこまで力を入れているわけではなく、それならばこちらの存在がばれたとしてもまずは日本列島を攻略してしまったほうが早いと判断したためだ。

 相手の爵位がどの程度かは今のところ分かっていないが、使役している魔物の強さから考えて公爵よりも上ということはなさそうだ。

 やっかいなのはタマモのように一種にこだわっているわけではなく、様々な種を利用しているということだろうか。

 

 ちなみに今では相手に対して攻撃的になっているが、最初からそうだったわけではない。

 タマモの時と同じように話し合いで済むならその方針で行こうと考えていたのだが、そこに行く前からどう考えても無理そうだと判断して即座に今の方針に切り替えている。

 それは相手が使っている魔物の様子から判断したのもそうだし、大陸での爵位持ちの状況も段々と理解できてきたというのもある。

 タマモが日本列島に来た理由の一つでもあるのだが、大陸では爵位持ち同士の争いが頻繁に起こっていて、残念ながら話し合いでどうにかしようとするような意思は感じなかった。

 

 爵位持ちの強さが領域/領土の広さによって変わるので仕方ないとはいえ、やはり今後は殺伐とした展開が予想されるとなると少し陰鬱な気分になってくる。

 広場では様々な種の魔物が和気あいあいとやっているので、猶更そう感じるのだろう。

 もっともプレイヤーは他の魔物と違って根本に抱えているものがあるので、比較対象として間違っていることは理解している。

 だからこそ、爵位持ちの存在をはねのけるように日本列島の攻略を進めることにしたのである。

 

 爵位持ちの存在はいいとして、日本列島の攻略については本州の途中で止まっているだけではない。

 というよりも本州の攻略はそこそこにしていて、別の方面での攻略が進んでいた。

 具体的に言えば、既に四国――フタナは既に公領化が終わっていて、九州――ツクシの一部も領土化が終わっている。

 何故本州の攻略を終わらせずにフタナとツクシの攻略をしているかといえば、今後行われるであろう大陸――特にアメリカの攻略を見据えてのことだ。

 

 アメリカ大陸の攻略には、帆船を使っての侵攻が絶対に必要になる。

 その侵攻の訓練の一環として、エゾからフタナへの船の攻略を進めてみたのである。

 結果からいえば既に公領化が済んでいることからも分かる通りに上手く行ってはいるのだが、やはり当初はスムーズに攻略が進んでいるとは言い難かった。

 帆船に子眷属たちを乗せて上陸させるだけならまだよかったのだが、しっかりと戦略的に船を動かすという部分が当初は未熟だった。

 

 それでもフタナの攻略を終える頃には、帆船を纏めている蟻の子眷属も自信を見せるようになっていた。

 それを見て、いきなり遠いアメリカ大陸への侵攻をせずにいてよかったと改めて安堵するほどだった。

 今のところ本格的な海戦などは行っていないが、海にも魔物は存在しているのでその討伐のノウハウを得るという意味でもフタナの攻略が意義のあるものとなっていた。

 陸には陸の戦い方がるように、海では海の戦い方があるのだと改めて考えさせられる件となった。

 

 余談ではあるのだが、海での戦闘が増えたことによって海で生活している魔物の準眷属化も一部行われている。

 どちらかといえばユグホウラに保護してほしいという種が多いのだが、それでも今まで全く接触のなかった種からの打診は大きかった。

 今では彼らも船を使っての攻略に、一役買っている。

 その様子を見て海での戦闘種ともいえる種族も迎え入れることができているので、やはり最初の一歩は大事だったということだろう。

 

 海洋生物だけではなく、陸上で生きる魔物も準眷属化は進んでいる。

 ラックの実例があったからというわけではないだろうが、眷属たちが積極的に準眷属化を進めてきた結果、今ではユグホウラはかなり多くの種を抱えるようになっていた。

 ただしユグホウラの本拠地に拠点を構えている準眷属は、初期のころからいるゴブリンと鳥種だけとなっている。

 これは別に俺が規制をしたというわけではなく、眷属が敢えて準眷属はエゾ以外の地に送ると決めているようだ。

 

 眷属が何をどう考えてそういうルールを決めたのかはわからないが、特に止めるようなことではないので敢えてこちらからなにかを言うようなことはしていない。

 もしかすると以前俺が言った領土の管理を準眷属に任せるという言葉を忠実に守っているのかもしれないが、どちらでも構わないと思っている。

 もっとも準眷属が増えたからといっても、増えた領土や公領を完全に準眷属に任せるということはしていない。

 今のところは広くなっていく領土の管理を任せるといったところでとどまっていて、領土を纏めるという意味では子眷属が行っているのが現状だ。

 

 ここまで来るのに三年という年月が経ってしまったが、今のところはユグホウラが消滅してしまうような大きな事態にはぶつかっていない。

 既に爵位持ちの存在が明らかになっているので今後もずっとそうだとは限らないのだが、まだしばらくは余裕のある状態で攻略が進められると考えている。

 もしかすると大陸にいる爵位持ちはこちらの存在に気付いているかもしれないが、直接乗り込んでくることは当分ないと思われる。

 それは単に感覚的なことでいっているわけではなく、きちんとした情報を得てそう判断しているのだ。

 

 領域が増えるに従って増えていく偵察部隊は、すでに大陸のあちこちで活動するようになっている。

 その部隊からの情報は、日本に手を出している爵位持ちは他の爵位持ちとも争っているようで、今のところはそちらに注意が向いているという。

 爵位持ち二体はお互いに牽制しあっている状況なので、今すぐに決着がつくことはないだろうとのことだった。

 その隙に日本列島の攻略を終えることができればいいとは思うが、そう上手くはいかないだろうとも考えている。

 

 いずれにしてもユグホウラとしては、以前と変わらず日本列島の攻略を終わらせるということを目標に今も攻略を進めていた。




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