(10)日常

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 タマモによるムサシの公領化とオウウの公領化は、大量の因子を得る結果となっていた。

 正直なところ、マツシリの攻略が終わった辺りから数が多くなりすぎて把握するのが面……難しくなっていた。

 眷属たちは属性魔石から因子の効果を得るので一つ一つの能力を把握しようとしているが、俺自身はもうすでに半分は投げ出している。

 そもそも世界樹の本体は動くことができないので、因子による直接の恩恵もほとんどが耐性に関わってくることになるためだ。

 分体での攻撃手段が増えるかもしれないと期待した時もあったが、はっきり言ってしまうと今のところはあまり良い成果を得られているとは言い難い。

 世界樹(木)の分体が火の魔法を使おうとすると、どうにもイメージが邪魔されている気がして集中が途切れてしまうといったことが起こるのだ。

 あくまでも感覚的な問題だと分かってはいても、どうしても上手く行かないので今は保留にしているといったところだ。

 もしかすると種族的な問題で封じられているなどの理由も考えられるのだが、全く使えないというわけではないところが問題をややこしくしていたりする。

 

 俺自身の問題はともかくとして、眷属たちは順調に属性進化を繰り返していき個人個人の強化もしっかりと済ませていた。

 今回も姿かたちが大きく変わるような縦の進化をした眷属はいなかったが、その代わりに子眷属はさらに多様性が増している。

 因子を得ることによって扱える属性が増えた結果、クインたちが張り切って新しい属性を持った子眷属を増やしたお陰だろう。

 さすがに子眷属すべてに与えられるほど魔石を作ることができるわけではないので、誕生時の属性がその後の成長に大きく影響を与えることになる。

 

 眷属たちが管理する予定になっている準眷属については、ほぼノータッチなので今のところはあまり状況が進んでいるようには見えない。

 一番進んでいるのがあまり期待していなかったファイが管理するゴブリンで、以前と比べても目に見えて変化が起こっている。

 見た目はあまり変わっているようには見えないが、明らかに戦闘に対する意識がいい方向にも悪い方向にも進んでいるように見えるのだ。

 最終的に管理しているのがファイなので、ユグホウラにとって悪いようにはならないと思いたいところだが、あまり変な方向に進むようであれば注意が必要になるかも知れない。

 

 そしてまずは日本列島の攻略を進めると以前決めたことによって、眷属たちの動きもより具体的に動くようになってきた。

 やはり一つの的に絞って動く方が効率が良くなるのかと反省する部分もあるのだが、大陸方面の攻略も完全に止めたわけではない。

 とくに東側にあるはずの大陸進出に関しては、造船が続々と進んでいる。

 船を扱うための子眷属の育成も同時並行で行われているので、このまま行けば強力な海軍も生み出されることだろう。

 

 意外だったのは操船に関しては、蜂や蜘蛛の子眷属よりも蟻の子眷属たちがその力を発揮したということだろうか。

 これまで荷運び屋として十二分に力を発揮していた蟻の子眷属だが、どういうわけか操船に関しても適性があったようだ。

 勿論アンネが操船に適応した種を生みだしたということもあるのだが、それはクインやシルクも同じことを行っている。

 そう考えると蟻種の中に元から操船するにふさわしい能力が備わっていたとしか思えない。

 

 予想外な結果に驚くことになったが、ユグホウラにとっては喜ばしいことでしかない。

 蟻種に適正があるからといって他の子眷属が全くダメというわけではないので、しっかりとその子たちの育成も進めている。

 いかに適正が高かったとしても、一つの種に絞ってしまえば弱点を晒すことになりかねないことには変わりがない。

 そういう意味においては、複数の種を育てておくのは必要最低限だという考え方で進めている。

 

 そんなこんなで、二つの公爵領を得たといっても相変わらずいつもと変わらない日常を過ごしつつもある程度変化のある日々を過ごしていた。

 人族の動きについてもあまり大きな変化はなく、中部地域の攻略を始めたユグホウラにとってはやりやすい状況が続いている。

 できることなら人族の統治はこのまま安定していて欲しいと思っているが、そう上手くはいかないのが世の常というものだろう。

 そのためにも今は、できることから着実に組織強化を進めて行くことに注力している。

 

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 ユグホウラのトップとしての日常を過ごしながらその日の疲れは、とある場所で落とすことがここ最近の日常となっていた。

「ふー。やっぱり疲れを落すのは温泉が一番だな」

 自然の石で囲われた露天風呂に浸かってそう感想を漏らしたのは、完全に顔なじみになっている龍の人ラッシュだった。

 俺も人のことは言えないがラッシュさんも温泉好きらしく、ほとんど見ない日はないくらいに顔を合わせている。

「できることならサウナがあればいいと思うのですがね」

「あー、それは確かに。作ろうと思えば作れなくはないが、やはり管理は必要になってくるからな」

「そういう意味では、あまり手を入れる必要がない露天風呂が作れただけでもよかったと思うべきでしょうね」


 ここ最近広場に出来た温泉施設は、管理人不在の解放施設になっている。

 一応入場料という名のお金は取っているのだが、完全に払う人プレイヤーの自由意思によって値段が決められている。

 とはいえこのサーバーにいるプレイヤーは全員が元日本人ということもあって、最低額くらいは決めておかないと入場自体を遠慮してしまう者もいた。

 というわけで日本円にして三百円ほどを最低料金として、それ以上払う場合はご自由にというシステムになっている。

 

 何故そんなシステムを採用したかといえば、受付のための人員を削減するためだ。

 いつでも自由に入れる温泉施設ということを目指した結果、人を使うよりも好き勝手に入れるようにした方がいいだろうということに落ち着いたのだ。

 ただ受付がいらないとはいっても、掃除などの建物を管理するための人員はどうしても必要になる。

 それを解決したのは以外にも運営で、なんと自動人形ロボットに近しい存在を貸し出してくれたのだ。

 

 ちなみにこのロボットは、別のサーバーでプレイヤーが作ったものらしく家政としての能力は最低限備えているという代物だ。

 俺たちがいるサーバーからすればオーバースペックもいいところだが、ロボットが作られているサーバーは機械文明らしくそこまで高性能というわけでもないらしい。

 別のサーバーが関与している物品はこの家政ロボットが初ということになったわけだが、プレイヤーが自由に買えるわけではない。

 やはりそこは上司の意見が尊重されるらしく、俺たちの世界ファンタジーにロボットを持ち込むのは駄目だということになっているようだ。

 

「プレイヤー同士の交流の場もできて、他のプレイヤーも解放者を目指すべく頑張っている。となると、あとは何が起こるのかね?」

「さあ、どうでしょうね。あの上司も考えているようで考えていないところもありますから、このまま特に何も起きないということもあるのではありませんか?」

「まあな。それに流されて生きていくか、あるいは反発し続けていくのか、どうなっていくかは興味深いが少なくともこのサーバーは後者になることはない気がするな」

「確かに。何故なんでしょうね」

「…………自覚がないというのは、幸せになるための一つの条件なんだろうな」

「はい……? どういう意味でしょうか?」

「いや。なんでもない」


 ラッシュさんとそんな会話をしつつ日常の疲れを癒すのであった。




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