(8)準眷属と準公領

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 いずれ大陸の攻略を始めた際に領土の管理を準眷属に任せるという案は、タマモを見ていて思いついたことだ。

 タマモの場合は、彼女の事情がありそれがこちらの事情とたまたま上手くかみ合ったからこそ上手く行った例でしかない。

 だからこそ準眷属というタマモ以上の縛りがある存在であれば、ある程度任せても良いのではないかと考えるようになっていた。

 とはいえこれから増えていくであろう準眷属すべてを俺自身が直接管理するのは難しいのは目に見えているので、管理を眷属たちに任せることにしていた。

 それだと今度は眷属たちが忙しくなる……と思わなくもないが、今まではたくさんの子眷属がいるかたった一人で頑張っているかのどちらかがほとんどだったのでそれぞれが上手くやればどうにかなると考えている。

 そういう意味で一番うまくやっているのは、やはり既に準眷属を従えているラックということになるのだろうか。

 クイン、シルク、アンネの多産系の三人はもともと部下を使うのが上手いので、準眷属という存在が増えても軽くこなしてしまう気がする。

 今まで直接子眷属が管理していたものを準眷属に任せることになるので、管理部分を準眷属に任せればいいだけになる。

 

 問題が起こりそうだとすれば、これまで戦闘一直線で動いてきたファイだろうか。

 だからこそ「ライバルをつくる」という迂遠な方法を提案してみたのだが、これがどうやらいい燃料となったようだった。

 あの会議が終わってすぐに、俺と一緒にゴブリンの元に行って今後はファイに任せることを伝えたあとは、張り切って模擬戦闘にいそしんでいた。

 これまでのファイであれば手ごたえが無さすぎると渋い顔をしていたのが嘘のような変化だった。

 

 その模擬戦闘で何を見出したのかはわからないが、数日後には数体のゴブリンを連れ回る姿が見られるようになっていた。

 ちなみにそれらのゴブリンはごく普通のゴブリンで、里を統括しているゴブリンジェネラルではない。

 何気なく聞いた話によるとゴブリンジェネラルは既に完成されつつあるので、自分で育てるには面白くないという言葉が返ってきた。

 なんにしても部下を育てるという喜びを見出した(?)ファイには、今後も期待したいところだ。

 

 ファイに大きな変化があったことは喜ばしいことだが、彼以外の眷属にもそれなりに変化が起こっている。

 さすがにファイのようにいきなり準眷属の部下を見つけてくるなんてことはしていないが、それぞれに目星を見つけようとしていた。

 もっともルフ&ミア夫婦のように、全く準眷属を迎え入れようとしない例もある。

 狼種はもともと一種で群れる性質があるのと多産系とまでは行かないまでもそれなりに多くの子を産むことが出来るので、準眷属は必要ないと考えているらしい。

 それはそれで一つの意見なので、俺としても無理に準眷属の部下を作るように言うつもりはない。

 そもそも狼種に期待しているのはその早い足を使って広い領土を見守ってもらうことなので、一つの種だけで管理できるのであれば特に問題はないのだ。

 俺によって重要なのは、それぞれの眷属がそれぞれ独自の考えを持って領域の運営に関わって貰うことなのである。

 

 眷属たちを見守りつつ広場と行き来をしながら日々を過ごしていると、ようやく長い冬の終わりを迎えようとしていた。

 そんな時期に飛び込んできた大きなニュースは、タマモが管理している領土がついに公領化できるくらいにまで広がったというメッセージだった。

 ユグホウラから見ればムサシの地は準領土だったわけだが、それが公領化した時にどうなるのかが非常に興味深い事例となる。

 ついでにいえば、俺が公領化するときにはシステムを使って自由にボスを出していたわけだが、それがどうなるのかも知りたかった。

 

 結論からいえば、タマモの場合はメッセージは頭の中で言葉として流れてくる形で起こって、ボスを出現させる場合も同じように脳内処理で終わるらしい。

 これは領土ボスを倒す場合も同じとのことで、今更ながらに領土ボスの時がどうだったかを細かく聞いていなかったことを思い出していた。

「――それで、今すぐに倒すことにしたというわけですか」

「うむ。折角そなたが整えてくれた舞台だからの。このまま勢いに乗らない手はあるまい」

 そう言ってきたタマモに、こちらとしては何も言うことはない。

 そもそも魔物は本能的に行動している部分があるので、無理に止めたところで聞かない場合が多いのだ。

 

「そういうことなら止めませんが、十分気を付けてください」

「ハハ。誰かに心配されながら戦いに向かうというのも久しぶりだの。何。そなたのお陰で以前よりも我自身も強くなっておる。我が子たちも言わずもがな。これで負ければそなたに合わせる顔がないからな」

「そうですか。いずれにしてもよほどのことが起きない限りはこちらから手出しをするつもりはありませんので、そのおつもりで」

「うむ。わかっておる。我がこの地の支配者となるには必要な手筈らしいからの」


 タマモが爵位を得るには、タマモ自身か彼女の眷属がとどめを刺す必要がある――はずだ。

 実際にはやってみないことにはわからないが、初めてのことだけにまずは確実だと思われる方法を取ることにした。

 こちらの眷属は一切手を出さなずに見守るだけというのは、確実にタマモが公爵位を得るための手段の一つである。

 タマモには事前にその説明もしたうえで、今回の戦いに挑むことになっている。

 

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 俺たちのようにゆっくりと時間をかけて準備をしたわけでもなく、いつも通り(?)に公領ボスに向かって行ったタマモ勢力だが、こちらの心配をよそに勝利という結果を収めることができていた。

 ――と、言葉にすると簡単だったようにも思えるが、実際には死闘といってもいいほどにはお互いにギリギリの戦いを繰り広げられたらしい。

「らしい」というのは、俺自身は戦闘の場にはおらず戦いを見守っていたシルクから話を聞いただけだからである。

 経過はどうあれ、タマモ側が勝ちを収めたことで目論見通りにタマモはムサシの地の公爵位を得ることができたようだった。

 それについては、俺自身にもメッセージとして流れて来たのでタマモ本人に直接確認するまでもなかった。

 それでも直接話をする機会を設けたのは、これから先のことを話し合う必要があると考えたためである。

 

「――まずはおめでとうございます。それで公爵になってみてどうですか?」

「ありがとう。そなたたちがいなければなれなかっただろうからの。何とも複雑な気持ちだな」

「おや。こちらの手出しはいりませんでしたか」

「いや。そうではない。そなたたちに対しては感謝しかない。そうではなく、やはり我ら単独では無理だったと改めて実感できたからの。そういう意味で複雑だと言ったのよ」

「そうでしょうか? いずれはできたと思いますが」

「そう言ってもらえるとありがたいがな。とにかくこんなに早く公爵になれたのはそなたのお陰であることは間違いあるまい。ありがとう」

「そうですか? いえ、今は素直にその感謝は受け取っておきます」


 遠慮を続けていればいつまで経っても同じような会話が繰り返されると判断して、タマモの感謝を受け入れることにした。

 これは謙遜でもなんでもなく、ユグホウラがいなければタマモがムサシの地を公領化するのはまだ先だったというのは紛れもない事実だからだ。

 ここで謙遜を続ければ、ただの嫌味になりかねないと考えたということもある。

 とにかくタマモがムサシの地の公爵となったことで、計画が一歩進んだということは間違ないことなのであった。




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