(7)準眷属の活用法

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 今後広くなるであろう領域の管理については準眷属を使うということで良いとして、眷属たちには他に言いたいこともあった。

「――以前にも言ったと思うけれど、君たちも準眷属を使いたいというのであれば言ってくれればいいからね。ラックの時みたいに」

 今現在空からの偵察で活躍している鳥種の準眷属たちは、ラックからの申し出で受けれた者たちだ。

 彼らの活躍を見てなのか、あるいはこちらの扱いを見てなのかはわからないが、初期に申し出てきた鳥種以外にも多くの鳥種が準眷属になっている。

 どこかで数の制限はかけないといけないかもしれないが、今のところ空を飛べるというだけで十分に役立つので来るたびに受け入れている状態である。

「例えばだけれど、人族との対応は今のところクインのところがメインでやっているけれど、人の姿を取れる準眷属にやってもらうということも考えていいんじゃないかな?」

「それはクインの手柄を取り上げるということになりませんか?」

「さすがにそれはないよ。というか今はまだ何とかなっているけれど、領域の拡大と同じように必ず人族との対応も増えていく。そうなれば蜂種だけじゃとてもじゃないと手が足りなくなる――と思うんだけれど、どう?」

「……確かに、おっしゃる通りですね。ただ人の姿を取れる魔物もさほど多くはありませんが?」

「そうなんだけれどね。ユグホウラの多様性を見せるという意味では、数少ない種を受け入れるのも有りかと思ってね」

 こんなことを考えついたのは、広場で龍の人ラッシュさんや鬼な人であるダブリンさんを直接目の当たりにしたからである。

 場合によっては、これまで無害な存在として放置していた精霊たちを保護という名目で取り込んでいっていいとも考えている。

 勿論、前提として準眷属として希望する種族か個体に限られるという制約はあるのだが。

 

「多様性ですか。確かに人族を相手にするにはそれもいいかも知れません」

 今のところ一番多く人族と接しているクインがそう言いながら頷いていた。

 ちなみにこの世界――というよりも日本本土ではヒューマンやエルフといった多くの人族が、町で暮らしているかそれぞれの種でまとまった村を作って暮らしている。

 幸いなことにヒューマン至上主義のような考え方は見られないので、多様性という考え方の方が受け入れられる土壌があるといえる。

 

「揚げ足を取るわけではありませんが、そういう意味ならわたくしの子たちも活躍できると思いますわ」

「確かにアラクネならね。中には人の足の形態になれる子眷属がいることも分かっているよ。というか、だからこそ人の町に近いダンジョンに行かせているんだし」

 今のところマキムクダンジョンにいるルファの相手を主に行っているのはシルクの子眷属で、これは万が一に人の目についても大丈夫なように人の形態になれる者たちに行ってもらっているためだ。

「ただクインだけからシルクのところの子眷属が増えたといっても、やっぱり無理があると思うよ。だからこその提案なんだし。とはいえこれは無理にというわけではなくて、あくまでもその方法があるという選択肢の一つというだけのことだからね」

「ガウ?(無理に準眷属を作る必要はないんだな?)」

「勿論。それぞれ特定の準眷属を作るにしても相性なんかもあるだろうしね」

「ガウ(それならわかった)」


 ファイが納得したところで、別の疑問があると手を上げたのはラックだった。

「今後私たちが準眷属を管理することになると、今いるゴブリンたちが特別扱いされることになると思いますが、いいんでしょうか」

 現在でも鳥種の準眷属はラックが管理していることになっているが、ゴブリンたちは実質的には俺が管理していることになっている。

 そもそも実験的な名目で準眷属にしたこともあっての名残なのだが、それだと問題が発生するのではないかという意見だ。

「それなんだけれどね。ちょっと前の思いついたんだけれど、ファイに任せてもいいかなと思ってるんだ。さっきの言葉と矛盾しているようで申し訳ないんだけれど」

「ガウ?(俺か?)」

「うん。だってさ、ゴブリンが鬼へ特殊進化するってことはもうわかっているんだし、だったら敢えて狙ってライバルとかを育ててみるのも良いかなってね。同じ種だと上手く行かないんだろう?」

「ガ、ガウ(ラ、ライバルか)」

 同じ系統の強さのライバルを得られるということへの魅力を感じたのか、先ほどまであった準眷属なんかいらないという雰囲気が若干変わっていた。

 ちなみに戦闘という意味での強さであれば、ルフやミアも負けてはいないくらいに強かったりする。

 ただし戦い方の系統が全く違っているので、ファイからはライバルというよりも良き同僚として見られている傾向がある。

 

「まあ今はなしたことは今すぐにというわけじゃないから、各自考えてくれればいいよ。既に準眷属がいるラックなんかは、鳥種以外のことを考えて見てもいいだろうしね」

「確かにそうですね。仰る通り考えてみます」

 何やら悩ましい顔になっているファイをよそに、他の眷属たちが納得した顔で頷いていた。

 今回の準眷属云々という話はあくまでも眷属たちが管理することになるので、俺の手が煩わしくなるといったことにはならないはずだ。

 

 エゾやマツシリの管理を始めて分かったことは、大陸や日本列島を領域化して管理するのはどう考えても眷属だけでは手が足りないということでだった。

 どの歴史上でも広すぎる領土が管理しきれなくなって領土の縮小や国自体がなくなったなんて話は、いくらでも存在している。

 そうならないようにするためにも数に限りのある眷属や子眷属に頼るのではなく、他の種を積極的に受け入れることを考えて行きたい。

 ただし土台となるエゾに関しては、あくまでも眷属だけで管理ができるようにするというのが最低条件とする。

 

 ゴブリンたちを見ている限りでは準眷属が裏切りを行うというのは考えづらいのだが、この先領土が広がり爵位が上がることによって大きな変化が起きるかもしれない。

 あの『上司』のことなので、内乱とか反乱イベントがあってもおかしくはないという疑いさえ持っている。

 もっとも運営がこの世界に直接手を入れてくる可能性は低いとも考えているのだが……。

 いずれにしても、今のうちから出来る限りの手を打っておかないと、後になって困ってから動き始めても遅いということになりかねない。

 

「――そういうわけだから、今のうちに上手く行くか失敗するか、とりあえず試しておきたいってことかな。失敗しても今なら規模が小さいだろうから大した被害も起きないだろうしね」

「大陸の広い領地を任せていざ何かが起こったら、修正するのが大変になるというわけですね」

「そういうこと。それに準眷属が駄目だったとしても、日本列島くらいなら眷属と子眷属だけでも管理は出来るよね?」

「それくらいなら大丈夫でしょうね」

「だよね。まあ、今のところ完全に予想だけれど日本列島を完全制覇したらまた何か出てくるだろうという推測もあるんだけれどね。もしかするとその時に新しい手段ができるかもしれないし」

「日本列島というと、本土を含めてさらに南にあるいくつかの島を含めた領域でしたか。確か主がいた元の国の範囲ということでしたね」

「そういうこと。以前の人生の範囲と全く同じになるとは限らないけれど……何かが起こってもいいんじゃないかという期待もあるんだよね」

 

 それはあくまでも個人的な期待でしかないが、眷属たちは納得してくれていた。

 ただただ信仰のように盲目的に信じているだけなら問題なのだが、違った場合も含めて考えてくれているからこその態度だった。

 その推測が外れたとしても、眷属たちなら笑って許してくれるだろうという甘えもあるのだが、そのことも含めてアイ辺りは見抜いているだろうという確信があった。




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