(6)管理の方法
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恐らく東北地域の制圧が目前だろうと考えていたところで、その予想から少し狭い範囲のところで公領ボス出現(予定)のメッセージが流れてきた。
俺の認識では東北そのものを考えていたのだが、こちらの世界での東北(?)は福島に当たる地域が狭い範囲で区切られていたらしい。
陸地の形は同じでもそのあたりの区切りは違っているというのが何ともいやらしいが、そもそも元の世界の日本さえも時代時代によって行政区域が違っていたのだから当然かもしれない。
それはともかく、三度目となる公領ボス戦は俺がほとんど関わることなく始められることとなった。
これから先すべての公領ボス戦に出るわけにはいかないという理由もあるが、眷属たちから子眷属たちの能力アップのために俺自身が出るのは止めてほしいと頼まれたためだ。
既に領土ボスが同時に行われていることを考慮すれば、大陸の攻略を始めた時には複数の公領ボス戦が同時に始まるなんてことも考えられる。
今のところは領土ボスや公領ボスはこちらで始めるタイミングを握っているので、滅多なことでは重なることはないはずだ。
ただしタマモのような存在がいた場合には、システムに縛られずに戦いが始まる可能性もある。
それを考えれば、いつでも好きに始められると考えると命取りになることもあり得るだろう。
とにかく今後のことを考えれば、今回の公領ボス戦を眷属たちに任せるというのは必要なことだったと思う。
そんな言い訳をしつつ眷属から結果の報告を待つこと数時間後。
無事に公領ボスを倒したというメッセージが流れてきた。
一応眷属の誰かが報告をしてくるはずなのでそれを待っていると、ドラゴン形態になって空を飛んできたランカが勝利報告を持ってきた。
東北には既に転移装置を設置してあるので、ずっと空を飛んできたのではなく間は転移装置で省略してきたようだった。
その報告から数日後には、久しぶりに眷属全員が集まって報告会のようなものが開かれることとなった。
「――まずはお疲れ様。全く犠牲もなしに……とはいかなかったみたいだけれど、とりあえずは無事に終わってよかったよ」
「それを言うと予定していたよりも犠牲は少なかったです。主様からのお言葉を聞いて見ながら適度に張り切ったお陰ですね」
俺の言葉に真っ先に答えたのはクインだった。
ちなみに俺からのお言葉というのは、簡単にいえば「簡単に死ぬのは許さん!」というのを非常に遠回しに言っておいたのだ。
それでも暴走する者が出てくるのは、やはり魔物という存在である以上は仕方のないことなのだろう。
眷属たちの顔を見る限りでは、犠牲が予想より少なかったというのは本当だということもわかる。
「少なかった……まあ、いいか。ちゃんと慰霊碑に名前は刻んであげてね」
「それは勿論。と、言いたいですが、名前のない者がほとんどですがどうしましょう?」
そもそも魔物は個体個体に名前を付けるという習慣がないので、子眷属であっても名前のない者が多い。
「あー。どうしようか? ○○戦線犠牲者と一つにまとめるのも何だかなあ……。それは後で考えようか」
生まれてくるすべての子眷属に俺が名前を付けるというのも現実的ではないので、恐らく今後も名前のないまま逝ってしまう子眷属は出てくるだろう。
そのたびに後付けで名前を付けるというのもおかしな話なので、慰霊碑に刻む名前問題はこれから先も出てくるだろう。
何かいい解決策があればいいのだが、最終的には「○○戦線犠牲者」みたいな感じで一括りにまとめて終わりそうな気もする。
この問題は長引けば長引くほど先に犠牲になった者が置き去りにされてしまうので、早めに決着をしたほうがいいかも知れない。
「それよりも今は今後についての話をしようか」
「今後? 本土の制圧を続けるのではありませんか?」
「勿論それもあるけれどね。そっちの話じゃなくて、今回公領化したオウウの統治についてだね」
「おや。これまで通りでいいのではありませんか?」
クインに変わってそう問いかけてきたのは、人型に変化しているラックだ。
「今はまだ大丈夫だろうけれどね。今後領土が増えてくると、どう考えても眷属とか子眷属だけで管理するのは難しくなってくる。だから今のうちからある程度準眷属に任せることも考えて行こうかなってね」
「準眷属というと、あのゴブリンどもにですか」
「ゴブリンは数が増えやすいから兵としては優秀だけれど、他の魔物を統治するとなるとちょっと問題がある気がするんだよね。勿論、今後のことを考えればそういうことがあってもいいと思うけれど。
――そうじゃなくて、現地採用で希望者を募ってもいいかなってね。管理を任せるわけだからそれなりの強さも必要だろうけれどね」
俺がそう言うと、話を聞いていた眷属たちは黙り込んでしまった。
それもそのはずで、そもそも公領化ができているということは事前に主力魔物の討伐が終わっているということに他ならない。
となると残っているのはそこまで強くはない……もっといえばいつでも討伐できる魔物しか残っていないという言い方もできる。
そんな魔物に領域の管理を任せることができるのかと考えているのだ。
「大陸のことを考えれば確かにそのほうが良いのでしょうが……上手く行くでしょうか? タマモ様のようにちょうどいい存在はそうそう出てこないと思いますが?」
「なるほど。タマモと一緒だと考えていたのか。元になっては準眷属だからね。タマモとはまた違った存在になると思うよ。それこそあのゴブリンたちの誰かが管理すると考えればいい。皆はその準眷属だけ見ていればいいことになるから、今より格段に楽になると思うよ?」
「考え方はわかりますが、本当に大丈夫でしょうか?」
「うん。大丈夫かどうかを含めて確認するってことだね。失敗したら失敗したで、またその時考えればいいだけだし。領域が広がって手が付けられなくなってから動き始めるよりも今のうちから失敗しておいた方がいいよね?」
話をしていると失敗を前提に考えているようにも思えてくるが、俺自身は基本的に失敗するとは考えていない。
今のところ準眷属は鳥種とゴブリンしかいないのだが、彼らを見ているだけでも準眷属が世界樹にたてつくとは思えないのだ。
むしろその可能性が高いのはタマモの方だと考えている。
とはいえ実績を積み重ねていかなければ、眷属たちが信用できないと考えるのも理解できる。
「とりあえずは領域単位で見ていって、信用できるようであれば領土を任せるようにすることもできるよね? それに、さすがにタマモみたいに公領を任せるようなことは考えていないよ」
今はまだと心の中で付け加えると、ようやく眷属たちの中で納得する者が出てきた。
その筆頭がアイだったのは、俺と同じように準眷属に対しての感じ方が他と違っているからなのかもしれない。
「私はそれでいいと思います」
アイがそう宣言すると、これまで黙っていた他の眷属も納得していったのだ。
彼らにしてみれば、アイがそう言うのならといったところだろうか。
これは別に俺に対しての信用が無いというわけではなく、アイがそれだけ眷属から信用を得ているということなのだろう。
広い領土の管理問題については、今後も色々と問題が出てくるはずだ。
それを解決するために、数に限りがある眷属に任せておくわけにはいかない。
そう考えての今回の提案だったが、それが上手く行くかはこれからもゆっくり時間をかけて見て行かなければならない。
眷属の数を増やす方法が分かっていない以上は、それ以外の方法を探っていかなければならないのである。
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