(5)大陸方面

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 広場で様々な情報交換をしていると細かいところで必要な情報が手に入ったり、情報提供をしたりと色々と発見がある。

 だからといってずっと広場に入り浸りになるわけにはいかず、基本的に生活の拠点はホームに置いている。

 ひとつ気になる大きな情報があるとすれば、ホームとハウス、そして広場の時間経過についてだろうか。

 ホームとハウスでの時間経過が違っていることは既に知られていることだが、広場ができたことによってその違いがほとんどなくなってきているのではないかという考察が掲示板に上がっていた。

 広場ができてプレイヤー同士の直接交流ができることによってハウスに戻ることがより少なくなっているが、その中でも確かに時間経過の違いが少なくなっていた。

 プレイヤーの中で一番時間経過の差が大きいと言われている俺は、特にそのことを実感していた。

 ただ時間経過の差が縮まっていることは、広場ができる前から感じていた。

 このことは、以前掲示板で話されていた転生世界での時間経過は運営が映画やドラマを早送りして見ているという説を裏付けることなのかもしれない。

 

 ――とまあ広場での話はそれくらいにして、転生先であるホームはどうなっているかといえば、こちらは大きな動きはほとんど起きていない。

 敢えて上げるとすれば転生してから何度目かの冬が来て、本格的に雪が降り積もっているということだろうか。

 呑気にこんなことを言えるのは、メインである領域の拡張が完全に俺の手を離れるくらいに安定しているからなのだが。

 俺自身がこっちの世界にいなくても、領域の拡張は順調に進められている。

 

 今では領土ボスすら「討伐に行きます」という事前の報告と「討伐終わりました」という報告だけで済んでいるくらいに安定している。

 勿論犠牲が全くないというわけではないが、出ている犠牲は経験を積ませるために討伐部隊に参加している子眷属が大けがを負ったりするくらいで済んでいる。

 余談だが、領域拡張に関わらず領域の管理で行っている魔物との戦闘のときに出た犠牲者は、ホームにほど近い場所に作られている慰霊碑に名前が刻まれていたりする。

 別に俺から発案したことではないのだが、アイが提案してきたのをすぐに了承して建てられていた。

 

 冬といえば冬の植物でできる冬野菜は、すでにツガル家領内でも本格的に育てられている。

 冬野菜の登場によって余裕ができたダークエルフの里から専門家を派遣していることも、そのことに拍車をかけているのだろう。

 ツガル領へのダークエルフの派遣は俺が提案したことではなく、実務部隊同士で決めたことだ。

 俺は後から話を聞いただけだが、その程度のことは既に俺を通さなくても動くようになっている。

 

 本土方面の攻略は、既に東北地域が公領ボスが出現するまでカウントダウンというところまで来ている。

 その状況に合わせてサダ家がある中部地域の攻略を進めているが、こちらはまだまだ始まったばかりといったところだ。

 タマモが治めることになっている関東は、もとから五割以上攻略が終わっていたこともあって、こちらも公領化するまであと少しといったところだろう。

 タマモが支配している準領域が公領化した場合にどうなるかはまだ未知数だが、それを知るためにも出来る限り早めに頑張ってもらいたいところである。

 

 本土方面は順調な一方で、大陸方面は攻略が止まっている。

 精霊樹がある今は大陸も攻略を進めることができるのだが、とある事情で攻略を止めるように指示を出している。

「――やっぱり予想以上に空からの偵察は難しいか」

「申し訳ございません」

「いや。ラックが謝るようなことではないから」

 人の姿になって報告をしてくれたラックに、軽く手を振ってからフォローした。

 大陸方面の攻略を止めているのは、島であるエゾやマツシリにはそこまで多くなかった鳥系の魔物が多く確認されたためだ。

 鳥系の魔物が多いということは、準眷属である鳥系の魔物を利用しての偵察が進まないことを意味している。

 それに加えて魔物が多いということは、それを統率しているような存在がいるのではないかということを警戒しているのだ。

 

 正直なことを言えば、このまま大陸の攻略を進めるべきかを悩んでいるということもある。

 はっきり言ってしまえば、エゾを完全攻略したあとの領域拡大は惰性で進んでいるところもあって、何が何でも領域拡大したいというわけではない。

 タマモやルファという存在が確認できた以上は、同じような存在で世界樹よりも強力な魔物が出てくる可能性もある。

 その場合にはやはり領域を広げて世界樹自身の強化をした方がいいという考えもあるのだが、あれもこれもと手を広げるよりはまず日本列島の攻略を進めたほうがいいのではないかという考えもあるのだ。

 

 そんなことを言いながら船の開発をして東側にあるはずの大陸(アメリカ大陸)を目指そうとしているので矛盾していると思われるかもしれないが、そこはやはり未知の大陸を見てみたいという欲がある。

 未知の大陸を発見したからと言って攻略を進めるわけではないと心の中で言い訳をしつつも、やはり新大陸発見というのはやってみたいことの一つなのだ。

 アジア方面で使われている船を見る限りでは、ヨーロッパ方面からの新大陸発見はまだされていない……と思いたいが、魔法という存在が普通にある以上は地球での歴史が当てはまるとは限らない。

 そのためにもできる限り早めに進めておきたいという欲があったりする。

 

 そんな俺自身の欲はともかくとして、今は大陸方面の問題だ。

「大陸にいる魔物が多いのは良いとして、問題は地上部隊を送ることを考えなければならないってことか。今は船もあるし」

「そうなります。空から見る限りでは、やはり地上も多いように見受けられますが……」

「だよねえ。……何となくだけれど、自意識のある領土ボスか、もしかしたら公領ボス辺りがいそうな気がするんだよねぇ……」

 タマモやルファという存在が本土にいた以上は、大陸にも同じような存在がいてもおかしくはない。

 二人に接触して感じているのは、システム的に出されるボスではなく、自意識のあるボスは一段上の強さを持っているということだ。

 もしそんな存在が大陸に多くいるとすれば、下手に攻略を進めても無駄な犠牲を増やすだけで終わる可能性のほうが高い。

 

「物量で圧倒してもいいかも知れませんが、その場合は本土方面の攻略が滞る可能性がありますか」

「それもあるし、そもそも物量で押せる相手ではないかもしれないしね。タマモの場合はたまたま多産系じゃなかったというだけのことだし」

「多種族と組むか隷属している可能性もありますか」

「そうそう。複数の種族と連携していれば、それだけ厄介度も増えるだろうしね。そうした諸々を考えると、やっぱり偵察は必要になるよねぇ」

「クインとシルクの部隊に頼まれますか?」

「それは最低限だね。というか既に一部は動いてもらっているし。そこからの返答待ちかな。場合によってはそっちを増やしたほうがいいかも知れないしね」


 空からの偵察が難しいのであれば、地上での偵察は必須になる。

 当然のように蜂と蜘蛛の偵察部隊を送っているのだが、そこからまとまった報告が入ってくるのはもう少し先になるはずだ。

 もしボス的な存在を見つけてくれればそれでよし、そうでなかったとしても今度は地上での攻略を進めることが視野に入ってくる。

 ただ大陸に関しては、エゾやマツシリと違って島ではなく広大な土地があるためにどこまで偵察を進めるかという問題がある。

 

 それらの最終的な見極めは、やはり俺自身が行わなければならない。

 出たとこ勝負になってしまうのはいつものことだが、こういう時は攻略本があればなぁとついないものねだりをしてしまうのであった。




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