(4)属性進化
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横の進化というのがどういう進化になるのかという問題は、掲示板でも散々議論されている。
今のところ一番これが当てはまっているだろうと言われているのは、いわゆる属性進化が行われた場合がそれにあたるということだろうか。
属性進化というのは、例えばゴブリンから鬼への進化やゴブリンからゴブリンナイトのように基礎能力を大きく変える進化ではなく、それまで火の能力しか使えなかったものが水の能力を進化によって身に着けることを言う。
当然使える属性が増えるということは能力が上がるのだが、力やスピードといった基礎的な能力が変わらない場合もあるので横の進化あるいは属性進化と呼ばれている。
ややこしいのは、使える属性が増えたことによって縦の進化(種族進化や正統進化)が起こることだろうか。
例えばこれまで地、水、風の属性が使えたマジックスライムが、新しく火の属性が使えるようになったことでセイジスライムになった場合がこれに当たる。
さらに種族進化や正統進化も何がどう違うのかと言われれば、はっきりとした区別はない。
単純にプレイヤーが分かりやすいように好き勝手区別して読んでいるというのが一番正しいだろうか。
いずれにしても属性進化というのは、これまでなかった属性を増やすための進化ということになる。
わざわざ俺のところまで訪ねてきたプレイヤーたちは、その属性進化について質問しに来たということだ。
……のだが、これまで当たり前のように眷属や子眷属の属性進化を見てきた俺にとっては、少し今更な質問とも言えた。
だからこそあの返答となったのだが、人外系プレイヤーたちは期待するような視線を向けてきていた。
その期待に応えるべく、問いに対する答えを提供し……ようとしたところで、ふとある問題に思い至った。
「……あれ? そういえば、俺自身は属性進化したことなかったから詳しくは知らないですね」
「おいおい。今更それはないだろう?」
根本的な問題を思い出してそれを言葉にすると、ラッシュさんがジト目になりつつ突っ込んできた。
見ればラッシュさんの周りにいる他の人外プレイヤーも似たり寄ったりの雰囲気を醸し出している。
――人外系プレイヤーは見た目が魔物そのものなので表情を読むことは難しかったりする。
「そんなこともあろうかと! ……なんて冗談はともかくとして、アンネ、どう思う?」
俺自身が具体的に分からなかったとしても、数多くの子眷属の進化を見てきているはずのアンネなら何らかの答えを持っているはずだ。
そのアンネは視線だけで答えを言っていいのかと確認してきたので、それに頷いた。
「そうですね……あなたたちに質問何だけれど、ご主人様の属性魔石は使っているかしら?」
「それは勿論。人気過ぎて中々手に入りにくいという難点はあるが、手に入った時点で使っているぞ」
「手に入りにくい……? ご主人様、そこまで数は出されていないのですか?」
「そうだねえ。魔物系のプレイヤーは数が少ないとはいえ、全員分用意するとなると……」
「……おや? もしかして最高級品の話をされています?」
「違うのかい? 高い進化をするにはやっぱり品質のいいものを使ったほうがいいんじゃないか?」
「なるほど、そういうことですか。属性進化できない理由の一つが分かりましたね」
「その言い方で俺も何となくわかったけれど、もしかして進化するには最高級品じゃない方が良いとか?」
俺がそう問いかけると、アンネは軽く頷いた。
そこからアンネが付け加えた話によると、より正確にいえば『魔物の進化はその個体に合った魔石を使って行うのが正しい』のだそうだ。
極端な例を話すとごくごく普通のスライムに、(いるかどうかは別にして)神様が扱うような膨大な魔力を与えたとしても体が耐えられなくなって破壊されてしまう。
それと同じようなことが属性進化にも起こるようで、適切な量の属性を取り込まないと進化が正常に行われない、もしくは折角取り込んだ属性魔力を取りこぼしてしまうそうだ。
それは魔物が自分自身の体を正常のまま維持するという、進化とは真逆と言っていいような作用が起こるらしい。
ちなみに身の丈に合わないような大量の魔力を取り込んで一気に大物に――という進化が絶対に出来ないわけではないそうだが、あまりお勧めできる方法ではないそうだ。……無駄死にする確率の方がはるかに高いという意味で。
「――ということは、ランクの低い魔物が品質の高い魔石を取り込んでも無駄になるということ?」
「完全に無駄になるわけではありませんが、余分な魔力は無駄になっている可能性が高いと思います」
「なるほどねえ」
アンネの説明に俺が納得していると、ラッシュさんが首を傾げながら聞いてきた。
「ということは、俺も無駄に取り込んでいる可能性があるってことか」
「あなたはダンジョンマスターでしょう? しかもこれだけの空間が作れるほどの。でしたら今のご主人様が作れる最高級品を取り込んでもほとんど取りこぼしはないわ」
「要するに、それぞれの個体にあった品質のものを取り込まないと駄目だということだな?」
「そうね。一番いい基準は、やっぱり自分が倒せる魔物が持っている魔石よりも一ランク上だと考えればいいと思うわ。仲間と連携して倒した分も含めてね」
「なるほど。初めのうちは質よりも量といったところか」
わざわざ高い金を出して品質の高い魔石を買うよりも、品質が低くても量をそろえた方が進化にとっては都合がいいということだ。
ちなみに倒した魔物の魔石を取り込む方法はそれぞれの魔物によっても変わってくるが、少なくとも同じサーバにいるプレイヤーはそのことを把握していて独自の方法で取り込んでいるはずだ。
魔石の取り込みについては初期の段階で色々と話されていたが、俺自身は関係がないのでほとんど議論には参加していない。
そこで品質についての話が出ていなかったのが不思議ではあるが、そもそも初期の頃は高い品質の魔石など出回っていなかったので議論にならなかったのかもしれない。
「ところで、キラ。低品質の属性魔石を多く揃えることはできるのか?」
「それは勿論。というよりも品質の高いものを用意するよりも楽にできますが、そこは商人系のプレイヤーに任せたほうがよくないでしょうか?」
「そうか。そういう問題もあったな。品質の高い魔石がいらなくなるわけではないから、そこはキラに用意してもらうとした方がいいか」
「でしょうね。もしそれで足りないようであれば、私が用意しますよ。――どの程度のランクのものが必要なのかは……」
「それこそそれぞれの個体で違って来るので、ここでどうこう言えることではありませんよ。それに、一々こちらからアドバイスするようなことでもありませんし」
アンネがそう答えると他の面々もそれもそうかと頷いていた。
すべての人外系プレイヤーにアドバイスをするというのはさすがに俺も勘弁してほしいので、そこで納得してくれて安心した。
ちなみに品質をそれぞれの個体に合わせたものを必要とするのは属性進化に関する話だけで、種族進化や正統進化には品質の高い魔石(属性魔石ではない)が必要になる場合もあるそうだ。
魔物が進化するにはより質の高い魔力が必要になるからという理由からだが、属性もそれと同じだと考えられていたので今回の話は盲点になっていたそうだ。
そういう俺も今回の話で聞いていなければわからなかったことなので、むしろ話が聞けたのはありがたかったことだった。
とにかく今回彼らが聞きたかった話は属性進化に関してのことで、それ以外には特に何もないということで話は終わった。
なんだかんだで農家の二人とサエさんまで話につき合わせてしまったが、彼らは彼らで興味深い話が聞けたと喜んでいた。
彼らは魔物の進化について直接関係する立場にはいないが、間接的には関係する場合もある。
それでなくともこれから先もプレイヤーとして続けていくのであれば、魔物として活動することもあるかも知れない。
そういう意味では、ここで聞いた話が無駄になるということは無いのであった。
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