(3)育て方
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薬草類が育てられる目途が立ったことで上級薬師のサエが喜んでいたが、ふと思い出したような顔になった。
「そういえば思い出したことがあるのですが。薬草が育てられるのはとてもありがたいのですが、香辛料なんかは育てないのでしょうか? 以前、料理人の方が相談に来ていましたよ?」
「香辛料か。それだったら俺が育てることになっているぞ。相談に来たというのは誰だ?」
今のところプレイヤーで農業を専門としているのは二人しかいないので、広場で育てる分野を分けているらしい。
野菜類は種類が多いので二人で手分けしているようだが、香辛料はアキラさんが担当のようだった。
「そうなんですか。一応農家の方を訪ねてみてはどうかと勧めましたが、まだ行っていなかったのですね」
「俺たちが郊外で畑を作っていることを知らない……なんてことはないか。掲示板でも話題になっていたし」
「はい。ここに籠っている私でも知っているくらいですから、恐らく知っていると思います」
「そうか。それだったら少し待ってみるか。もしまたサエさんを訪ねてくるようであれば、俺が育てていることを教えておいてくれ。有名どころは育てられると思う」
一口に香辛料といっても様々な種類があるので、料理人プレイヤーが何を必要としているかによっても育てられるものかどうかは変わってくるのだろう。
そして香辛料の話が出たことで、そこから話が発展してプレイヤーが必要そうな素材が何であるかというところまで話が進んでいた。
そんな中、ファームさんがふと思い出したような顔になって言った。
「――そういえば、果実系はどうなんだろうな? 料理人は欲しがるんじゃないか?」
「言われてみればそうだなあ。ただ俺っちは、そこまで手を伸ばす余裕がなくてやっていないが」
「それは私も同じだ。それに、どちらかといえば私たちよりも専門家がいるじゃないか」
ファームが専門家と言ったところで、三人の視線が俺に集まった。
「あ~。確かにイメージ上そちらのほうが専門だと思われても仕方ないのでしょうが、さすがに果樹園なんかは扱ったことはありませんよ?」
「それはそうだろうが、育てられないってことは無いだろう?」
「まあ、そうですね。ただあまりやりたくはないというのが本音でしょうか。あまりに手間暇がかかりすぎるので」
「キラさんは攻略組でもあるからなあ……。樹木の育成に手を取られたくないというのは分からなくもないな」
「確かにな。ここにきて果樹園まで作るとなると……さすがに無理か」
専門ではないとはいえさすがに農家を名乗っているだけあって、樹木を育てる手間暇のことをしっかりと理解しているようだった。
そもそも二人が果樹園にまで手を伸ばしていないのは、同じように時間がかかりすぎるからという理由があるからだ。
あれもこれもと手を出すと、どちらも中途半端になることはよくわかっているのだろう。
というわけで人の手が入っている果樹園の育成は諦めた……のだが、話をしている間に一つの案が浮かんでいた。
「……そういえば、育てるのに手間暇をかける時間はありませんが、自然に育つのを待つことはできますね」
「……言われてみれば、確かに」
「……植えたものを放置するという発想がなかった……」
「ウフフ。さすが農家の皆さんですね。いえ。木の人さんは違う……のでしょうか?」
首を傾げながら視線を向けてくるサエさんに、俺は同じように首を傾げた。
「少なくとも農家かと言われれば違う気もしますが……どうなんでしょうね?」
「いや、何故ここで私を見てくる? 当人が分かっていないものを他人である私が知るはずもないだろう?」
「いや。姉御だったら分かるかと思って」
「だから姉御はやめい。――ったく。何故にキラにまでそんな呼び方が浸透しているんだ?」
「広場ができた以上、掲示板内は基本的に雑談で溢れますからね。ファームさんみたいな人は格好の対象になるのではありませんか?」
「……まったく。それなら私以上のキラがいじられないのは何故だ?」
「キラさんは、木の人だからな!」
何故かここではっきり断言してきたアキラさんに、俺とファームの視線が突き刺さった。
二人からの視線に気づいていないはずのアキラさんだったが、まったくめげずにいた……どころか逆に胸を張る始末だった。
それを見て分が悪いと判断したのか、ファームさんはため息をついていた。
そしてふと何かに気付いたように、その視線を別の方向に向けていた。
ファームさんの視線を追って俺もそちらに向けると、五人ほどの集団でこちらに向かって来るプレイヤーがいた。
彼らの姿かたちはバラバラで、それだけで人外系のプレイヤーが集まって移動していることが分かった。
「まだ店は開いていないはずですよね。何故こんなところに来ているのでしょうか?」
「いや。何故も何もキラ目当てで来ているのだろう?」
「はて? 特に急な用事はなかったはずなんですが?」
「急な用事というか、目的は私たちと同じだろうな。魔物に関する話で聞きたいことがあるとかじゃないか?」
「ああ。なるほど」
ファームさんに言われてようやくそのことに思い至った俺は、納得して頷いた。
彼らの目的が俺だと分かったところで、このままこの場で待たせてもらうことにした。
デパート自体はかなり広めに作られているので、人外系プレイヤーの集団を目撃してから一分ほど待つことになった。
そして彼らが近づいてくるとその中から代表して既に面識のある
「随分と珍しい組み合わせ……だと思ったがそうでもないのか。俺たちはついつい攻略組として考えてしまうが」
「私らはむしろキラの種に助けられた組だからな。それよりも、何か話があってきたんだろう?」
「ああ、そうだった。といっても話があるのは俺じゃなくて彼らなんだがな。俺はあくまでも顔繋ぎだ」
ラッシュさんはそう言いながら後ろにいた残りの四人……ではなく六人を見た。
近くに来るまでわからなかったのだが、残りの四人の人外系プレイヤーの方やら背中の上にネズミと猫が乗っている。
遠くから見た時にはひとまとめに見えていたので、四人(とラッシュ)だと誤認したのである。
「顔繋ぎはいいですが、ラッシュさんが答えられないことで私が答えられることなんてありますかね?」
「それはあるだろう? 特に進化に関しては俺はまだまだ分かっていないことだらけだぞ?」
「それは私も同じなのですが。まずは質問が何かを聞きましょうか」
俺がそう問いかけると、鬼な人であるダブリンさんが進み出てきた。
「時間を取ってもらって済まないな。さっきまでこいつらと話をしていて疑問が出てきたんで来たんだが、そもそも横の進化ってどうすればいいんだ?」
「……おや? これはまた随分と単純な質問ですね。その辺の話は掲示板で散々されていたと思うのですが?」
「そうなんだが、よくよく聞いてみればたまたまなったとか、基本的に偶然進化できた者がほとんどでな。もしかすると木の人であれば狙って進化しているのではないかと思ったわけだ」
「なるほど……話は分かりました。……ですが、正直にいえばその方法に気付いていなかったということの方が驚きなのですが?」
「ほう。そういう言い方をするってことは、やはり思い当りがあるんだな」
俺の答えに、ラッシュさんが期待するような視線を向けてきた。
思い当りも何もずばりそのものの答えがあるのだが、むしろ他のプレイヤーがそのことに気付いていなかったことの方が驚きだった。
掲示板でも散々その話が出ていたと思うのだが、どうも気付いていないプレイヤーも多かったということなのだろう。
そう考えた俺は、改めて進化と魔石の関係について話をすることにした。
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