(2)生産プレイヤーの動き
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他人から見れば妙なところで意見が合うのも、やはり同職かそれに近い職だからだろうか。
とにかく成長する植物を見守るという点においては、他の二人と同じ意見なようだった。
「――ところで今作っている作物は良いとして、こちらには薬草師とかいましたか?」
「薬草師……? キラさんが言いたいのは、薬草なんかを専門に育てているってことか?」
「そうですね。そんなイメージでいいかと思います。薬師がいるくらいだから薬草師がいてもおかしくはないと思ったのですが」
「確かに言いたいことは分かる……んだが、残念ながら私は見たことがないな」
「俺も姐さんと同じだな。そもそも薬草関係は自生しているのを採取するだけで、栽培は不可能だったはずだ」
「……おや? そうなんですか?」
「そうだな。私もアキラと同じ認識だ。というか、そんな言い方をするってことは、もしかしなくとも薬草類が育てられるということか?」
「やったことは無いのでわかりませんが、恐らく出来ると思うのですよね」
「それは、また――」
俺の答えを聞いたファームが、何故だか少しあきれたような表情になっていた。
いや。その表情の意味は何となく分かってはいるが、敢えて無視をすることにしたのだ。
そのままファームの表情には気付かなかったフリを続けて、ごり押しで話を続ける。
「どうせ育てるでしたら薬師などの意見も聞きたいと思っているのですが、どう思いますか?」
「あのな――いや、いいか。とにかく薬師の意見を聞くというのは、私も賛成だ。全く手を付けていない分野だけに、さすがにアドバイスのしようもない」
「俺も同じく。それにしても、キラさんがもし薬草類を育てることに成功すれば、俺たちにも可能ってことかな?」
「できるんじゃないか? ……ちゃんとした条件が分かれば、だが。世界樹としての能力だと言われてしまえば、私たちにはどうしようもない」
「だよな。うーむ。残念。もしあっちの世界で育てられるなら、一儲けできるだろうに」
「今のところ『捕らぬ狸の皮算用』だがな。――とにかく薬師だったか。確か店を開く準備でデパートにいたような……」
「おや。それは好都合ですね。てっきりあちらの世界で活動していると思ったのですが」
「今の生産系プレイヤーは、広場で店を構えることに重点を置いているらしいからな」
そう言ってきたファームの話を詳しく聞くと、生産系プレイヤーは転生世界で商売を広げるよりもまずはこちらで稼ぐなり技術を磨いたほうがいいという流れになっているらしい。
転生世界で腕を磨こうとするとどこからか横やりが入ったり、同業者の嫉妬にまみれたりと色々と面倒が起こる。
それらの視線を避けるために、広場を使ってどこからも文句をつけられないくらいの技術なりを身に付ければ、転生世界に戻った時にその技術で身を守ることができるようになる。
それが生産技術を磨いていくのに一番の近道だろうというのが、今のところの大方の意見になっているようだ。
そうした話が掲示板に上がったことで、生産系プレイヤーそれぞれが広場に店を構えるなり工房を持つように準備を進めているということだ。
「――言いたいことは分かる気はしますが、広場に重点を置きすぎるとあちらの世界が疎かになるのではありませんか?」
「そこはほら。あっちの世界と広場の時間の流れが同じであることを利用して、といったところか。いっそのことあちらの世界からは姿を消して――ということを選択肢に上げるプレイヤーもいるほどだ」
「それはまた。……いや。もともとが根無し草であることを考えれば、その選択肢もありということでしょうか。それでもこれまでの期間で人間関係を築いてきたプレイヤーも多いでしょうに」
「そうだな。だからそんな極端なことをするプレイヤーは、ごく一部だ。私だってあちらの農地を放ったらかしにするわけにはいかないから、行ったり来たりだしな」
「俺はもともと放浪癖のある農場主だと思われているから、今更数日消えたところで何も言われないぜ」
「あー、なるほど。アキラさんのような生産系プレイヤーもいるですね」
ちょうどいい実例が目の前にいたことで、極端なことを言うプレイヤーがいることも納得できた。
最初から各地を放浪しているようなプレイヤーであれば、今更広場に根を張ったところで特に問題がないというのは理解できる。
そんな話をしつつ皆でデパートへ向かうと、そこでは幾人かのプレイヤーが忙しそうに出店準備をしていた。
薬師プレイヤーであるサエさんの居場所については、ファームさんがきちんと把握していた。
今のところ薬草を生産できる目途はついていなかったが、今後話をすることもあるかも知れないときちんと繋ぎを取っていたらしい。
その辺りはさすが解放者になったプレイヤーだけのことはある。……だったら俺はどうなんだという突っ込みが来そうなので、声に出していうことはしなかったが。
サエさんが確保しているテナントは、デパートの二階の一角にあった。
周囲に比べると敷地自体は割と小ぶりではあるが、売る物が薬系であればそれで十分なのだろう。
他に来客もなくテナント内で何やら準備を進めていたサエさんは、俺たちの姿を驚いた様子で見ていた。
そしてその中にファームさんの姿があることに気付いて、笑顔を向けていた。
「――いらっしゃいませ。といってもまだ何も準備はできていませんが、何かありましたか?」
「開店準備で忙しいだろうに済まないな。以前にも少しだけ話をしたが、薬草類の生産について少しな」
「農業系の皆さんがいらっしゃるのでそうではないかとは思いましたが……木の人さんもですか?」
「何を言っている。攻略組として見られがちだが、私たちにとってはあり得ないくらいに先を行っているプレイヤーだぞ?」
「いや、ファームさん。さすがにそれは持ち上げ過ぎでは?」
「言い過ぎなものか。冬の種から始まって、通常の作物についても都合のいいように改良がやりたい放題だ。そんな農家など見たことがないぞ?」
「確かにそうでしたね」
ファームさんの言葉にサエさんがあっさりと同意したので、こちらの反論の言葉を封じられてしまった。
もっともこちらが反論したところで分が悪いということはファームさんの言葉でわかっていたので、無駄な抵抗はしなくても済んだと言えるのだが。
「それはともかく、木の人さんまでいるということは、もしかしなくても薬草類の生産のめどがついたのでしょうか?」
「それも含めて一度君に確認してみようということになってな。――キラ、ここから先は任せた」
そもそもはこちらが提案した話なので、ファームに話を振られても驚きはなかった。
「はい。といっても確認したいことは簡単なのですが――そもそも
自分のところの世界で人族が使っている薬草についてはある程度知識はあるが、サエさんが使っている薬草がどんなものかは分からない。
もしかすると全く違ったものを使っている可能性もあるので、わざわざ確認しに来たのだ。
そのことが分かったのか、サエさんも「ちょっと待ってください」とだけ言ってすぐに店の奥へと消えて行った。
もっとも消えていたのはほんのわずかな時間で、すぐに手に何かを持って現れた。
「――こちらが薬に加工する前の薬草の一つです。ショップなんかで仕入れているのを見る限りでは、他の世界とも変わりはないと思いますが……」
「確かにそうですね。これなら私も見覚えがあります」
「ほう。ということは、もしかすると……?」
「そうですね。この広場で量産することも可能……だと思いますよ。一応、ちゃんと育つかは確認しないとわかりませんが」
俺がそう答えると、この場にいた他の三人のプレイヤーの表情が明るいものになるのであった。
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