第17章
(1)広場の農地
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広場の解禁のお陰でプレイヤー周りは非常に盛り上がっているが、転生世界ではいつもとやっていることは変わっていない。
敢えて上げるなら稲荷神社の宮司から連絡があって、例の巫女たちを預けることに決めたという連絡があったくらいだろうか。
ただし急な話なので預けるのは次の春からということにしたいということも合わせて伝えられて、それを了承したのでまだどちらの巫女も来ていない。
どうやら宮司は、二人同時にこちらに送ることに決めたようだった。
理由は色々とありそうだが、二人の間に差をつけるのではなく同じように修行をさせることにしたのだろう。
それで自分のところの神社は大丈夫なのかという問題はあるのだが、大きな行事以外は他の巫女で事足りるそうだ。
大きな行事がある場合は周辺神社から巫女を呼ぶこともできるそうなので、神社としての運営は問題なく行えるとのことだ。
それよりも世界樹の巫女(仮)として修行させる方が、神社としてもメリットが大きいと判断したということだろう。
そんなことをしているうちに雪が降り始めて、ホーム周辺は完全に雪の世界となっている。
処女航海も何事もなく終えて戻っていたイショウは、冬になって南に降りてきていた北極海からの流氷に向けて進んでいる。
目的としては、流氷がある中を進むことができるのかを調べることがあるのだが、本当に帆船でそんなことが出来るのか、少し懐疑的に見ている。
アイを始めとしたドールたちは自信を見せているが、まずは実際にやってみることでそれを証明するらしい。
なんでも魔法を駆使して船の底の方を温めながら流氷を壊して(溶かして?)いくそうだが、分厚い流氷に対してそんなことが出来るのかと半信半疑なのだ。
もっとも帆船云々を抜きにして、魔法を使えば流氷をどかしたり溶かしたりすることはできるので、実験が失敗したとしても流氷に閉じ込められるということは避けられる。
船の機能として流氷をどうにかする機能をつけているのは、一々魔法を唱える必要性をなくすためである。
いくら魔法に長けた眷属を船に乗せたとしても、永遠に魔法を唱え続けられるとは限らないのだ。
冬の間も領域攻略は順調に進んでいるが、東北方面はトウドウ家があるためいくつかの領土化どまりになっている。
関東に関してはタマモが頑張っているようだが、今のところ公領化するには至っていない。
サダ家がある中部は、ようやく手を付け始めたといったところなので、領土化すら行われていない。
ちなみに東北方面のトウドウ家の領地は、人の手が及んでいない領域に関しては既に領域化を始めている。
領土化できるところも領土化し終えているので、東北で領土が八割に達するまでカウントダウンが始まっていると考えている。
トウドウ家の問題は残ったままなのだが、こちらは連合に任せるべき問題だと考えているので今のところユグホウラから口出しをするつもりはない。
攻略が順調に進んでいるということは新しい因子も続々と手に入っているということで、眷属たちの進化も次々に行われている。
成長が顕著なのはやはり後発組の三人で、一番わかりやすいのはやはり人の姿を取ることができるランカで、見た目だけでいえば十八前後の姿を取るようになっている。
勿論見た目だけではなく、能力もしっかりと伸びてきていて領土ボス相手では片手間で倒せるようなレベルになっている。
ちなみに先発組の中でも戦闘に特化しているファイなんかは、もしかすると公領ボスもタイマンで倒せるのではないかというくらいになっているらしいが、今のところ相手がいないので試したことはない。
公領ボスは得られる経験も多いので一対一で倒す予定は今のところないが、いつか余裕ができればやらせてみても良いと考えている。
勿論、その場合は何が起こってもいいように後ろで他の誰かに待機していてもらうつもりだが。
そんな感じで冬の間はあまり大きな動きがないということもあり、俺は眷属を伴って広場に向かうことが多くなっていた。
広場だと時間の流れが転生世界と同じだということも、入り浸る(?)理由の一つになっている。
今回連れてきている眷属はアンネで、それにはちょっとした理由が含まれていた。
今俺たちがいるのは、プレイヤーが購入した建物が立ち並ぶ住宅街(?)ではなく、その郊外にある農地だ。
以前話に上がっていた娯楽施設的なスペースのほかに、農家のプレイヤーが農地を開発し始めているのだ。
今のところ農家関係の職に就いているプレイヤーは特級農家(精霊)と豪農の二人で、ファームとアキラと名乗っている。
ちなみにアキラは俺の「キラ」と似ているが、これは別に偶然でもなんでもなく以前の世界での名前が二人とも「アキラ」だからという単純な理由からだ。
俺もアキラも以前の世界のことを隠すつもりがないので、別に名前から過去が割れても問題がない。
ファームは掲示板での言動で勘違いされがちだが、完全に大人の女性で見た目も何気に美形と言っていいくらいには整っている。
一時掲示板では残念お姉さんと言われたりもしていたが、当人は全く気にしたようすもなく過ごしているようだ。
そんな二人と協力して行っているのが、広場での農地開発で特に新規作物の生産に力を入れることになっていた。
別に転生世界で開発をしてもいいのだが、やはり元の世界が同じであるためか、一人で行うよりも新しい実験が進むらしい。
それは俺も同じなので、こうして頻繁に農地に出入りしているというわけだ。
ちなみに作った作物は、そのまま料理系プレイヤーに卸すことになっている。
農地はできたばかりなので、今のところ初回の収穫もまだ――だったのだが、今現在始めての収穫が行われている最中だった。
「――これで通常の作物は普通通りに収穫できることが分かったが、問題は実験で植えた作物か」
「そうですね、姐さん」
「だから姐さんはやめというに。……全く。アキラは少しは木の人を見習ったらどうだ?」
「え~。無茶を言わないでくださいよ。あんなサクサクと畑を作るなんて、俺には無理です」
「それは同感だな。私も少しは使えると思っていたが、あれを見るととてもではないが追い付いたとも思えないな」
「その気になればその日のうちに収穫まで育てられるんじゃないですかね? その辺はどうなんですか、木の人……じゃなくて、キラさん」
「どうでしょうねえ。やろうと思えばできなくはないですが、やはり土壌の問題であまりやりたくはないですねえ。あとは作業感が半端なくなるので」
農地魔法を使って作物を成長させれば確かに一気に成長させることはできるが、栄養関係で後々あまりいい影響を与えない。
一回収穫をしてから土壌改良などをして再び農地魔法を使うなんてこともできなくはないが、正直にいえば面倒くさい。
魔力が続く限りは農地魔法、収穫、土壌改良と繰り返すことは可能なのだが、元が世界樹ということで補正がかかっているのかそれらの魔法で使われる魔力は極端に少ない。
結果として一日中繰り返しても魔力がまだ余るくらいなので、ただの作業になって面白みも全く感じなくなってしまうのである。
そんな話を二人にすると、何故か同時に感心されてしまった。
「なるほど。さすがキラだな」
「確かに折角の収穫をただの作業で終わらせたくはないかぁ……。ただの刈り取りマシーンになってしまうもんな」
「そういうことですね。それに、ゆっくりと成長していくのを見守るのもこれはこれで乙なものだと思うのですよ」
「「同感」」
二人揃って同意したところを見ると、やはり農家をやっていることだけあると妙なところで感心してしまうのであった。
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