(10)広場の今後

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 稲荷神社での話し合いから数日経ったある日、俺はシルクとクインを伴って広場を訪ねていた。

 俺自身は既に何度も来ていてそのたびに眷属も連れてきているが、シルクとクインは今回が初めての訪問になる。

 人族とタマモやルファの対応で忙しくなっている二人は、何だかんだで最後になってしまっていた。

 広場に来てすぐは物珍し気に辺りを見回していた二人だが、席に着いている今は普段通りの落ち着いた様子になっていた。

 そして俺たちが今いる部屋には、他の解放者であるプレイヤーが集まっていた。

 この部屋は、解放者がマナについて自由に話せる場所として作られている。

 広場内でマナについて話そうとすると解放者以外には声が聞こえなくなる(認識できなくなる?)という仕様になっていたので、敢えてそういう場が必要だろうと設けられたのだ。

 当初は解放者だけの場所として作ると特別感が出てしまうのではないかと言われていたのだが、今ではむしろ解放者以外のプレイヤーから歓迎されている。

 

「――それにしてもここも随分と落ち着いてきたな」

「自分用の住居を求めるプレイヤーには生き渡っているからな。未だにレンタルハウスにいるのは十人くらいだろう?」

「そうですね。それくらいです」

 ラッシュを皮切りに、以下ハル、ショウと続いて現状の広場について話していた。

 

 レンタルハウスというのはデパート用に作られた建物に用意されたプレイヤーの部屋で、そこにそれぞれの転移世界から来るようにするための転移陣が置かれている。

 自分用の住居を手に入れた場合は必要ないのだが、そうでない場合はレンタルハウスを借りてそこに転移陣を置くようにしているのだ。

 ちなみに未だに住居を手に入れていないプレイヤーは、借金するのは嫌だ! ――という理由で資金が貯まるまでレンタルハウスで済ますつもりのプレイヤーである。

 考え方は人それぞれ……というよりも、俺も借金はできる限り遠慮したいので今ほどに稼げていなければ同じようにしていただろう。

 

「建築ラッシュが収まったから俺はこれから暇になるからいいとして……これで終わるのか?」

「どういうことでしょう?」

「いや。ハウスと違って時間を意識せずに済む寛げる場所スペースが作れたのはいいとして、これだけで終わっていいのかなと」

「そういうことですか。ただ広場をつくる目的は、当初は生産系プレイヤーが対面接客できるようにということでしたからね」

「だなぁ。お陰で俺たちはこれからが忙しくなると思うぞ。そろそろ設備投資も終わっているプレイヤーが増えてきているだろうしな」

「この場に建物を作るために資金を使ってしまったプレイヤーも多いでしょうから、さらに生産品もとなるとしばらく間が空くでしょうね」

「こっちも素材なんかが揃っていないから、いきなり発注されても作れないことがあるだろうがね」


 生産組の素材問題に話が及んだところで、ようやく話に混ざるタイミングが来たと話に混ざることにした。

「素材でしたらそれぞれお渡しすることも可能ですが? 勿論、きちんと対価をもらった上でですが」

「それは当然だ……が、そうか。キラであれば確かに素材は沢山持っていそうだな」

「ありがたいことに。そうすると初期に回す分として出すくらいでいいでしょうか。下手に大量に卸すと、他のプレイヤーが入る余地がなくなりそうですが」

「そうですね。そうしてもらったほうが良いでしょう。戦闘組もこちらに素材を卸せば儲かると分かれば、きちんと売ってくれるようになるでしょう」

「そこは俺たちのやり方次第だな。そう考えると、各世界ごとにあまり物価の差がなくて助かったな」


 広場ができる前から分かっていたことだが、少なくとも同一サーバで活動しているプレイヤーの世界間では物価の差というのがあまりない。

 勿論まったくないというわけではないのだが、地域間の差程度で収まっている。

 それぞれの世界の文明レベルが同程度なので、そうなっているのだろうという意見をほとんどのプレイヤーが支持している。

 これから先、それぞれの世界の特産品的なものが見つかればまた相場なども変わって来るのかもしれないが、今のところはそのような物があるという報告は受けていない。

 

「ところで今まであまり気にしていませんでしたが、物質汚染など気にしなくてもいいのでしょうか?」

「うん? ショウ、どういうことだ?」

「簡単に言ってしまえば、元の世界でも生物の外来種問題なんかがあったではありませんか。それの異世界バージョンですよ」

「なるほど。規模がでかいと言えばでかいが、確かにそうした懸念もあるな」

 ショウの言葉に、ハルが納得した表情で腕を組んだ。

 その二人と他のプレイヤーの様子を見て、自分以外に気付いていないのかと分かったところで、俺自身の考え方を話してみることにした。

「これはあくまでも私見ですが、あまり気にする必要はないと思いますよ?」

「ほう。何故だ?」

「ここにいる皆なら分かると思いますが、マナの移動という目的に適っていますから」


 俺がそう言うと、他の解放者プレイヤーは虚を突かれたような表情になってからすぐに納得のものに変わっていった。

 マナというのはその場に留まっているだけでは何の意味もないということは、世界樹やダンジョンマスターの存在からも明らかだ。

 何もしなければその場に留まったままもマナを移動させるために俺たちのような存在がいるのだが、そうした観点で考えれば物質を通して世界間でマナを移動させるというのもその目的に合っているといえる。

 むしろ広場ができる前からプレイヤー同士で者のやり取りをさせていたのは、そうした目的があるのではないかと思えるほどだった。

 

「それに、これは逆説的になってしまいますが、世界間の物質汚染が問題なのであれば運営がとっくにストップをかけていると思います」

「確かに言われてみればそうだな。――だがまあ、一応確認は取っておいたほうがいいか。折角すぐに話せる場所に運営がいるんだしな」

「そうでしたね。答えを貰えるとは限りませんが……この件に関しては問題なさそうです」

『プレイヤーの生き様を見て楽しむ』ことを目的にしている上司なので、必要だと思えば情報は適切にくれるのだ。


 それよりも俺がこの場に来ているのは、一つどうしても確認したいことがあったからだ。

「プレイヤーが落ち着いてきたのは良いとして、やはり広場は単に商取引だけに場になるのでしょうか?」

「なんだ。何が言いたい?」

「いえ。キラさんの言いたいことはわかりますよ。というか既に掲示板ではそうした話が出ているようです。折角の安全な広い土地があるのだから農地なんか作れないのかというのがその筆頭でしょうか」

「農地……そうか。ここは魔物が出てこないから農家にとってはありがたい場所といえるか」

「それ以外にもどうせだったら温泉とか欲しいという話にまで発展しているようですね」

「温泉……気持ちはわからないでもないが、いや、確かに言われてみるとほしくなってくるな」

「保養地とか娯楽施設として広場を開発していくのもありということか。それは考えていなかった……が、確かにあるといいな」

 ある意味としてプレイヤーの欲望が暴走しかかっているともいえるが、ただただプレイヤー同士の交流の場でしかなかった広場に新たな目的というか目標が出てきているともいえるだろう。

 

 温泉地を作るとなれば泉源を探さなければならないが、これに関してはダンジョンマスターであるラッシュがすぐに「できるぞ」と断言していた。

 何の目的で用意されているのかはわからないが、ダンジョンマスターの能力でそうしたものを設置できるようになっているらしい。

 ラッシュが泉源の設置ができると言ったところで、特に女性陣の目の色が変わっていた。

 勿論女性陣だけではなく、俺も含めた男性陣も温泉施設は気になるようで、すぐに具体的な話へと移っていくのであった。




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