(7)稲荷神社

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 ラックによる悪戯もどきの初対面を果たしたあとで、当人から何故今更人型になるようにしたのかと理由を問いただした。

 結論から言ってしまえば、今後人族とのやり取りが増える中で男もいたほうが良いだろうと考えたからとのことだった。

 優男風味でできる男の雰囲気を漂わせながらニッコリと微笑まれると、こちらとしても「そうか」としか返すことができなかった。

 ラックの言うとおりに、人型になれる男の眷属がいた方がいいのは確かなのだ。

 俺への悪戯云々については、人型になるための進化をしてから思いついたそうだ。

 ラックが人型になれることはクインもこの時初めて知ったそうで、情報統制(?)についてもしっかりとされていた。

 妙なところで変な気合を入れているところがラックらしいとも思ったが、それを口にすることはしなかった。

 ちなみにクイン以外の他の眷属にも言っていなかったそうだが、アイには何となく気付かれていたようで「流石アイ様です」と言っていたのが印象的だった。

 

 ラックの人型騒動についてはこの後他の眷属にも広がっていくことになるのだが、俺自身が直接確認できたのはこの時のクインだけだった。

 それぞれで様々な反応を示されたとにこやかに笑いながら言ってきた様子をみるていると、どうしても悪戯っ子という印象がぬぐえなかった。

 黙って立っていれば美形男子の名をほしいままにできるのだろうが、何故だか大人になり切れていない年代の男子といった感じを受ける。

 梟の姿の時はそんな印象は受けないので、敢えて狙ってやっているのかと疑いたくなるほどだ。

 

 そしてそんなラック騒動も落ち着いた頃に、今度はシルクからとある情報がもたらされることになった。

 その情報をくれたタマモを頼りにして、俺はレオとランカ、それにユリアを伴ってムサシの領地内にある神社を訪ねていた。

 その神社は『お狐様』を以前から祀っていて、ある程度タマモとの繋がりもあるようだ。

 もっともタマモ自身が直接関わったことは無く、配下にしている狐の魔物が関係しているらしい。

 

 何故わざわざその神社にユリアを連れて来たかといえば、どうも歪みに関しての情報を持っているかもしれないという曖昧な話を聞いたためだ。

 歪みについてはタマモも「何となく」しかわからない状態だそうで、詳しいことはよくわかっていないので曖昧なことしか分からないそうだ。

 というわけで直接話を聞くために、こうして出向いてきたというわけだ。

 ちなみに現在俺とランカとユリアの三人は室内に通されていて、レオは外で待機している。

 

「――わざわざお時間を作っていただきありがとうございます」

「何の。世界樹様自らがわざわざこんな古びたお社にご足労いただき、恐縮の限りです」

 誰がどう見ても緊張しているのだろうという態度の宮司に、できる限りの笑みを浮かべながら返した。

「そんなに緊張しなくとも大丈夫ですよ。お話が通っていると思いますが、こちらの神社について聞きたいことがあるものですから」

「勿論私が知りうる限りはお話しするつもりですが、お役に立てるかどうか……」

「こちらにとって有用な情報が無かったとしても、いきなり切り捨てたりするようなことはありませんから安心してください」

「は、はあ……」

 一応安心させるつもりで笑みを浮かべながら言ってみたのだが、どうやらその効果は薄かったらしい。

 微妙に引きつった笑いを浮かべている相手を見て、すぐにその笑いを引っ込める羽目になってしまった。

 

「では、早速本題に入らせていただきます。こちらの神社では狐の魔物……ではなく、お狐様を祀られてきたということで間違いないでしょうか?」

「ハハハ。狐の魔物で構いませんよ。皆様を相手にして何をと言うかもしれませんが、今の価値観にはそぐわないことは理解しておりますから」

「いやいや。そもそも私たち自身がそちらの部類なのでそれについてどうこう言うつもりはありません。――そもそもこちらの神社はどれくらい前からあるのでしょうか?」

「そうですな。一応言い伝えでは三百年以上前からと伝わっておりますが、正確なところは分かっておりません」


 三百年前となると、ちょうどタマモがこの地に居着いた時と時期が被る。

 もっといえばムサシの地にフジワラ家が根を下ろした頃といってもいいだろう。

 目の前にいる宮司はタマモとの関係はないのだろうが、もしかするとフジワラ家の関係者が何らかの関与をしているのかもしれない。

 そう考えた俺は、直接そのことを聞いてみることにした。

 

「こちらの神社はやはりフジワラ家と関係があるのでしょうか?」

「確かに初代はフジワラ家ゆかりの者でした。具体的にいえば、初代の嫁がフジワラ家の血縁だったそうです」

 こちらの世界の神社では神職にある者が結婚をしてはならないという取り決めは特にないそうで、この神社を開いた初代はしっかりと妻帯者だったらしい。

「その初代が何故この神社を始めたのか理由は伝わっているのでしょうか?」

「理由というか『狐は神の使いである』というのがそもそもの起こりになります。それ以外にといわれると……ああ、一つあるとすれば初代の奥方は狐と話ができたという言い伝えがありますね」

「狐と話を……? それは、あなたとつながりがある魔物ではなくでしょうか?」

「どうでしょう。もしかするとあの方と同じ狐なのかもしれませんが、詳しく聞いたことはありません。申し訳ございません」

「いえいえ。謝っていただく必要はありませんよ。必要がなければわざわざ聞くようなことではないですしね」

 ちなみに今代の宮司と連絡を取っている狐の魔物は、野生で発生した魔物をタマモが仲間にしたそうなので、初代と関係があるかと言われると微妙かもしれない。

 

「初代と狐の関係についてはわかりました。それで、実はここからが本題になります」

「なんでしょう?」

「こちらの神社の巫女には『周囲を神の力で浄化する』という役目があるそうですね」

「ああ、確かに。ただ、はっきり言ってしまうとそれは歌や踊りを神に捧げるものと伝わっておりまして、具体的にといわれると少し心もとないですが……」

「なるほど。何故その芸を奉納するかの理由までは伝わっていないということでしょうか?」

「そうなります。初代の頃からそうだったのか、あるいはここに来るまでに失伝してしまったのかはわかりません。これは私見ですが、恐らく最初から理由はわかっていなかったと考えております」

「それは何故でしょう?」

「このお社には、初代から伝わるものが多く遺っております。そのような大切な言い伝えをうしなったというのは考えづらいというのが私の考えです」

「そういうことですか」


 宮司からこの神社を守っている者としての自信のようなものを感じたので、素直に頷いておいた。

 実際それだけ初代の教えを大切にしてきたからこそ、人々からの視線を気にせず魔物とかかわりを持ち続けて来たはずなのだ。

 そうなってくると、初代の頃から伝わっているという神に捧げるための歌や踊り(舞)というのが気になってきた。

 詳しく聞けばそちらは巫女が担当しているとのことで、その時は思わずこれまで黙って話を聞いていたユリアの顔を見てしまった。

 

 もしかするとそれらの芸能を見れば、なにか分かることがあるかも知れない。

 そう考えた俺は、宮司にいつでも構わないのでそれらの歌や踊りを見せてもらえないかと頼んでみた。

 すると宮司はすぐにでも見せましょうと、それらを披露できる巫女を呼びに向かっていた。




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