(4)解放者の役目
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広場ができたことによって転生世界以外での仕事が増えたのだが、思ったよりもそれだけに時間を縛られるようなことにはならなかった。
というのも、依頼主であるプレイヤーがそれぞれの土地を得るために資金を稼がなくてはならない。
すべてのプレイヤーがすぐに払えるだけの資金を持っているはずもなく、ちょうどいい具合に順番待ちがばらけてくれたのだ。
やろうと思えば投資を使って運営やプレイヤーから金を借りるということもできるのだが、そこまでしていきなり土地を得なくてもいいということになったので焦って土地を得ようとするプレイヤーが少なくなったのだ。
それもこれもデパート(将来)を有効利用する方法を見つけたからだろう。
いっそのことこのまま居着いてもいいのではという話も出てくるくらいなので、広場に土地を求めていないプレイヤーも一定数いるのだろう。
そもそも生活の主軸は転生世界にあるわけなので、そうした意見が出てくるのも当然だろう。
さすがにずっとデパート(将来)に居座られると困ったことになりかねないので、アパートやマンション的なものを作ろうかという話が出てき始めていた。
そんなこんなで広場の騒ぎが落ち着きを見せ始めたころ、転生世界ではそれなりに重要な情報を得る機会を得ることになった。
きっかけは、関西方面にあるダンジョンでマスターと交流をしていた子眷属からの情報だ。
ちなみにこの時点で最初に向かっていたファイは、きちんと話ができそうな相手だということで領域の攻略に戻っていた。
ダンジョンマスターとの話し合いに出向いているのは、最初に面通しをした子眷属が続けて行っている。
ダンジョンマスターであるルファは何と土竜が基本となっている種だそうで、ダンジョンがある地――マキムクの傍に人の町が出来る前からダンジョンマスターとして存在していたようだ。
ダンジョンマスターが外に出られないというのはこちらの世界でも当てはまるようで、ルファ自身は外の世界の情報を求めていた。
何となくだがその話を聞いた時点で話好きなおじいさんというイメージを抱いたのだが、どうやらその感想は間違っていなかったらしい。
話の内容としては、世間話のようなものからこれまで聞いたことのないような重要そうな話まで出てくるそうで、相手をしている子眷属も気を抜けずに対応しているようだ。
その子眷属が掴んできた情報の中に、ダンジョンマスターの役割についての話があったのだ。
そもそもルファはダンジョン入口周辺の土地については一切興味を示しておらず、ユグホウラが魔力的に領域化しても問題ないとしていた。
一応実験的に飛び地になってしまうのも無視して領域化してみたのだが、それでもダンジョン自体には何の変化もなかったそうだ。
結果的に飛び地になった領域はそのままにしているが、未だにダンジョンと反発しあうといったことは起きていない。
それはともかくルファから飛び出した話の中に、ダンジョンと世界樹を含めた領域主の役目について話されたそうだ。
それによるとダンジョンや領域主は、マナを吸収するのが役目ではなく流動するのが主な役目ではないかということだった。
ルファは具体的にそこまでの話はしていなかったのだが、話を纏めるとどうもそう感じているように思われる。
それは何かの証拠を持ってそんな話をしているわけではなく、経験則のもとでの推測のようなものだった。
この話を聞いて何となく確信のようなものを得た俺は、自分の中での推測を交えつつ広場にある家に解放者であるプレイヤーを集めて話をしていた。
解放者専用掲示板で呼びかけてこの場に集まったのは合わせて五人で、戦闘職、生産者、ダンジョンマスターと幅広く集まってくれている。
「――というわけで、解放者にとっての役目はマナを動かすことが目的で、世界樹やダンジョンみたいに吸収することではないと思います」
「……ふむ。なるほど、興味深い」
俺の推論を聞いた魔道士さん――ヒロシが興味深そうな顔になって頷いていた。
「解放者になるのはマナについて知ることが条件だと思っていましたが、それをもとに考えると何らかの方法でマナを動かすことが重要だということですね」
「なるほど。確かに俺みたいな生産者が何故解放者になれたのかと違和感はあったが、そういうことだと納得できるな」
ヒロシの言葉に同意しつつ納得の表情になっているのは精霊鍛冶師であるハルだ。
他にも精霊商人であるショウ、魔女のサキ、龍の人のラッシュも同じような顔になっていた。
解放者になったときに流れてくるメッセージは、それぞれ細かいところで違っていてどれが正しい文章なのかという疑問があったのだが、この推論が正しければその謎が解決される。
一応仮設として「マナを扱うこと」が条件ではないかとされていたのだが、俺が話した内容はさらにそこから一歩踏み込んだものになる。
「マナを扱うようになることが条件ではなく、マナを動かせるようになることが条件ですか。確かにしっくりきますが、少し疑問もありますね」
「ショウさん、その疑問とは何でしょうか?」
「世界樹であるキラさんは、最初からマナを動かしていたのではありませんか? だとすると解放者になったのが公爵になる少し手前からというのは少し推論から外れている気もします」
「確かにそれは俺も引っかかっています。ですが、そもそも魔物の場合は解放者になるための条件があるのではないかと考えています」
「というのは?」
「推論を立てるきっかけになった私の世界にいるダンジョンマスターですが、はっきりとした自我のようなものを得たのはダンジョンマスターになってからしばらく経ってからだそうです」
さらに正確にいえばダンジョンマスターとしての『名前』を得てから自我に芽生えて、同時にマナのことについて気付いたそうだ。
ダンジョンは最初からマナを扱っていたはずだが、意識を得たのがさらに後ということになると、状況としては俺と同じになる。
そこから考えられるのは、世界樹やダンジョンがシステマチックにマナを扱っていても、そこに自我が芽生えて何かの条件を満たしていなければ解放者にならないということだ。
そのことは、龍の人であるラッシュや他の解放者になっていないプレイヤーのダンジョンマスターの存在で証明できると考えている。
「俺か? ……全く分からないんだが?」
「なるほど。言われてみれば、確かにそうかも知れないな」
俺の話を聞いて両極端な反応を示したのは、名指しされた本人であるラッシュとヒロシだった。
特に俺の言いたいことを理解できているヒロシには、他のプレイヤーの視線が集まった。
「龍の人であるラッシュは解放者になっているのに、ネズミな人や霊体な人はダンジョンマスターにはなっているのに解放者にはなっていない。それについては種族的な何かがあるのではと言われていたが、それが条件だと言うのだろう?」
「さすがヒロシさんですね。あくまでもただの推測になってしまうのですが、恐らく間違っていないと考えています」
「……言われてみれば確かに、納得できることではあるな」
俺やヒロシの言葉に納得したのか、相変わらず考え込むような顔になってハルが頷いていた。
他の面々も今披露された推論に穴はないかと考えるような顔になっているが、今のところ反対意見は出てこなかった。
ちなみにこの話は広場にある家で話されているが、たとえ解放者以外が部屋の外で聞き耳を立てていたとしても聞かれる心配はない。
広場ができた時点で案内人さんに確認を取ったのだが、解放者以外はマナの話をされたとしても『言葉』として認識されないようになっているらしい。
一体どんな技術を使えばそんな芸当ができるのか疑問だが、運営のおすみつきがあるので安心してマナについての話をしていた。
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