(2)広場の運営
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俺たちの運命を決めることになったあの日以来の案内人の登場に、集まっていたプレイヤーの視線が集まっていた。
案内人さんは他にもう一人美人さんを連れてきていて、彼女を含めて複数名で今後中央にある建物に詰めることになると説明をした。
「――一応常駐はしますが、あくまでも私たちが管理するのはこの広場にある建物や土地に関することだけです。プレイヤー同士のいざこざには一切関与しません」
「ああ。それが約束だったからな。解放者以外にも伝わっているから問題ないだろう」
代表して龍の人がそう答えると、他の面々も頷いたりしていた。
「そうですか。あと不動産の売買に関しては、当然こちらも利益を得ることになりますが、それもよろしいですか?」
「それも当然だろうな。そうでもしなけりゃ常駐の人間? ――なんて置けるはずもない」
運営に関わっている存在が人かどうかは怪しいところだが、それでも時間を拘束されることには違いない。
それを無償でやるべきだなんてことをいう者はここにはいなかった。
時折子供のようなことを言いだす者もいたりするのだが、どうやら無用の心配だったようだ。
これまでは掲示板という顔を直接合わせることがない場所でのやり取りだけだったが、今後は顔を合わせながらの交流も行われることになる。
それに合わせて金品でのやり取りも発生することになり、トラブルなんかも発生することだろう。
だがこのトラブルに、運営が関与することはないということになっている。
微妙にあいまいな表現になっているのは、例の上司さんが喜び勇んで紛れ込んでくる可能性があるからだそうだ。
もっともその当人は、最初から一貫してプレイヤー同士の諍いには興味がないと宣言しているのだが。
案内人さんからの確認が終わったところで、龍の人さんが一歩前に進み出て皆を見回した。
「――ここで俺から提案があるんだがいいか?」
「何故私に……? 皆も特に意見はなさそうなのでいいですが」
「いや。俺たちの代表は木の人だろう?」
「え? いや、そんなことは……って、何故皆も納得しているんですか!?」
思わず抗議の声を上げてしまったが、どうやらいつの間にやら代表扱いになってしまったらしい。
何故だか隣に立っているアイも納得顔で頷いていたが、それも納得いかなかった。
……のだがここで講義を続けても無駄な抵抗だとすぐに悟ったので、諦めてため息を吐いた。
「私はあっちの領地運営もあるので、ここには頻繁に顔を出せないと思うのですが……それは後で話すとして、龍の人さんの提案は何でしょう?」
「ああ。見ての通りここは役所? ――以外には見事に何もないわけだが、いっそのこと事前に幾つか建物を作って、それをオークションか何かで売り出したらどうかと思ってな。案内人がいる今のうちに聞いておきたかったわけだ。以前掲示板で話したのはこの役所に関してだけだったしな」
「作った建物の競売ですか。システム上はできなくはありませんが、いいのですか? オークションの利益と建物の売買両方で儲けを得ることになりますよ?」
「それはシステムのオークションを利用する時点で織り込み済みだろうさ。競売にかける前に掲示板でも周知しておくしな」
案内さんの疑問に、元から考えていたのか龍の人さんがあっさりと答えを言っていた。
運営がシステム上のショップで利益を得ていることは知られていて、その額もそこまで高くはないことも合わせて皆が納得していることだ。
そもそもオークション(サイト?)と広場の土地管理は別物なので、運営が両方から利益を得て文句を言う者は恐らくいないはずだ。
「そんな提案であれば、別に私を通さなくてもよかったような……とにかく他に反対意見もなさそうなので良いのはありませんか?」
「それはよかった。解放者だけ先に知ってずるいと言われそうだが、それは先行者の特権と言うのがいいか」
「だろうな。そもそも先に勝手に利用者を決めてしまうわけじゃないだろうし、妥当なところじゃないか? あとの問題は値段くらいか」
龍の人に同意しつつ、もう一つの問題を言ってきたのは精霊鍛冶師さんだった。
「それは俺も悩みどころだったんだが、精霊商人どう思う?」
「どうも何も、競売になるのでしたら原価を確実に超えることはわかっているのですから、最初から原価からいくらか上乗せして金額を提示しておけばいいのではありませんか?」
「あー。それもそうか。……そう聞くと俺だけが儲けられるような気がして、少し気が引けるんだがな」
「それはダンジョンマスターの特権でしょう。今はともかく、後になれば別のダンジョンマスターがやってきて建物を作ったりも出来るようになるのですから、そこまで不平は出ないのでは?」
精霊商人さんの言葉に、幾人かが実際に「なるほど」と言っていた。
少なくともこの場に集まっているプレイヤーで、今までのやり取りに不満を覚えているものはいなさそうだ。
そんなことを考えていると、何故かアイが俺の袖をチョイチョイと引っ張ってきた。
「うん? どうかした?」
「ここの土地を買うか借りるかして、その上に建物を建てることはできないのでしょうか?」
「ああ~。それは考えていなかったな。どうなんだろう?」
どうやら自分たちが関与することを考えているのか、アイからの提案に首を傾げることになった。
見た感じは普通の地面に見えるが、普通の建築方法で建物が建てられるかも分からない。
――と、二人でそんな会話をしていると、近くにいた龍の人がそれを聞いていたのか、会話に混ざってきた。
「確かにそれは気になるな。ちなみにここの空間がダンジョンと同じなら普通に建物は建てられるはずだぜ」
龍の人がそう答えると、周りにいたプレイヤーの視線が案内人さんに集まった。
「そうですね。龍の人さんがおっしゃる通り普通に建てる分には問題ありません。ただし土地の権利はしっかりと手に入れてもらうか、地主から許可を得て建てることになると思いますが」
「なるほどね。その辺は実際と変わらないわけか。――だってよ」
龍の人さんが納得しつつこちらを見てきたので、こちらも了承の意味で頷き返しておいた。
こんな会話が行われた後も、それぞれのプレイヤーから細かい確認が行われた。
その内容のほとんどはプレイヤー同士で解決するもので、運営(案内人さん)が会話に入ってくることはほとんどなかった。
そんな中で興味深かった問いがあったのだが、それは『この広場はどちらの時間経過に合わせてあるのか』というものだった。
確かに広場でのんびりと過ごしている間に、転生世界での時間があっという間に過ぎると大変困ったことになる。
それに答えたのは案内人さんで、その答えも『転生世界の方に合わせている』というものだった。
この広場はプレイヤーとプレイヤーが認めた者しか来ることができないが、基本的にはダンジョンと同じ作りになっているらしい。
要するに、ダンジョンに潜っているのと同じ状態なわけだ。
だったら何故、わざわざ転生世界とハウスの時間の流れが変わるようにしたのかと疑問に思っていたところそれが顔に出ていたのか、それにも案内人さんが答えを出してくれた。
それによると『プレイヤーによって時間の感覚が違っているので、敢えてハウスでの時間の流れと変えるようにした』そうだ。
俺のように年単位で物事を進めているプレイヤーがハウスでの時間と同じにしてしまうと、全く進捗がない状態になってしまうのを懸念したとのことだった。
確かに言われてみればハウス内での時間経過で考えれると、まだまだエゾの攻略を進めている最中だったはずなのでその配慮はありがたい。
最近では俺のような人外系は勿論のこと普通(?)の戦闘職系も転生世界で一日過ごしただけだと、ハウス内時間はほとんど進んでいないという状況になっている。
それもこれもプレイヤーの活動時間と内容に合わせて、ハウス内での時間の調整が行われていると考えれば説明がつく話だ。
とにかく時間経過の不思議について一つの答えが得られたことで、幾人かのプレイヤーが納得した様子で案内人さんの話を聞いていたのが印象的だった。
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