第16章

(1)広場

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 広場……の元になる空間ができたという知らせは、解放者専用掲示板で見つけることになった。

 俺の場合は、ハウスと転生世界との時間の流れが違い過ぎて掲示板も放置しがちになるのだが、この時ばかりはそこまで時間をかけずに見つけることができていた。

 俺が見つけた時にはまだ実際に空間を作ったというわけではなく、これから作成するという段階だったのはタイミング的にはちょうどよかったと言える。

 もっとも龍の人が一番の投資者である俺を待ってからが良いだろうとある程度待つことにしていたらしい。

 幸いにも龍の人が掲示板に文面を書いてからさほど時間が経っていなかったらしく、皆をあまり待たせずに済んだのはよかったと内心でホッとしていた。

 ともかく俺が掲示板に書き込んだところで、改めて龍の人が広場を造るために転生世界へと戻った。

 それからさほどの時間も経たずに、ハウス内にある端末からプレイヤー共有空間――広場ができたことを知らせる案内が音声として流れてきた。

 このメッセージはサーバーすべてのプレイヤーに流れたわけではなく、まずは解放者だけに流れるようにしたらしい。

 

 ハウスに音声案内が流れてすぐに端末を確認すると、ステータス画面内に今までなかった項目が追加されていた。

 ただしわかりやすく「New」の表示がされていたのですぐに見つけることができたのだが、これが無ければ見落としていた可能性もある。

 見た目は微妙に安い作りになっているシステムだが、こういったところは行き届いているので普段からありがたいと思っている。

 それはともかく、その文言がリンクになっていたので早速クリックしてみると広場への道の作り方の案内が表示された。

 当たり前だが広場ができただけですべてのプレイヤーが自由に行き来できるわけではなく、まずは広場に行くための道を作らなければならないらしい。

 さらにいえば、道を作るために魔力(マナ)が必要になり、そこそこ高い金額を払って作成することになった。

 俺自身は眷属たちのお陰で稼げているので良いのだが、解放者になっていない他のプレイヤーにとってはそれなり以上の金額だと思われる。

 これだけの金額を一気に払えるかどうかといわれると疑問なのだがその辺はどうなるのだろうかと思いつつ、すぐに案内に従って広場への道を作成し始めた。

 ――ちなみに後で知ることになるのだが、やはりプレイヤーによってはすぐに払えないという者もいたが、それは投資のシステムを使うことで解決していた。

 

 龍の人が転生世界に戻ってから広場を作った時もそうだが、道を作るのにもそれなりの時間がかかった。

 ハウス内時間で三十分ほと待つと、ようやく広場への道が完成したことがお知らせされた。

 ただこの道はあくまでも転生世界と広場を行き来するために使われるものなので、一度ハウスから転生世界へと戻らなければならなかった。

 何のためにハウスから操作をしたのかが疑問だったが、システム的な仕様か何かで必要なことだったのだと思われる。

 

 というわけで早速ホームに戻って確認してみると、まずはステータス画面から道を繋げるための魔法陣的なものを設置しなければならなかった。

 どこに作るかは一瞬迷ったのだが、ホーム周辺にあるドールたちが作った屋敷にある一つの部屋に設置することにした。

 ちなみにこの屋敷は、ユグホウラのトップである俺のために作ったものらしい。

 人族のような生活習慣がないので建物は必要ないのだが、これから対外的な交流も増えるだろうということで作られている。

 

 道の魔法陣設置自体は場所を選ぶだけで、それ以外の時間はかからなかった。

 そしてそのまま道を使って広場へ……と思ったところでふと思いついて魔法陣を見に来ていたアイを連れて行くことにした。

 そもそも眷属などのこちらの住人たちを連れていけるかもわからなかったので、実験も兼ねている。

 一応道を作るときに時間があったので、用意されていたちょっとした説明文を読んだ限りでは駄目だとは書かれていなかった。

 というよりもむしろ、連れて行くことを推奨――までは行かないまでも勧めているように感じていたのだ。

 

 俺が一緒に行くかと誘うとアイも二つ返事で同意してきたので、そのまま道の魔法陣(門と呼ぶことにした)を起動させた。

 起動といっても何かの操作が必要なわけではなく、俺が魔力を通せば動くようになっていた。

 そうした諸々の作業を行ってようやく広場へと着いたわけだが、そこでは何もないだだっ広い空間が広がっているだけだった。

 

 ただし当たり前というべきか、空間の中には建物や自然物らしきものは何もなかったのだが、プレイヤーらしき者たちが揃っていた。

 一目見ただけでも十人以上いることはわかったので、龍の人が書いた文面を見た者たちが来ているのだろう。

 そんなことを考えながら周囲を見ていると、たまたま近くにいたいい体格をした男性が近寄ってきた。

「――よう。もしかしなくても木の人かい? ちなみに俺は精霊鍛冶師な」

「ああ。鍛冶師さんでしたか。確かに俺は木の人です……が、よくわかりましたね」

「何。この時点で眷属を連れて来れるプレイヤーなんて限られているだろう? というか、木の人か龍の人くらいしかいないんじゃないか?」

「確かに……いえ、最近入った吸血系な人がいるのではありませんか?」

「確かにな。だが、さすがにそのはそっち系の見た目じゃないだろう」

 言われてみれば確かに、アイは吸血鬼の特徴とされる赤い瞳や白い髪はしていない。

 

 とにかく精霊鍛冶師さんが俺のことを特定できたのは、アイを連れてきている時点でほぼ確定していたらしい。

 俺たちがそんな会話をしていると周囲で周りを見ていた他のプレイヤーも集まって来た。

 広場作成のメインである龍の人さんは眷属を連れてきていなかったらしく、この場に来ているプレイヤー以外の存在はアイだけだった。

 そもそもプレイヤー以外が来られるとは考えていなかったようで、アイを物珍し気に見るプレイヤーが多かった。

 

 現時点で広場ができていることを知っているのは解放者のみで、その全員がこの場に集まっていた。

 それを確認した龍の人が、早速とばかりに皆に向かって話し始めた。

「今までの掲示板でのやり取りでわかっていると思うが、まずは運営が常駐するための建物を作らなければならん。どのあたりに作ればいいと思う?」

「どのあたりといってもな。何もない現状だと適当に作った場所が中心になるんじゃないか?」

 精霊鍛冶師がそう言うと、他のプレイヤーもその通りだと言わんばかりに頷いている。

「それもそうか。それじゃあ、さっさと作るから少しどいてくれるか? 一応言っておくが、資金は十分すぎるほどに集まっているから心配するな」

「ついでに基準になるように、他の建物も建てておくべきだろうな」

「了解。それじゃあ……これで」

 建物ができるときには、何か魔法陣的なものが浮かび上がって来るのかと少し期待したのだが、そんなエフェクト的なものは何も起こらずに立派な建物が出来上がっていた。

 

「おおー。これがダンジョンマスターの能力か」

「おうよ。もっとも魔力……というかマナを使いまくるから多用はできないんだがな」

「そうなのか。それは良いとして、運営はどうなっている?」

「それは俺も分からん。とりあえず建物さえ作ってくれればいいと言われていただけだからな」


 龍の人と精霊鍛冶師のやり取りに一同揃って首を傾げたが、答えを持っている者は誰もいなかった。

 ただそれを誰かが口にする前に、答え自体が言葉と共にやってきた。

「はい。これで大丈夫ですよ」

 その言葉と共にプレイヤーたちから少し離れた場所に現れた二人組のうちの一人は、間違いなく俺たちをこの世界へと誘ったあの案内人だった。




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